第45話 北の樹海へ

 旅に出る前に、俺はストーンとアーシャにある相談をすることにした。

 

 拠点の施設にあるテーブルをはさんで、目の前にはストーンとアーシャしかいない。

 二人とも旅で使う道具の手入れや荷造りをしていた。


「マトビアとスピカのことなんだけれど……長旅になるなら、二人から離れることになるよね。……ちょっと心配で、拠点に用心棒でも雇ったほうがいいかな?」


 マトビアとスピカはほとんど戦闘能力はない。特にマトビアは基礎的な運動能力さえないが、好奇心は旺盛だ。

 そんな二人だけを拠点に置いて行くことに抵抗があった。


「たしかになー。アーシャ、ギルドでいい用心棒を知らないか? 俺は雇ったことないから」

「私だってないわよ」


 自分自身が強いと用心棒なんて不要だしな……。

 ギルドで聞いてみたほうがいいのか。


「明日町に下りて、ギルドでの紹介を頼ろうかな……。でも、知らない人を拠点にいれるのもどうなんだろう」

「うーむ。昔仲間だった奴はみんな引退しちまったしな……どこにいるかも分からんし」

「……それなら、私が拠点に残ろうか?」


 アーシャは荷造りしていた手を止めて振り返る。


「ほんとに来ないのか?」

「……あんたね、本当は分かっているんでしょ?」


 ストーンの問いにアーシャが意味深な問いを返す。


「もう五年前と比べて、体力も落ちてるし、魔法も精彩さを失っている。それに集団戦は得意じゃないのよね、キャンプもお肌に悪いし……」

「まあ……老いたってことだな」

「ちょっと、老いたって言い方はひどいんじゃないかしら!? ブランクがありすぎて、もうあの日には戻れないということよ」


 それを『老い』というのでは、と思ったが口にはしない。

 

 アーシャはギルドの依頼をこなしてはいたが、内容をじっくり確認して、向いている依頼しか受けていなかったようだ。

 

「そういうわけで、冒険からは足を洗うわ。代わりに、マトビア様とお付きのスピカ様のボディガードをしてあげる」

「えっ! 本当ですか! とても助かります!」


 アーシャがいれば誰が来ても問題ないだろう。議事長の息子とかが来ても大丈夫だ。



 北の樹海は昔から魔力が集まりやすい土地で、多くのモンスターの巣窟になっている。

 ストーンたちが魔人を倒したことでモンスターは減ったが、実際にどれぐらいの魔人が樹海に潜んでいるかは分かっていない。

 

 土や水に含まれる魔力を含んだ成分が、根に吸い上げられて、樹木の葉はどれも橙色に変色していた。

 そのせいで、樹海に入れば常に夕日を浴びているように感じる。


「いきなり突き進むのは避けて、樹海との境界をなぞるように進もう」


 未踏破の地帯に突っ込んでいくようなことはせず、ストーンは慎重に樹海を進む。

 

 途中、巨人の集団がいたのでストーンの先制攻撃であっという間に倒した。


「ライフルを試してみたかったんだけど……」

「そいつは一撃しかでないからな……他のモンスターに気づかれると、倒しづらくなるんだよなー」


 どうやら巨人は初動というか、状況把握が遅いようだ。

 なので、知らぬ間に接近されるとほぼ対処はできず、ストーンの刃に散っていくわけだ。


「しかし、よく斬れるな……!」


 ストーンは赤い光を反射する刀を何度もかざした。

 

 日が暮れてきて、視界が狭まると、川の近くでキャンプをすることになった。

 ストーンが罠を仕掛け終わり、たどった場所を地図に書き込んだ。


「ここは、結構奥に進んでいますね」

「あー、それがミーナたちと進んだルートだ」


 こことは逆の方角で、樹海の深部まで詳細に書かれた部分がある。


「そのあたりにもうモンスターはいなくなった」

「たった一人の魔人を倒しただけなのに?」

「まー……そうだな。魔人が生んだモンスターは全員死に絶えて、灰が残る。そこいらにはモンスターも嫌なのか、住み着かないんだ」


 魔人がモンスターを生んでいる以上、モンスターとの遭遇確率が上がれば自然と魔人に会う確率も上がるということか。


「今回の旅の目的は、魔人討伐じゃないからな。あくまで、樹海の地図の作成だ」

「でも、奥に進めばいずれ魔人に当たるんじゃないですか?」

「いやあ、モンスターや魔人も強ぇやつがきたら、なるべく触れないようにするもんだ。ミーナのときは魔人討伐が目的だったから、速攻で奥まで進んだけどな」

「……なるほど」


 じりじりと樹海を進めば、賢いモンスターなら自分たちから道を開けてくれるわけか。

 巣には蓋をしてやり過ごせばいいし、大事なものはしまっとけばいいし。

 襲ってくるのは、腹をすかせたモンスターか、腕に覚えのあるモンスターか……どちらも恐ろしそうではあるけどね。


「まー、大丈夫だろ。危なければ引き返すから」


 俺の考えていることを見透かすように、ストーンはそう言って寝た。

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