■□月星暦一五六〇年六月④〈吐露〉

◼️アトラス→□アウルム

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 アウルムに怒鳴られて、アトラスの仮面は剥がれた。もう取り繕えない。


「……寝てはいますよ。酒とこうの力を借りてなんとか、ですが」


 船上にいる間にどうにかしようとした。そう思っていたのに、むしろ竜護星を発ったときよりひどくなっている自覚はある。


「食事も摂ってはいます。味は良く判りません」


 アリアンナ達が心配するから、出されたものを無理やり詰め込んできただけだ。


「……ずっと、考えてしまうんです」


 アトラスは俯いたまま顔を見せない。アウルムを見ようとはしなかった。


「なんであいつだったんだと。なんで、あいつが苦しまなきゃならなかったんだろう?代われるものなら代わってやりたかった」


 アトラスは顔から手を外し、両掌を見つめて吐き出す。

「なんで、俺じゃないんだと、幾度思ったか判らない」

 座り込んだまま、アトラスは大きく息を吐いた。


「俺の手はこんなに血に汚れているのに、なぜ召されたのがレイナだったんだ。いくら殺されても文句の言えない俺じゃなくて!なんで、あいつだったんだよ!!」


 マイヤの手前、表には出せずに肚に溜め込んできた想いが、堰を切って溢れ出た。


「何もできず、弱っていく姿を見せられて。それが俺への罰だったとでも言うのか……」


  □□□


 レイナの死とアトラスの過去に因果はない。

 口にするのは容易いが、そんな言葉はアトラスには刺さらない。


 こんな時はレイナが一言、言えば良かった。

「莫迦ね。そんなの、関係ないじゃない」

 それで解決した。それだけ深く、レイナの存在はアトラスの心に跡を遺した。


 だが、その手段は喪われた。

 たとえ兄でも、アウルムには代われない。

 だからアウルムはとことん聞いた。時折相槌をうちながら、アトラスに溜め込んだものを吐き出させた。


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お読みいただきありがとうございます

↓八章人物紹介

https://kakuyomu.jp/works/16818093076585311687/episodes/16818093081691323353

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