第13話 忍者追放 (シノブ9)
戦いの夜が明け王子は自室にいた。
「処刑は有り得ない。断じてあってはならぬ」
侍医に包帯を巻かせている王子が断言すると大臣が反論する。
この大臣はあのマチョの父親である。ちなみに王妃候補は完全秘密制なので両者の関係は王子には不明である。
「しっしかしですよ王子。これは王法の筆頭でございます。王族に対し危害を加えたものは即時に死刑に処す、ですからこれは疑いもなく」
「俺が勝手に傷ついたに過ぎない。あの娘も俺を傷つけるつもりなど毛頭なかった。だからあのように失神したのだ」
事件は秘密裏に片付けられていく。あの夜は胸騒ぎがした王子が勘を頼りに広場へ行くと、予感通りに戦いが繰り広げられておりマチョがやられる寸前に自らの身を呈して二人の戦いを止めたのであった。
体力の限界及び王子の出現に驚き過ぎたシノブはその場で気絶。恐怖のあまり腰が抜けてしまったマチョは呆然自失。
その二人を王子は各々の自室までなんとか連れて行ったり運びだしたり侍女に指示を出したりした後に部屋へと戻りそれから侍医を呼んだ。
傷は肩を貫かれたものであるものの命に別状はなく、この事件は極一部のものにのみ話し合われるよう箝口令が出し、これにて一件落着にしようとするもしかしこの大臣の一人がこれに食い下がり反対。公式的なものにするべきだと。
「これは大事件であります! 次期王妃の暗殺未遂及び王子の傷害。一歩間違えておりましたら次期王妃も王子も危うく命をお落としになる事態でありまして」
「俺がいたから一歩も間違えず大ごとにはならなかった、違うか?」
治療が終わると王子は肩を縦に振り回した。侍医が顔面を蒼白にするも王子の回転は止まらない。
「おっ! 肩の調子が前よりもいいんじゃないのか? 大きめな針による治療であったと考えたら別に罪ではないな」
「王子は何を言われるのですか! あの忍者はあなたを刀で突き刺しまして」
「いいや違うぞ大臣。俺が自ら刀に刺されに行ったのだ。愛するものを守るためにな。そうであるから忍者は俺を刺そうとしたのではない。俺が忍者に刺されに行った。針治療にいったのと同じことだ」
「王子! 御戯れはもうそれぐらいになさってくだされ」
「ならば真面目に答えよう。この事件のことの経緯はこうだ。事の発端は軽率な俺が王妃選出をあまりにも簡単に決めてしまったことにある。これに対し候補者の心が病みマチョに対して恨みを抱き決闘を申し込んだ。ここで重要なのは俺ではなくマチョに対しての感情だ。選ばなかった俺に対してではなく選ばれたマチョに対しての敵意。ひとえにこれは俺への愛故だ。これに疑いは、ない。そしてその戦いの決着寸前にお節介な俺があの二人の間に挟まり傷を負った。これによりてこれを見れば誰が罪人であるのかは一目瞭然であろう。問うというのならまずはこの罪人である俺についての処罰から始めようか」
しかめっ面となる大臣であったが首を振って抵抗をする。
なにがあっても庇いたてするというのか? と大臣は憤りを感じる。
「王子は罪人ではありません。むしろ被害者の方ですぞ」
「被害者筆頭はあの忍者のほうだ。落選による狂乱そして愛する俺を傷つけてしまっての失神……これ以上にどのような罰を与えるというのか? 俺には想像も出来ん。だいたい俺が自分で振った女に刺された仕返しに死刑を要求するとか格好が悪すぎる。俺にそんな無様なことをせよというのか? 恥をかいてくださいとでも? そちらの方が不敬罪に値するのでは? むしろこの傷はその行為に対する正当な代償であるとすらいえる。よって俺を傷つけたということによる処分はない。俺は自傷したまでのことだ。さて王身を傷つけた俺は処刑するべきか? さぁ大臣よ。これ以上俺に言わせるな」
上着を着た王子は立ち上がり机へと向かう。大臣は反論ができずに焦って考える。
どうすればいいのか? どうしたらあの忍者を始末できる? マチョによればこちらの計画の全てを聞いたとのことではないか。
目覚めて喋り出す前に口封じをしなくてはならない。頭を悩ませる大臣に王子が言った。
「さて、俺のことは良いがマチョの心を思うとなんらかの処分は必要であろうな」
王子の言葉に大臣は喜びのあまり少しばかりジャンプした。そうだ、そこだ、そこしかない。
「はっはいそうです王子! 同意の上とはいえあれは殺人未遂罪でありまして」
「双方同意の決闘なら罪には問えぬぞ。俺が言いたいことはそうではない。これから大切な婚礼の儀の準備が始まるというのに自分の命を狙った相手が城の近くに放たれては、その心は穏やかにはなりはすまい」
期待していたのとは違うものの大臣はここは言いなりになり頷くしかなかった。
兎にも角にも今はあの忍者の罪と罰を決定しなければならない。無罪放免で街に解き放たれては、困る!
「どっどこか遠くに追放なされてはいかがでしょうか! うーんと遠方に行かせて物理的に婚礼の式に出られなくさせては」
「うむ、そうするのが最善であろうな。婚礼の時に襲撃の可能性を考慮したらマチョの心労も募ろう。彼女は敗れる寸前であったのだ。その心を思えばそちらのことも優先せねばな」
そうそうそれでいい!と大臣はここに賭けた。
「いかがでしょうかカワグチコ地方では」
「あそこか。俺の別荘があってちょうど良いが、しかし遠すぎはしないか?」
「それぐらい遠くでないと意味がありません!」
「まぁそれもそうだな。今更脅威ということではないが、容易に戻って来られたら困るというもの。では従者を出して彼女を連れていかせろ。くれぐれも丁重に扱うようにな。俺の妻に国の王妃になる可能性のあった女なのだから」
「はい! 最大限の敬意を以て事に当たるよう致します」
そんなはずはないのである、と大臣は内心でほくそ笑んだ。
あの女は……いや忍者は、殺さなければならぬ。暗殺による抹殺、これしかないのである。
忍者討つべし! 大臣は行動を開始する。
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