第35話 お得な依頼

 俺が冒険初心者ということもあり、ギルドで依頼をこなせるようになるまで、ストーンとアーシャが手助けしてくれることになった。


 依頼を請け負うために、またもやギルドを訪れる。

 ここ最近ギルドを騒がせてばかりいるので、冒険者が道を開けてくれるようになった。受付嬢ともよく目が合う。警戒しているのだろう。


 人混みは嫌いだが、目立つのはもっと嫌だな……。


 ギルドには俺とアーシャだけで来ている。国の役人がギルドに来ている可能性もあるということで、ストーンはメインストリートで待ってもらうことにしたのだ。


「なぜ国の役人とストーンさんが会うといけないんですか?」


 依頼票を品定めしているアーシャに尋ねた。


「ストーンは世間的にギルドをやめたことになっているから、ギルドに現れたとなると、依頼が殺到するかもしれないのよね」


 人は見かけによらないものだ。

 要は依頼をこなせる冒険者として、世間的に信頼されているということだ。


「雇い主は共和国なんですよね? だったら、依頼をこなさないと雇い主から外されてフリー冒険者にされるんじゃないんですか?」

「外したくないのは国側よ。商会とか教会とかがストーンの雇い主になると、色々とバランスが崩れると思っているんじゃないの? まあ、私はそういうの詳しくないけどね……」


 バランスを崩すほどの規格外の冒険者なのか……。


「あっ! これがいいんじゃないかしら。すごく報酬がいいし、教会の依頼だから魔法使いにメリットがあるわよ」


 渡された依頼票を確認した。


『件名:西の砂漠で勢力を拡大させる外来教団の教祖排除』


「いや、だめでしょ。排除という意味の理解の仕方によりますけど。恨まれそうで怖いです」

「えーっ。多分、教祖をどこかの森とかに拉致するだけかなと思うんだけど……」

「だめですね」


 本気で言っているのかな。

 アーシャとストーンはこんな依頼ばかりやってきたのか? 昔は人殺し集団だったりして……。


「じゃあこれはどうかしら?」


『件名:奪われた秘宝を奪還せよ! 期限は三日間(請負人の生死について当局は一切関知しないものとする)』


「だめですね」

「うふふふ」


 たぶん本気で選んでないな……。自分で選んでからアーシャに聞いてみるか。

 

 ほかの冒険者よりアドバンテージがあるのは、継承魔法とかいう母の魔法だろう。それを活かせる依頼がいい。

 依頼票が張り出されている掲示板には、大まかに『採取収得』『退治排除』『運搬護送』『その他』に分かれている。


浮揚レビテーションがあれば、かなり重いものでも一気に運べるな……」


 俺は運搬護衛の掲示板に移動した。難易度など記載がないので、全部きっちり読んでみるしかない。報酬額と照らし合わせて、額に見合った依頼か判断できるのがベテラン冒険者なんだろうな……。

 『運搬護送』で報酬が高い依頼は、軒並み護送だ。守る対象は人であったり、物だったりと色々で、敵対する対象のほとんどが不明のようだ。


 アーシャの透過バニシュとかが活躍しそうだな。俺には無縁だが。

 運搬だけにしぼって最も高額な依頼を選んだ。

 

『件名:リンデルハイツから鉱物の輸入』


 依頼票をとって報酬額を確認すると、10ポンドあたり銀貨1枚とある。


「リンデルハイツは鉄鉱石が取れるからねー。鉱物は腐るほどあるけど、遠いからやめておいたほうがいいわよ」

「どれぐらい離れていますか?」

「東に50マイルぐらいかしら」


 飛行船を使えば楽なんじゃないか。50マイルなら半日で終わる。


「これにする」

「えーっ! なんでこんな面倒くさいのを」

「ある乗り物があるんです。あとで教えますよ」

「……ストーンを馬代わりにしたらだめよ。あいつ、めちゃくちゃ怒ったから」

「ちがいます」


***


 依頼を受ける手続きをした後、ホーンを出て飛行船を停めていた窪地に向かった。


「これは……」


 飛行船を前にしてストーンは呆然とする。アーシャは興奮してゴンドラの中を覗きに行った。


「飛行船です。母がこれでストーンさんに会いに行けと」

「どうやら、あんたの母は俺が思っていたイメージとかけ離れていたようだな」


 ゴンドラの扉を開け、二人を客室に入れる。


「やばいな、緊張してきた。これ、飛ぶんだよな……」

「ストーン! みてごらん! 船長室、かっこいいわよ!!」


 窓枠にアーシャがつかまる。


「離陸するときは危ないんで、椅子に座ってください」


 アーシャが座ったことを確認して、浮揚レビテーション風力エアーで飛行船を離陸させた。

 

 木々の梢をかすめて上昇する飛行船。

 直線で行けばリンデルハイツはすぐだ。


「すっごく景色がいいわね! さすが皇子様ねぇ……乗ってるものが違うわぁ」

「高いな……落ちたら死ぬな。ある意味、敵をこの高さまで上げれば大抵は死ぬな」


 明るい人と暗い人がそれぞれ独り言をしゃべっている。

 そうしている間にも、すでにリンデルハイツを視界にとらえた。


「到着しますのでアーシャさんは座っていてください」

「えええーっ! もう着くの! ホーンの西にオシャレなバーがあるんだけど、今度連れて行ってくれない?」

「上空からだとやはり障害物がないから最短なんだな……。ドラゴンが簡単に捕食できる理由はこれだな……」


 リンデルハイツに近い草原に飛行船を停めて町に入った。

 鉱山の町という感じで、緑が少なく、家や看板に色味がない。道行く人もほとんどが労働者で、汚れた作業服を着ている。

 町の中央にあるギルド出張所の受付嬢にライセンスと依頼票を見せると、鉱物の集積場所を案内してくれた。

 

 町の片隅で頑丈な木箱が山積みになって置いてあった。

 長い間、風雨にさらされて黒ずんでいる箱もある。案内してくれた受付嬢の説明では、好きなだけ持って行ってもいいとのことだ。

 


「誰もいままで持っていかなかったんだな。たしかに、重い……な……」

「これを50マイル運べっていうのは大変ね。じゃあ、ストーン、がんば」

「なんでだよ! 50マイルも運べるかよ!」

「何言ってるの、飛行船までってことよ」

「あー、そうか……って、それでもきついだろ!」


 飛行船を持ってくるにしても停める場所がないので、一箱ずつ持っていくしかない。


「『浮揚レビテーション』」


 持ち上げていた木箱に魔法をかけると、目を丸くして驚くストーン。


「すげぇ魔法だな! 軽い!」

「……」


 置いてあった他の木箱にも浮揚レビテーションをかけて、みんなでそれぞれ木箱を運んだ。


「浮揚の魔法。これって、皇子のお母さんの魔法なんでしょ?」


 アーシャが低い声で俺に質問してきた。


「はい。生前に教えてもらった魔法です。これも継承魔法っていう種類ですか」

「そうね、かなり特殊。私、この魔法を使ってた人を覚えているわ」

「え……それって母のことを知っているってことですか?」

「たぶん……ね」

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