自信と覚悟 エピソード2 粋な計らい
鈴木 優
第2話
自信と覚悟
鈴木 優
エピソード2 粋な計らい
今更ながら、高校受験に対してはあまり興味が無かった と言うより自信がなかったんだと思う
中学の頃、お世話になった先輩がその高校に行っていたと言う事が正直な所だ
あの先輩には後々俺の人生にとってはキーマンになる人だ
そんな気持ちだったと言う事からも、先輩が退学したのを気に、俺も辞める方を選んだ
わずか一年足らずの短い高校生活だった その事に対して、親や周りからは何の意見は無かった
ほんの少しの後悔と、これから世間に出て行くんだと言う不安や期待などの覚悟が入り乱れていたのを覚えている
『仕事見つけなきゃ〜』
流石にこれ以上は親にも面倒はかけたく無いし、早く自分で稼げるようになりたかった 自由になりたかったと言うか、逃げ出したかったんだろうと思う
せめて高校位は出てほしい、本家の長男坊、世間体などの重圧?
直接の意見などは無かったが、そう言う思いを感じていた
そんな事があってから両親や姉との絡みも自然と減っていった
色々なバイトをした中で、大手の飲料水メーカー 蝶ネクタイに縦縞の入った制服に赤いトラック アレは格好が良かった
その後、あの先輩の勧めもあり運送屋の助手をする事になり、何とか仕事にありつけた
朝五時に出発して、夜六時頃に帰る
前日の夕方積み込んだビールの空き瓶を満載に積み、翌朝三時間かけて大手のビール会社で荷下ろし それが終わると出来立てのビールを積んで、また三時間かけて地元に戻りローラーなどに滑らせながら荷下ろし 繁忙期には、背中に三段ずつ背負いながら何度もそれの繰り返しの荷下ろし これが一番辛かった
しかしながら、周りの人達、先輩と仕事が出来る事の方が楽しかった
先輩とは家が近いという事もあり、職場への行き来の際には大変お世話になった 車が好きな人で、俺はその人の車に乗れるのが楽しみだった とてもセンスが良く憧れの車に、頼り甲斐がある兄貴のような先輩
色々な所へも連れて行ってくれた 時には相談にものってくれた いい事も、時にはヤンチャな事も...
ある日の週末"あの子"の話しになり色々と先輩に打ち明けた
『優、お前好きなんだろう?家もわかってるんだろう 直接言わなきゃ伝わんないよ〜』
そう言われても、高校を辞めてからバイトに通う時、三ヶ月位あの電車を利用し続けていた たまたま共通の友人をかえして"あの子"と話す機会はあったが彼女の様子からして俺の事なんか全然眼中にない感じだったし、最も口数の少ない子だった 住む世界が違うかのような気さえ思えた
向こうは学生 こっちは落ちこぼれの退学したバイト野郎 話が合わないのは当然の事
『そうか、合わなくなって半年以上経ってたんだな〜 元気にしているのかなァ〜』
そんな事を先輩に話している内に切なくなって来ていたのを覚えている
いつもの週末、この日は少し違っていた
左手には空港が見える 実家のある隣町を過ぎ"あの子"が住んでいる街 俺が小学生迄住んでいた街だ
『優、その子の家知ってんだろう?』
先輩の粋な計らいと言うか、それが これから起こる嬉しさとプレッシャー
近くの電話ボックスから"あの子"へ電話
受話器の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた
何をどう言ったらいいか、伝えたらいいか『優、ちょっと変われ』先輩は受話器を奪い取ると
『明美ちゃん 今、近く迄来てるんだけど出て来れる?何か優が話したい事があるんだって』
先輩は少し悪い顔をしながらニヤケながら電話を切った
『近くに公園があるから、そこで待っててって言ってたぞ』
強引な人のようだが、俺には先輩の優しさ、温かさがよく分かっていた
『優君、待たせてごめんね』
制服以外の"あの子"を見るのは七年振りだった
あの頃の少しほっぺたが赤い子供から少女に変わっていた でも笑顔はそのままだった 柄にもなく緊張していた 先輩が気を効かして缶コーヒーを二本渡してくれた
『あっちに居るからよ!時間なんて気にしなくていいからな』
大野康文 それが俺の先輩 皆んなは、あだ名で読んでいる『やっこ』と
背が高く、足が長く、それに喧嘩が強い トランザムに乗っていた『やっこ』それが俺の中学生から続いていた先輩
"あの子"あーちゃんとは、あの頃の事、高校を辞めて今、運送屋で助手をしている事、以外にもあーちゃんは、だいたいの事を知っていたそうだ
『あーちゃん 俺〜もう直ぐ免許取るから、車買ったら一番最初に乗って欲しいんだけど、どうかなぁ』
あーちゃんは、少し間を空けて黙って振り向き頷いてくれた
少し肌寒く、公園の そのベンチには、赤く色づいた子供の頃のあーちゃんの頬と同じ色をした枯葉が落ちていた
自信と覚悟 エピソード2 粋な計らい 鈴木 優 @Katsumi1209
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