転生して最強の俺が追放されて婚約破棄されてざまぁされた後のはなし

たぬき

第1話 異世界と追放と婚約破棄と

豪華な内装の大広間。王城での式典にも使われるその空間では不穏な空気が漂っていた。


中央にある玉座からは王が興味深そうに身を乗り出し、その脇には隣の人間とコソコソと何かを話す有力な貴族たち。


入り口から玉座にむかって真っ直ぐ伸びる赤い絨毯の上、王たちに見守られる形で二人の男女が向かいあっていた。


片方は磨き上げられた鋼のような女性だった。年は10代の後半ぐらいか。艶やかな銀色の髪は肩口で切り揃えられ活発な印象をうける。胸から腰までの理想的な曲線は男なら誰もが一度はエスコートを望むだろう。女性は長いまつ毛を震わせ奥にある翠色の瞳で目の前に立つ男を見ていた。その表情は内心の動揺を教養で噛み殺しているようにも見えた。


女性と向かい合う男。


まず目に入るのはこの国では珍しい黒色の髪だ。手入れのされていないのか纏まりを見せずにあちこちに広がっている。余白の多い顔には引っ掻き傷のような目がついていて、白目の真ん中でゴマのような瞳が揺れていた。


地糸好夫ちいとよしお……」


女性が口を開く。射抜くような瞳からそれが目の前の男の名前だとわかる。誰かが息を吸う音が聞こえた。


「今この時をもって、私はあなたとの婚約を破棄します!」












──なんつー夢だ。


遠くで虫が鳴いていた。好夫は思わずこめかみを押さえた。


しばらく身じろぎせずにそのままでいると、徐々に意識がハッキリしてきたのか虫の声にいびきや不快な呼吸が混ざりはじめた。


そこは見慣れたいつものタコ部屋だった。詰め込まれた労働者が汗の臭いが充満している。


「はぁー……」


天井を仰ぐ。暗闇を見つめながら、夢は真相意識がなんちゃらかんちゃらと考え出したところで思考を打ち切った。好夫にとって不愉快な結論を出しそうになったからだ。


「最悪。ほんと。あー寝よ寝よ」


勢い良く枕に頭を打ちつけ、布団を頭までかぶる。


多少息苦しくはあったが、冷えた汗が密閉された空気と徐々に混ざり合ってそのうちゆっくりと瞼が下がっていく。好夫は特に抵抗せずに意識を手放した。



・・・・



・・・



・・
















「地糸好夫! 君をこのパーテイーから追放する!」



──おい、夢てめえ。

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