第41話 お祝いの場

 食卓には沢山の料理が並んだ。


 贅沢をしたのは久しぶりで、帝都での皇居の食事を思い出した。あのときは、特別に思わなかったが、今では燭台に照らされるローストビーフや籠に盛られたパンを見ると、心が躍るし幸せを感じる。


「すごい料理の数だなー」


 帰ってきたストーンが驚いた。

 マトビアとアーシャも女性専用エリアから出てきて席につく。


「めちゃくちゃ綺麗になってるじゃない、ここ」

「おー、本当だ。よくみたら掃除されてる」

「あんた鈍すぎでしょ」


 スピカがそのやり取りをみて、笑いながら最後に席についた。


「それでは、どのようなお祝いの場にしましょうか?」

「ストーンのギルド復帰のお祝い……かな」


 そう言うと、ストーンが恥ずかしそうに頭を掻いた。


「んーそんな大袈裟にしなくてもなー」


 一段と背中を丸めたストーンを中心に乾杯する。

 

「とうとう本格的に拠点も開所したことだし、私もストーンと一緒にギルドに行こうかしら」


 アーシャはストーンと違って、たまにギルドの依頼をやっていたようだ。ストーンとパーティーを組むことで、かなり依頼の幅が増えるだろう。


「アーシャさん、ストーンさんのことが気になってるのよ……私といる時に、ストーンさんが誘ってくれないって小言を言っていたの」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべて、マトビアが俺に耳打ちした。


 なるほどね。アーシャは見た目に反して、奥手なんだな……。


「あの、ところで……これってなんだか分かりますか?」


 俺は掃除中に見つけた、やけに長い道具を取り出した。杖にしては長すぎるし、物干し竿にしては重すぎる。


「それは……」

「んーここにあったのか」


 アーシャとストーンは古びた道具を見て驚き、懐かしんだ。


「ミーナの武器よ。『ライフル』って言ってたわ」

「これが……」


 たしかに言われてみると、遠距離武器のクロスボウに似ていなくもない。


 鉄筒は重く錆びついていた。

 クロスボウのような引き金と、それに連動する機構を守るためのカバーがついていた。

 鉄筒の側面に切り込みのような穴があけられ、ストーンが言っていた鉛玉を装填できるようだ。


「もしよければ、預からせてもらえませんか?」

「もちろん。まー、どうやって鉛玉を発射していたか、色々見てみたがさっぱりだったんだよなー」

「あんたが分かるわけないでしょ」


 アーシャが容赦なくツッコミを入れる。


 ストーンが話していた、魔人に致命傷を与えた武器。今まで修繕してきたモノの中で、一番興味を引いた。


「お兄様、マリア様の武器も大切ですが、受信塔の件もお忘れにならないよう」

「あ、そうだった」


 マトビアは伝文のやりとりをしたくて仕方がないといった様子だ。

 そっちを優先するか。


 翌朝、ストーンをギルドに見送ると受信塔の整備に取り掛かる。


「まずは送信器の構造だな」


 対となる壊れていない完成品があれば、どういった仕組みで動くのか見当がつきやすい。


 俺は女性専用エリアの扉をノックした。


「マトビアいるか? 送信器を見せてくれないか?」


 うーん。

 やっぱり朝は弱いか。


「スピカかアーシャさんはいませんか?」


 反応がない。

 もしかすると、もう拠点を出発したのか。まあ、アーシャはストーンと組んで活動するって言ってたしな。


 ドアを開けると、女性特有の甘い香りが漂ってきた。


「うわ、すごい綺麗に飾られてる!」


 色つきガラスのランプに、部屋の仕切りとして美しいシルクのレースが掛かっている。


 その一部屋から寝息が聞こえてきた。


「ここがマトビアの部屋かな」


 物音ぐらいではマトビアは起きないし、送信器だけとって、さっさと出よう。


 部屋の中を遮断しているレースを上げると大きなベッドが置いてある。ふかふかしてそうで羨ましい。

 ところが、そこに寝ていたのはマトビアではなく、アーシャだった。


「え? ええ? なんで??」


 薄絹のローブをまとい、長い足の肌がランプに照らされ、透けて見える。


「んん……ん?」


 驚いた俺の気配に気づいて、アーシャがムクッと上体を起き上がらせた。


 ハラリと大きな胸の何かに薄い布が引っかかった。


「キャアーー!!」


 体の大事な部分を手や腕で覆うと、透明バニッシュで姿を消すアーシャ。


「すす、すみません。マトビアかと!」


 消えたアーシャの悲鳴まで消えて、あとには沈黙の恐怖が襲いかかる。


 ふと思い出したアーシャの言葉。

 ストーンでさえ三日間立てなかった麻痺パラライズの餌食に……。


 すぐに女性専用エリアから逃げて、扉を閉めた。

 こ、怖すぎる……アーシャって敵に回すと、その恐ろしさが分かるな……。


「フェア皇子……」


 耳元で冷徹な女性の声がした。


「ま、待ってくれ! 俺は何もしてない……」

「お覚悟!!」


 ビリビリと痺れが身体中をめぐり、俺はその場に倒れた。

 

───

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