第三章

第40話 新しい拠点

 拠点で朝を迎えて、背伸びをすると鈍い痛みが走った。


「全然寝れないな……」


 薄い木綿の布の上で初めて寝た。

 船には備えつけのベッドがあったし、安い宿でもベッドがないということはなかった。


「ストーンはすごいな」


 俺の横で熟睡し続けている。元冒険者の経験値というのか、このまま寝れない日が続くと、深刻な状況になるのではないか。

 すぐにでもホーンに行って、ベッドなどの家具を揃えないと。


 ストーンが起きると、俺たち二人でテーブルを囲い朝食をとる。

 パンとスープだけ。少ないがないよりはましだ。拠点に移ることを優先していたので、食材などもない。

 これもすぐに揃えないとな。


「それで、フェアはどうするんだ?」

「えっ?」

「ミーナが息子のお前を俺のもとに送ったということは、ミーナは俺のことを責めていないし、ちゃんと認めていることが分かった。俺も踏ん切りがついたし、再びモンスター退治をするつもりだ」


 ストーンは前に進むことを決めたのか……。

 俺はどうなんだろう。

 母は平和のために戦ってほしいと思っているだろうな。だが、ホーンにいると、どこもかしこも平和に思えた。

 モンスター退治をすることにそれほど興味はない。

 なにせ、俺には武器もないし、攻撃魔法もほとんどない。


「まあ……とりあえずは、拠点の基盤整備をしようかなと」

「き、きば……きばせいび……」

「そうですね、水もでないみたいですし、キッチンもかなりひどい状況みたいですから」

「んー。そういうことか。たしかに、だいぶんガタがきちまってるからな……」


 ストーンをギルドに送り出して、俺はとりあえず全部の家具を浮揚レビテーションで外に出し、風力エアー水力ウォーターで床やら壁やらを全て綺麗にする。


「うわー……めちゃくちゃ汚いな」


 そういえば、女性専用エリアはどうなっているのだろう。

 気になるが、スピカがいるからきっと大丈夫か。

 

 汚れを外に出すと、床のタイルも綺麗に磨かれて新品同様になった。


「さて、ホーンに買い物に行くか」


 金貨袋を持って、拠点を出る。

 拠点には高さのある門があり、錠前もかなり立派なものだ。


「『開錠アンロック』が効かないな」


 鍵と回転盤の二重錠になっているので、俺の魔法でさえ開錠できないようになっていた。アーシャがマトビアのために事前に強化していたらしい。


 拠点の丘をおりて、ホーンに着くとさっさと家具やら食料を買い込んだ。もちろん、フードを被って顔が分からないようにした。

 買い物も即決でどんどん買って、なるべく店主と目を合わせないようにする。


 議長のバカ息子の一件があるからな……。俺がバレると、マトビアにも迷惑がかかるし。


 すべて荷車に入れて浮揚レビテーションをかけて軽くし、拠点の門に戻った。


 俺は渡された鍵と暗証番号を使って門を開けると、施設に家具を並べて行った。


「あとは水だな」


 枯れた井戸が施設の裏にあったので、水力ウォーターで水脈を探る。


「よしよし、……手ごたえがあるぞ」


 ぐっと、魔力を集中させると間欠泉のように水が井戸から飛び出てきた。


「おおっ……!」


 土砂を押し上げた圧力で水が噴き出てしまった。

 魔力を弱めて井戸を復活させ、とりあえず生活用水として使えるように、大桶へ水をためた。


「いずれタービンを使って自動化をしたいな」


 施設には母が使っていた道具もあるので、それを使えばできるかもしれない。


 もう日が暮れ始めたので、施設に戻るとスピカがキッチンに立っていた。


「朝はすみません。なかなかマトビア様に起きていただけず……」

「いや、スピカはマトビアの付き人なんだから、俺のことは気にしなくていい」

「いえいえ、そんなわけには……。しかし、キッチンが綺麗になりましたね!」

「そうなんだよ。食材も買って来たし」

「私も買って来たので、今日の夜は豪華にしましょう!」


 スピカはそう言って、腕まくりをした。


───

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