闇クエスト4 カンタービレの講師を遂行せよ

第17話 貴族の少女と講師になったけど、闇クエストに繋がるとは思いもしもない

 信じられない事が起きた。貴族のカンタービレ、ソル・フレイヤ。三ヶ月間僕と一緒にエゼルグリン高官学校で講義をする役職上は僕の方が上官になってしまう厄介な関係だ。

 というか貴族の乗る馬車、いい匂いがするな。

 

「私、貴方に憧れてるんです! 合格してすぐに闇の魔神剣の事件を解決して、あの悪名高いファラン&デリンジャーからも魔道具を取り返したんですよね? そちらが、ジュデッカの切り札にして魔道具兵第一号ムスタさん?」

「違う、リトはリト」

 

 魔道具協会ではそんな風に言われているのか……当事者である僕には全然知り得ない情報だった。いや、危険すぎるリトを特級魔道具で縛っている理由を魔道具で人間を強化していると思わせているんだ。

 

「これは失礼しました。私はソル・フレイヤ。ブロンズランクのカンタービレです。腕につけてる魔導……それってもしかしてノワール・ガーベラですか?」

「……知らない。マホーを殺す腕輪。とても使い勝手がいい道具」

 

 魔導士だけでなく僕らですら恐怖させる魔道具をリトは便利アイテムだと思ってる。それにしてもソル・フレイヤ……


「すごーい! 見せてもらっていいですか? あ、私特級管理の権限ないんで触れないんで……」

「別に触っても何もない。別にいい」

「く、リト様。かっこいい! 黒い髪に綺麗な肌。それに美しい緋色の瞳。もしかしてどこかの王族とかなんですか?」

「違うリトはどこにでもいていつでもすぐに死ぬただの一つ」

 

 リトはそんな風に思っていたんだ……リトは特別だ。リトがいなければ僕は何度死んでいたか分からないのに……リトですら、なんてことはない石ころの一つだと思っているのか……だけどソル・フレイヤは違うらしい。

 

「あはは……困ったなぁ、リト様がそれだと私とかどうなっちゃうんだろ……」

「どうもならない、変わらない。死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きれる」

「リト様……」

 

 ソル・フレイヤはリトに手を組んで拝んでいる。ぐぅううううとリトのお腹の虫が泣き喚く音を聞いてソル・フレイヤはパンパンと手を叩いた。葡萄酒、パン、ハム、チーズを用意させた。

 

「保存食しかありませんけど、魔道具をそれだけ使っていたらお腹がすきますよね?」

「うん」

 

 リトがソル・フレイヤに懐いた。ソル・フレイヤはリトの世話を焼く事にテンションを上げてる。パンにチーズとハムを挟んでリトに渡す。綺麗なグラスに葡萄酒を入れるとそれも……

 

「これはお酒?」

「はい、私がいうのもなんですが、フレイヤ家に特別に作らせている葡萄酒です。体が温まりますよ!」

「お酒はいらない。感覚がぶれる」

「確かにポーッとしますもんね……これ、水を用意なさい」

 

 お酒は足りない栄養を補うものなのにリトは徹底して摂取しようとしない。ソル・フレイヤが用意した水をリトは口に含んで、それが毒や酒じゃない事を確認すると、サンドイッチと水をガツガツと食べ始めた。

 

「アルケーさんもどうですか!」

「あの、ソル・フレイヤ様、僕は平民ですので……」

「関係ありません! アルケーさんはゴールドランク、私はブロンズランクです。それは明確な差、むしろソルと呼んでください」

「であれば、僕のこともアルケーと……同じ合格した仲じゃないですか……」

 

 流石に平民の僕が貴族のソル・フレイヤにこの発言は不味かったかもしれない。ソル・フレイヤの従者は僕を睨みつけ、ソル・フレイヤは驚き、ガツガツとリトの咀嚼音だけが響き渡る馬車。

 貴族の特権で僕になんらかの処罰を与えられかねない。

 

「感服しましたアルケー。貴方がゴールドランクで、リト様に認められたパートナーである事が少し分かった気がします。だからこそリト様に選ばれたんですね」

 

 リトが僕を選んだ。なるほど、僕のゴールドランクはそういう形で承認された事になってるんだ。きっとサリエラ先輩はこういう時、僕が否定しないということまで予想済みなんだろう。

 ほんと、なんて人だ。ソル・フレイヤはサリエラ先輩の嘘の情報に踊らされて、リトのお世話に熱を注いでいる。

 満足したリトは寝息を立てて、ソル・フレイヤの膝枕の上で眠ってる。リトが静かに寝ているという事はソル・フレイヤは危険人物じゃないんだろう。リトを拘束している魔道具に対して目を輝かせて見つめている。

 僕は見飽きたようなそれらだけど……そりゃ普通のカンタビーレだと書物でしか見れないそれらだ。王国や魔導士協会、魔道具協会がそれぞれ保管していた魔道具を使ってリトを拘束したものなんだから……

 

