□月星暦一五六〇年六月③〈兄の役目〉

【□アウルム】

ーーーーーーーーーーーーーー

 高台にある城からは街門の旗がよく見える。

 報せを受けたアウルムは、城の玄関で自らアトラス達を出迎えた。


「ただいま、戻りました」

 一目見て、アトラスの顔色の悪さにアウルムは胸を痛めた。


「お帰り。この度は出向けず済まなかった」

「宰相のネウルスを派遣して頂いた、それだけで充分兄上のお心遣いは伝わりました。感謝します」


 そう言って、頭を下げるアトラスの、平然を装った態度が痛ましかった。


 全然平気ではないのに、綺麗に平気な振りをする姿は、嫌と言うほど知っている。


 アウルムだから判る違和感。


 アウルムは同行者を労うと、アトラスの手首を掴んだ。

「少し二人で話そう。今日の仕事は終いだ」

 ネウルスが何やら喚いていたが無視する。


 アウルムは人払いをして応接室にアトラスを放り込んだ。


「兄上?」

「お前、ひどい顔をしているぞ」

「船旅に疲れただけですよ」


 棒読みの返答に、アウルムは溜息をついた。


「アトラス、ちゃんと寝ているか?食べているか?」

「いやだな。子供じゃないのですから」

「哀しむのに大人も子供もあるか!」


 怒鳴りつけるとアトラスがぽかんとした顔をした。


「大人だからなんだ?哀しければ泣けば良いんだ!泣くことも許されない少年時代を送ったんだ、最愛の者を喪った今位、泣いたって良いじゃないか」


 呆けたアトラスの顔が歪む。 


「はは……。兄上には敵わないなぁ」


 乾いた笑いを漏らすと、アトラスは片手で両こめかみを抑えた。


「ホント、敵わない……」

―――――――――――――

お読みいただきありがとうございます


お兄ちゃんさすが!と思ったら、1タップ(クリック)の励みをぜひお願いします。


↓八章人物紹介

https://kakuyomu.jp/works/16818093076585311687/episodes/16818093081691323353

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る