第37話 モンスター退治


 翌日、ストーンは同じようにメインストリートの方で待ってもらい、アーシャと俺と二人だけでギルドに向かった。


 ギルドでは俺やアーシャに慣れてきたのか、そこまで注目されなくなった。

 荒くれ者を相手にしてきたギルドだからこそなのだろう。


 掲示板をみているとアーシャが『退治排除』の一角から依頼票を持ってきた。


「これがいいんじゃないかしら」


 また……拉致まがいの依頼じゃないよな……。


 渡された依頼票を読むとモンスター退治の依頼だった。


『件名:東の街道に出没する巨人の討伐』


 巨人ってなんか強そうだな……。モンスターであることは間違いないが。


「何度か討伐したことがあるから、肩慣らしにはいいんじゃないかしら」

「依頼者はサンクスリア修道院……かなり大きな教会ですね」

「雇い主にするには悪くないわよー。魔法の加護がある装備品とかもらえたりするし」


 アーシャ一押しということで、受付嬢に渡す。

 受付嬢は万人受けしそうな綺麗なすました顔だ。しかし俺のライセンスと依頼票を見比べた途端、眉間にしわができる。


「失礼ですが、今回の依頼は巨人が相手ですので、クリスさんには荷が重いかと。他の依頼をお勧めします」

「いや、今回の依頼は俺だけじゃなく、アーシャさんやストーンさんにも手伝ってもらうんです」


 受付嬢は俺のうしろにいるアーシャと目が合うと、慌てて視線を俺に戻した。


「そ、そうでしたか! た、大変失礼しました!」


 どうやら、アーシャもストーン張りに有名ではあるようだ。


 依頼票を片手にギルドを出ようとすると、何者かに出口を塞がれた。


 またか……。慣れというのは怖い。段々と肝がすわってくるものなんだな。


 ギルドの守衛ではなく、もっと大きな体の影が俺に覆いかぶさった。


「とうとう見つけましたぞ……フェア皇子!!」


 ストーンと同じぐらいの背丈の男、デウロンが目の前に立ちはだかった。


「デウロン将軍! しつこすぎだろ!!」

「はっはー! 皇帝の命にかけて必ず帝都に連れ返すと誓いました! そして執念の甲斐があったというものですな!」


 デウロンは俺の肩を、そのでかい手でつかんだ。


「おじいちゃん、何してるの。うちのメンバーに手をだしちゃだめでしょ!」


 割り込んできたのはアーシャだ。


「なんじゃ……? 娼婦まがいか。客引きなら酒場でせい!」


 ムッと頬を膨らませて赤毛の横髪を払う。


「はああっ⁉ あり得ないんですけど⁉ 私のどこが娼婦に見える?」

「うっさい奴じゃのう……年増の売れ残りが」


 デウロンが俺の腕をぐっと引き寄せた瞬間、アーシャがデウロンの手首を握った。


「ゆ、ゆるさないわよ……その暴言を吐いたことを後悔させてあげるわ」


 アーシャの赤髪がふわりと浮かび、白目になった。

 怖すぎる……。

 

「『麻痺パラライズ』!!」

「ギイィィヤアアー!!」


 絶叫したデウロンは立ちどころに地面を転げまわる。俺にも一瞬だけ肩を刺すような痛みが走った。

 デウロンの腕を通じて、瞬間的にアーシャの魔法をくらったのだろう。わずかだったが、金槌で叩かれたような衝撃だった。


 麻痺パラライズという魔法、まともにくらったらどんな生物でも動けなくなるな。

 

 やがて人が集まりだすと、警吏が駆け付けてきて、気を失っているデウロンの正体に気づく。


「こいつ! 敵国の将軍じゃないか!」

「どうやって国境を越えてきたんだ?」

「と、とにかく牢に入れるぞ」


 そうして、デウロンは共和国の牢に繋がれることとなった。


 なにかとイベントの多いギルドを出て、ストーンと合流する。

 

「なんかあったのか? 髪の毛が逆立ってるぞ」


 アーシャの頭のてっぺんで、赤毛が立ち上がって風に踊っている。麻痺パラライズの影響か……。


「えへっ、私が美しすぎて男が痺れちゃったみたい」

「おー、怖い怖い。あれをくらうと三日は立ち上がれないからなー」

「ストーンも恋しくなったんじゃない? 痺れさせてあげようか?」

「さー、馬鹿言ってないで、次の依頼をやるか」

「馬鹿ってなによ」


 二人は言い合いながらホーンの東に延びる街道を歩いて、俺はその後ろを追った。

 街道はリンデルハイツに通じており、主要な交易路になっているようだった。前回の依頼も鉄鉱石の供給が断たれたことで、報酬が急騰していたらしい。


「あ、いたいた。あれが巨人だよ」


 アーシャが指さす先に、道端で銅像ぐらいの背丈の、ぼろぼろの帆布を被った生き物が横になって寝ている。

 その横でこちらを向いて座っていた同じような巨人がこちらに気づいた。


「ウオーッ!!」


 ひと吠えするとほかの巨人も立ち上がる。


「うわ! 多いな!! さん、よん、ご……五体か」

「大丈夫ですか?」


 驚くストーンの横顔を見て、めちゃくちゃ不安になる。


「一撃じゃ、無理かなー」


 鞘に入っていた剣を抜いた。

 片刃の剣で、やはり異様に長い。刃には波の紋様があり、切っ先はナイフのように鋭かった……が、あちこちが茶色に変色していて、錆びついているようだ。


「あーら。ミーナがいなくなってから、全然手入れしてなかったからだね」

「うーん。三撃ぐらいかな……」


 そんな雑談をしている間にも巨人が迫ってきていた。

 ドシドシと大地を揺らして、俺たちを捕まえて食おうとしている。


「ストーンさん! 巨人が……」


 ストーンはぐっとグリップを握り締める。腕が膨張して、太い血管が浮き出た。脹脛にも力を入れると一瞬で最初の巨人を真っ二つにした。

 巨人は灰になり、着ていた服や武器だけが残る。

 そして、ストーンは前方に踏み込んだ勢いのまま、地面をけり上げて方向を調整すると、次の巨人を葬り去る。さらに加速して、最後の三匹は一振りのなぎ払いで同時に消し去った。

 

 道の先で、巨人が持っていた骨製のハンマーが地面にドスっと落ちる。

 

 力も強いが、何よりも速い。

 前方に向かって斬り進んだから動きが分かったが、近くで動かれたら目で追うことさえできない。


 余韻に浸ることもなく、ストーンは剣をしげしげとみていた。

 

「んー。やっぱり、切れ味が悪すぎるな……」


 瞬殺の結果に不満を漏らすストーン。

 これ、俺の依頼だったんだけど、なにもしなくていいのかな?


───

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