第18話

ドンは、ユスティとマーサが見た“ハイルの周りに輝いたもの”が何か、それを自分の目で確かめるためにユスティの勉強時間に顔を出す様になった。

ハイルにどれだけの負担がかかるか見当がつかない──悲しい事にハイルは自分の体に負担がかかる事に慣れすぎていて、本人もまだを理解していない──ため、あの日と同様、通常の勉強の合間にハイルに息抜きと言って魔法の時間を組み込む様にしている。

そして分かったのは、ハイルは全属性の魔法が使える事。

今はハイルの魔力量が分からない──判断するにはハイルに負担がかかりすぎる──ために初歩の魔法で確認したが治癒魔法以外は使えるというのが、エディトの見解である。

治癒魔法は魔力を多く消費するものでハイルの魔力量が分からない今、ほんの少しだけだと言っても試しに使うのも躊躇われる。マーサは人一倍以上の魔力量を持つからこそ、治癒魔法をポンポンと使えるのだ。


ハイルが魔法を使うとマーサとユスティはハイルの周りに輝くものを見る。

何が輝いているのかはやはり不明のままだったが、それはハイルの目の輝きと同じものであると説明した事から、これが見えないドンとエディトもどんな輝きかは想像が出来た。

日を改めてカルロッテとヘレナも“授業参観”と言ってハイルが魔法を使うところを見たが、二人ともハイルの目が輝くのは確認出来たがやはり、マーサやユスティのようなものを見る事は出来なかった。

ヴェヒテも別の日に確認して同じだったが、リネーだけはまた違う事を言う。


「ハイルの目の輝きしか確認出来なかったけれど、俺が契約している精霊がはしゃいだような感じがした気がする。気がする、程度だけど……」



リネーが契約している精霊は風の精霊。

精霊は属性で性格が違うとも言われるが、精霊を研究していたドンは「人と同じで属性に拘らず性格は違う」と考え、リネーもそれを支持している。

なぜなら、ニコライが契約している風の精霊と自分の精霊があまりにも違いすぎるからだ。

リネーの精霊は契約した通りに呼び出せば来てくれるが、来たところで行動してくれるかはである。

リネーもそんな精霊に何か頼むのは不安しかないため、滅多に頼まない。

しかしニコライの精霊は契約したからにはと、ニコライとの契約を必ず守った。そうするのが精霊と人との契約ではあるので、リネーの精霊がのだが、それでもこの差だ。

そしてリネーがハイルの魔法を見ていた時、リネーは自分と契約した精霊が突然現れ興奮している様なそんな空気を感じた。

この空気というのは契約している人間だけが感じる“何か”であって、本人がそう感じたのだからそうなんだろうとしか言えない、“曖昧な”何かなのである。


ハイルが魔法を使うと、マーサとユスティはハイルの周りが輝いている様に感じ、ハイルの瞳は輝き、リネーの精霊が突然現れ興奮した。


またしても謎が深まるハイル。

ドンが自分の精霊を呼び出した上でハイルに魔法を使ってもらおうかと考えている時だった。


とある貴族が持つその領地の美しい森の木が、一夜にして全て枯れた。

何が起きたのか誰も分からない。原因の特定も出来ないまま教会の司教によって浄めの儀式が行われたと、その出来事から七日ほど経った今日辺境地のここへ報告が届いたのであった。

ヴェヒテは報告してきた男に、今分かっている事を報告書に纏めた後その領地へ赴き聞き込んでくる様に、もし原因と思しき事が聞き出せそうであればそうしてくれとも付け加え、彼を下がらせた。

命を受けたこの男は報告書を完成させたらその足でそのまま、件の領地へ、もしかしたら王都までも行くだろう。優秀ゆえに酷使してしまい、その信頼に応えたいと酷使される事を喜ぶ関係だ。

報告を聞き、ヴェヒテはドン、そして司祭を呼びこの現象について、そしてハイルの事について話し合う場を設けた。

時間は夜。なるべく早くとした結果、報告を受けた日の夜となったのである。

司祭の方にも少なく無い情報が来ていたようで、結果分かったのは『原因について教会は何も掴んでいないどころか、積極的に調べようともしていない』という事。また『その領地が何か、原因となるような大きな問題を抱えている事はなかった』という、ヴェヒテの方でも分かっている事だった。

そして、ハイルの事に関してはもう少し様子を見ようという事以外、対応のしようがないという方向になった。

何せ何の資料もないだけじゃなく、ハイルの体力が人よりも遥かにない。ハイルに何かをしてもらい確認をしようとするにも、難しいのだ。

つまり、全員、様子見以外に出来る事はないと言って終わりにするしかなかったのである。


しかし翌日、全てがひっくり返った。


朝、ヴェヒテは朝食前に城の敷地内にある神殿──これは元々ここにあったもので、城を建てる時取り壊さず修繕しそのままにしておいたもの、と“言われている”──へ行くのが日課だ。

この神殿が建てられた頃、神殿は鮮やかな着色がなされていたとされているが城がここに作られる時にはすでに色が落ちた白亜の神殿となっており、修復しようにも資料もなくそのままになっているけれども美しい神殿。

建物はそこまで大きくはない。神殿に入る唯一の出入り口の扉は木で出来ていたようで、今は朽ちてなくなっているため出入り口から中を見る事が出来る。

長方形の建物で出入り口から一本道があり左右に石造りの長椅子が並んでいる。この国によくある教会の形に似た作りだ。

祭壇はなく、一番奥に天窓──と言っても窓にはまっていたものも朽ちて何もないため、雨や雪が降った場合は兵士たちが自主的に掃除をする──から落ちる光に照らされる王座の様な立派な、重厚感のあるこれも石で作られた一部が欠けた椅子があるだけ。この椅子は見た目から王座と呼ばれており、こちらも神殿同様資料がないので風雨にさらされ欠けた場所がどうであったかや本来の色などは判断出来ない。

ともかくヴェヒテは毎朝、ここに来て王座の前に跪き、今日1日の平穏を祈るのだ。


しかし今日は違った。

王座に腰掛ける男がいたのだ。

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