【KAC20245】凜と涼
青月クロエ
第1話
(1)
昼休みを報せるチャイムが鳴った。
教科書に代わってお弁当を机にひろげたり、席を立って購買へ向かったりと、みんな思い思いに過ごし始める。
「凜ちゃーん、早く早く!急がんとチョココロネ売り切れてまう!!」
「わぁ待って!!今行くから!!」
財布を手に慌てて席を立った凜の、艶々とよく手入れされた黒髪が背中で揺れる。パタパタと駆けていくスラっとした後ろ姿を、
「ね、今の見た?凜ちゃんのお財布」
「へ?財布が何?」
「
「何が?」
きょとんとする
「凜ちゃんのお財布ブランドもんだよ。めっちゃ有名やつ」
「へー、そうなんや?」
「
「ブランドとか全然興味ないもん」
「いや、あたしも別に興味ないけど……、うちのおかあさんが若い頃買ったやつまだ持ってるから知ってるだけやし」
ブランドネタに話題が逸れそうなので、
「他の子なら背伸びしてるかイヤミに見えるけど、凜ちゃんが持ってるのは違和感ないよね。ってか、凜ちゃんらしくてかっこよく見えるなーって」
「あー、なるほどねぇ……」
「腕時計もたしか
陰口かと身構えたが、友人たちの口振りはどちからというと憧憬が圧倒的に強いようだった。
三か月前、大都市から
目立てば目立つほど出る杭は打たれるかと思いきや、凜はとても明るく気さくで、誰とでも打ち解ける性格だった。彼女を悪く言う生徒を、少なくとも
とはいえ、目立つ子は大抵同じ目立つタイプと主に行動を共にする。
(2)
やっと一日の授業が終わった。
クラスメイトは部活に向かうか、帰宅するかでだいたい二分され、教室を去っていく。あとに残されるのは教室でおしゃべりしたくて居残るか、日直当番かの数人のみ。
なので、普段はHR終わるなり、友人たちと別れの挨拶して自転車でまっすぐ帰宅する。今日も普段通り、まっすぐ帰る筈だった。
「やってまった……」
校門を出て一〇分程して、英語の教科書を忘れたことに気づき、
急いで下駄箱で靴を履き替え、廊下を駆け、階段を駆け上がる。
息せき切って誰もいない教室の扉を勢いよく開けた瞬間、
誰もいない筈の教室にひとり、ぽつんと座っている凜の姿を発見したからだ。
「
「わっ、びっくりした!!
誰もいない教室に人がいたことにも驚いたが、いつも人に囲まれている凛が一人で過ごしていることに二重で驚かされた。対する凜は、「どうしたの?慌ててるの珍しいね」と、すぐに落ち着いた様子で
「帰る途中で英語の教科書忘れたの気づいて……、橋本さんは?」
「ん?」
「何でひとりで教室居るのかなって。あぁ、答えたくなかったら言わなくていいけど」
「んーと、バスの時間待ち」
「バス?でも、学校の近くのバス停本数少なすぎやんね?この時間だと一時間に一本しかなかったんじゃあ……」
「そうなんだよねぇー。次のバス乗るにはあと二十分待たないといけなくて。
この学校では九割の生徒が自転車通学なのは、ひとえにバスの本数の少なさが原因である。涼も例に漏れず。
「待ち時間もったいなくない?自転車通学したら?」
「あー、うん、そうなんだけどさぁ」
凜はえへへ、気まずそうに微苦笑したあと、頬をぽりぽり掻きながら言った。
「わたし、自転車乗れないんだよね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます