「はなさないで」と君が言う。【KAC20245】

かがみゆえ

「はなさないで」と君が言う。

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「はなさないで」


 君が僕に言う。

 あのさ、日本語って結構ややこしいんだ。

 日本語には一つの単語に対して漢字がいくつも存在して、似た意味もあれば全然違う意味になることがある。


 この場合、『はなさないで』はどの意味なの?

 『離さないで』?

 『話さないで』?

 『放さないで』?

 ほら、今だけで3つもあるよ。


「状況から察してよ」


 う~ん……そう言われてもね。


 僕は今、君と手を繋いでいるし。

 君以外の人とお話してるし。

 空いてるはずのもう片方の手には風船が握られているし。


 君と繋いだ手を『離さないで』欲しい。

 君以外の人と『話さないで』欲しい。

 僕が掴んでいる風船を『放さないで』欲しい。


 どれも『はなさないで』に当てはまる状況だから、どの意味か分からないんだ。

 だから、教えてよ?


 君が僕と繋いだ手を離してくれたら『離さないで』の意味ではなくなるけど、一番最初にやっちゃいけないことになると思う。

 僕が君の手を離した瞬間に、君は怒って帰っちゃうかな?


 君以外の人と『話さないで』になると、道に迷って困ってる目の前にいる人を見放すことになる。

 せっかく勇気を出して見知らぬ僕に声を掛けてくれたのに、無下にすることは出来ない。

 君は僕が道を教えるくらいの時間もくれないの?

 人助けするのを遮るのは良くないと思うよ。


 掴んでいる風船を『放さないで』になると、放してしまったら風船は何処かに飛んで行ってしまうね。

 一度放したら浮かんで放れてしまった風船は二度と戻って来ない。

 手に入れた風船を僕は放すつもりがないから、『放さないで』は守れるよ。


 うん、3つとも当てはまるからやっぱり君がどの『はなさないで』を言っているのか分からないや。

 だから、もう一回聞くね。



「はなさないでって何を?」





「ねぇ、ママ! あのお兄ちゃん、さっきから風船持ちながら一人でお話してるね! なに話してるんだろう?」

「シッ! 見ちゃいけません!」

「あっ。ママー、あのお兄ちゃん一人じゃなかった。赤い服着たお姉ちゃんと黒い服着たお姉ちゃんと一緒!」

「もうっ。なに言ってるの、この子は! 早く帰るわよ!」

「はーい!」





 他の人には“はなさないで”の意味は一つもなかったようだけど、僕には分からなかった。


 - END -

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「はなさないで」と君が言う。【KAC20245】 かがみゆえ @kagamiyue

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