第53話 皇女のオーラ

 兵舎が出来上がり、竣工式のようなものを行うことになった。


「それでワ、私たちのすみかを用意してくれたフェアから一言クレ」


 俺は兵舎の正面玄関前に立つとモンスターたちが注目した。

 ほとんどはゴブリンで、遠い場所から数体の巨人がこちらを見ている。たぶん、離れすぎていて、俺の声もリオンの声も届かないだろう。

 ガーゴイルは……空を飛んでるので、絶対聞いてない。


「えっと……とりあえず、ひとりずつ寝れるように個室をみんなのぶん用意してる。だから部屋の数がゴブリン43部屋、巨人8部屋、ガーゴイル8部屋となり、うしろにあるように三階建てになった」


 そう、兵舎は石造りの三階建てにした。かなり設計に力を入れて、帝都でも作らなかったような珍しい建築物だ。

 支柱は地面に打ち込み、石壁も頑強な石材を選んでいる。


「今後のために、空室も用意しているし、リオンの部屋は普通の一軒家並みに部屋を作った。それと食料庫と食堂も用意している。まあ……正直、モンスターの住処って作ったことも、聞いたこともないから、不具合があったら言って欲しい」


 ぽかんとしたモンスターたちの表情を見る限り、あまり理解はしていないな。

 まあ、あとでリオンが訳してくれるだろう。


「と、いうことデ……みんな! 自分の部屋にイケー!!」


 ドドドドド……!!


 地ならしでもするかのようにモンスターたちは兵舎に入っていく。


 三階の床、抜けないよね……。


 モンスターたちは自分たちの部屋に入ると、ベッドで飛び跳ねたり、いつかどこかでくすねた肉を食べたりしていた。


 なんとなく喜んでいるようだ。

 ゴブリンのしわくちゃな顔が、うすら緩んで目が輝いている。俺は兵舎の建設でモンスターたちと協力しているうちに、彼らの気持ちがどこと無く分かるようになってきていた。


「フェア、ホントにありがとうナ!」


 リオンは自分の部屋を満喫したあと、俺のもとにやってきてお礼を言った。


「母がやろうとしていたことを引き継いだまでだよ」

「マリアにもフェアにも、いっぱい助けられタ。いつでも、私たちが必要なら手伝うからナ!」


 そう言ってリオンは彼らの様子を見に行った。

 俺は施設の壁にもたれて、兵舎の姿にみとれていると、マトビアが横に立った。


「ずいぶんと早く建築されましたね」

「そうだな、こんなに早くできたのは彼らの協力があったからだろうな」


 わずかにマトビアから緊張した雰囲気を感じた。


「彼らのおかげもありますが、あれほどの大きな建造物の設計を短時間で、根詰めて作られていたような気がします」


 どうやら、拠点に帰ってからの俺の様子が変わったことに、マトビアは気づいていたようだ。

 

「彼らに早く住処を用意したかった……というのもあるが、じつは、北の樹海でリオンに会って、母マリアの思いを引き継ぐ覚悟を決めたんだ」


 マトビアは俺と同じように、大きな兵舎を見つめたまましばらく押し黙る。


「兵舎もできたし、俺は帝都に戻るつもりだ。帝都に戻って、戦争を終結させる。たとえ、父と戦うことになっても」


 次にマトビアがこちらを向いたとき、凛々しい、女傑のような笑顔に変わっていた。


「いつか……いつか、お兄様が母国のことを思う日が来ることを待っていました……!」


 パアアッ、と金色の光がマトビアの背後を照らすように、光り輝いているようだ。

 皇女のオーラというやつなのか。


「おぉ……」

「私も一緒に帝都に戻ります。そしてお兄様の冤罪を訴えます」

「いや……まあ……そこまでしなくても……」


 ここ最近、ストーンやアーシャと行動していたので、つい忘れていた。

 マトビアが頑固者であることを。

 

 兄としての男気を見せてかっこつけるつもりだったが……。

 戻れば、政権をどちらが握るかの骨肉の争いになるだろう。そんな争いに、マトビアまで巻き込むつもりはない。


「お兄様が戦うのであれば、私も戦うまでです」

「まあまあ、もちろんすぐには帰らないよ。少しホーンで準備をしてからだね……」


 マトビアを諫めていると、拠点の正面ゲートを叩く音が聞こえた。

 拠点の壁は厚く、正門には鐘が吊ってある。ドアノックでは正門と施設の距離があり過ぎるので鐘を鳴らすのだ。

 しかし、それが目に入らないほど訪問者は急いでいたようだ。


「ストーン・エベレクはいるか! すぐに会いたい! 火急の要件だ!」


 その声の主は、以前に孤児院へマトビアに会いに来た議長の息子だった。

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