自信と覚悟 エピソード3 桜の下を君と二人で

鈴木 優

第3話

     自信と覚悟

           鈴木 優     

    エピソード3 桜の下を君と二人で


『先ずは、初日だからコースの外を走ってみようか』

 助手席の教官が言っている

 少々の緊張はあったが、車の運転は初めてではなかったので同期に入校した仲間達よりは変な自信があった。 と言うのも仕事柄、少しの移動や先輩の"やっこ"が帰りしな、面白がって運転をさせてくれていたからだ

『君、結構乗ってたな〜 足捌きを見たらわかるんだわ』

 教官は、上目遣いで俺を見ながら渋々判子を押してくれた

 次の日からは、短縮といって二つずつの判子が押される

『この分だと補習さえ無ければ最短コースの約三週間で取得できそうだ 後は決まった学科を受けさえすれば』

 どうしても、そうしなければならない訳があった

 免許を取るまえに知り合いの車屋で、購入と納車が決まっていたと言う事と、何よりあーちゃんとの約束!

 あの車に決めた理由は、あーちゃんの一言が決まりだった

『あれ、カッコイイよねー』 

 初心者にしては分布相応な感はあったが、色々なタイミングが合いそれに決めた 

 先輩の"やっこ"も前に乗っていた車 二人乗りで実用性は無いが、あーちゃんだけの指定席 

 好きな曲だけ集めて、それを聴きながら桜が咲く通りを走る

 休みの日には少し離れたレジャーランド迄のドライブ ボートに乗ったり、あーちゃん手作りの弁当を食べたり 

 そんな事を浮かべながら毎日、自動車学校に通っていた

 あーちゃんは、その春から短大に通うようになり、俺は相変わらずの運送屋の助手 以前のように頻繁には会えなくなってはいたが連絡だけはとっていた

 先ず、三回ベルを鳴らし またかけ直す たまに、家族が出る事があったが そんな時は心臓が飛び出す位にド緊張した

 後から聞いた話だが、そんな事が一年以上も続ける内に家族の中では暗黙の了解みたいになっていたらしく、半分 鬱陶しがられていたらしい 特に父親には...

 俺の家でも同様だった 時間帯と言う事もあり家族は食事を済ませ、居間でテレビなんか観ている そんな時は電話の側に陣取り、あーちゃんからの連絡を待っている 

 思っていただろうな〜

『いつもは部屋に篭ってギターなんか弾いてる奴が 今日はどうした事か? ハハァ〜ん今日は向こうからくる日か』

 ベルが三回鳴る 一瞬親父の新聞を読む手が動く お袋と姉は、俺の顔をチラッと見る その時の顔は呆れ顔とニヤけ顔を足したような顔だったのを覚えている

『はいもしもし』

 よそよそしく、そしてワザとらしく

『あ〜俺ですけど』それからは、返事だけ ア〜とか うんうんとか 返事を返すのが精一杯 あーちゃんはと言うと、最近あった事とか、色々話していた

 今日も元気でいてくれた 笑ってくれた それだけで、明日からまた頑張れる気がしていた

 記憶が甦る 初めて見た幼稚園から、俺が転校する迄の五年間 悪戯してワザと泣かせた事 寄せ書きに『元気でね』って書いてあった事

 運命とか、定め?とかは信じない方だとは思うが あーちゃんにだけは"特別"を感じていた

 

『あーちゃん やったよ合格したよー』

 今のように即日交付ではなく、約二十日間程待ってからの交付 長かった〜 

 久し振りに本を読み、真面目に教習を受けた 結果予定通り最短での合格 高校の入試以来の出来事だった 自分自身でもビックリしていた

 交付日には、こっそり車に乗って近くに止めて受け取り

 初心者マークなる物が少々気にはなるが、爽快な気分だった

 前日に待ち合わせした所へあーちゃんを迎えに行く

 何でか分からないが途中、花屋に寄りバラを一輪とカスミ草を買った

『優君、おめでとう良かったね〜本当にこの車買ったんだね〜』

 あーちゃんは、窓から手を出して桜の花弁を掴もうとしている

 五月のはじめ まだ肌寒さが残る夕暮れの土手沿いの真っ直ぐな道をゆっくりと進んで行く 

 時々ワイパーを動かし散っていく花弁を二人で見ていた

 そこには、あの頃の少し赤い頬をした子では無く"女性"のあーちゃんが居た

『優君、明日も晴れるといいね〜』

 

     

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自信と覚悟 エピソード3 桜の下を君と二人で 鈴木 優 @Katsumi1209

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