「ソルお嬢様、学園に到着いたしました」

「そう、思ったより早く着いたのね……もう少し……リト様の魔道具を観察していたかったわ……」

 

 広大な敷地を学園、学生達の敷地をして作られたアゼルグリン高官学校。信じられない。ジュデッカのある街より広いんじゃないか? 雑貨屋や武器屋、あらゆる物が揃っている。貴族ってこんなところで生活しているのか……信じられないな。

 

「アルケー」

「どうしたのリト?」

「あれ食べたい」

 

 揚げパン的な何かが売られている。先ほどたらふく食べて、昼寝をしたリトは再びお腹が空いたんだろうか? リトはお腹を満たしてあげないと何をしでかすかわからないので僕は財布を出すと揚げパンを10個程購入、値段は……僕の街のおおよそ4倍くらいの価格だった。

 

「リト、それ美味しい?」

「ふつー、アルケーの家の近くのやつの方が美味しい」

 

 もっちゃもっちゃとリトが揚げパンを食べているとお腹が空いたので僕とソルも同じく食べながら教官専用の寮へと案内される。あまりにもその様子が異様だったのか、

 

「今までにやってきたカンタービレの教官殿達は緊張されていたんですが……ははっ、お二人と用心棒の方は凄いですね。是非、当学園のカンタービレ候補生達をしっかりと教育してやってください」

「はい!」

「任せてください」


 僕らは、この学園においてカンタービレ候補生達の肩身の狭さを知らない。そして、この学園には僕ら以外に臨時の教官としてとんでもない人がやってきていた。女性の騎士様。

 リトが無意識の僕の前に立って、震えている。

 

「アルケー……あれはダメ、危険、逃げる以外にない」

 

 リトにそうまでして言わしめる存在。僕はその人物を見てそれが騎士様であるという事だけ、臨時教官としてその有名な騎士様がやってきたくらい呑気に構えていた。無知な僕の代わりにソル・フレイヤが……

 

「どどどどどどうしましょう! アルケーさん、リト様! 剣聖……イリアステル様です」

 

 剣聖イリアステル様。歴代最強の剣聖レキの生まれ変わりと言われた聖騎士団長。勇者様との共闘をしたこともあり、英雄という意味では勇者様に匹敵する人物。そんな人がどうしてこんな所に……イリアステル様は僕らを見ると、

 

「おや? おやおや? カンタービレの教官殿達かい?」

「はい! 私はソル・フレイヤ。ブロンズランクのカンタービレです」

「僕はアルケー・ダニエル。一応、ゴールドランクのカンタービレです」

「ゴールドランク……その年でかい? 大したものだね……で、そちらのイケてる彼女は誰かな? 紹介して欲しいんだけど」

「く、リトは……」

 

 なんて紹介すればいいんだ。ジュデッカの魔道具人間だなんて言っていいのか……僕が躊躇していると、イリアステル様は腰の剣を抜いて僕に斬りかかってきた。

 ギン!

 

 リトは震えながら、イリアステル様の剣を腕輪型魔道具・ノワール・ガーベラで受け止め、服の中に隠し持っていた武器を全て出して僕を見る。殺していいのかという質問、僕は首を横に振った。

 

「ははっ! 悪いね。それにしても思ったとおり凄い反応と目だ。君だろう? アルコスを殺したの……私が殺したかったのになぁ。名を教えてくれないかい? 先ほど紹介があったね。私は剣聖なんて呼ばれているけど、イリアステルでいいよ。君の名前は……」

 

 リトが大量の汗をかいてる。そして呼吸も激しい……リトがこんなに怯えているのは初めてだ。リトは答えれそうにないので、僕が「彼女はリトです。僕らの護衛です。リト、ありがとう。イリアステル様は敵じゃないから大丈夫だよ」


 僕が初めてリトを守れた。リトの前に立ってイリアステル様に「これより寮に挨拶に行きますので……さぁいこうリト、ソルさん」

 

 行かしてくれるだろうか? 僕らはイリアステル様の横を進む。リトがガチガチと歯を鳴らしながら怯えている。それでもリトは僕を助ける為に飛び出してくれた。

 

「リト、また今度遊ぼうね? 私は君の事がとーっても気に入ってしまったよ」

「リトはイリアステルの事、嫌い。遊ばない」

 

 どんな時でもリトはブレないな。ちゃんとお断りを入れているあたりリトらしいな。最後にイリアステル様は「お互い臨時教官同士仲良くしてくれると嬉しいね」と一言残して騎士教官用の寮へと戻って行った。

 

「アルケー先生、ソル先生、こちらがカンタービレ用の寮となります」

 

 なんとなくだけど、騎士用と魔術師用の教官が使う寮より小さい寮のような気がするのはカンタービレの生徒が少ない為、規模の問題だろうかと僕は部屋のベットでしばらく休憩しようとした時、リトが同じくベットに飛び乗った。

 そういえばここでも僕はリトを監視する必要があるから同じ部屋だったんだ。

 僕はリトを見つめていると彼女はこう言った。

 

「アルケー、イリアステルはダメ……あれは殺せない」

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