■月星歴一五四三年十一月②〈襲撃者〉★
静かな日常に突如現れた襲撃者は見事な連携を見せていた。
特殊な訓練を受けた者の動きであることは疑いようはない。
戦場でも、一騎打ちにも適さない型ではあるが、こういう場合ならば有効であろう。
相手の集中力を乱すやり方でもある。
だが、アトラスは惑わされなかった。三枚の刃をしっかりと目で追う。巧みに躱しながら気づいた。
三対一なのだ。
男達はレイナを相手にしていない。執拗にアトラスばかりを攻めるわりには急所を狙ってこない。
妙だった。
どうやら相手は殺さずに動きだけを封じたいらしい。
疲れるのを待っているのかもしれなかった。
様子を見るため、衛りに徹していたアトラスだがいい加減に苛々してきた。
わざわざ相手の思惑に乗ってやる必要は無い。一対一でも無い相手に遠慮することも、ましてや襲ってきた相手に情けをかけてやる必要も無い。
手数を減らさずに、意識して重い剣戟を繰り出した。相手のリズムを狂わせ、連携に乱れを生じさせる。
レイナも自分の役割を心得ていた。
隙を見逃さずに、一人を自分の相手として確保。
アトラスから注意を逸らす。
出来れば、生かして捕らえたかった。
故に殺さずに動きだけを封じたいのはアトラスとて同じだった。三人くらいならなんとかなる確信はあった。
しかし、次の瞬間には違う決心を迫られることとなった。
殺気立つ別の気配。それも複数。
瞬時に肚を決めたアトラスに躊躇はなかった。
一気に間合いを詰め、一人を切り伏せる。そのまま剣を返し、もう一人は喉を掻き切って絶命させた。
ほとんど一瞬の出来事だった。
レイナも、彼女が対峙していた相手も何が起ったのか判らなかった。
二人とも戸惑いに刹那棒立ちになる。
レイナが我に返ったときには残る一人も倒されていた。
アトラスは、ここでも動きを止めない。
身を翻し、続け様に次の気配に向かって走り出す。
追う、レイナ。
だが、薮が開けたとたん、動きがとまった。
辛うじて止めたという方が相応しいかもしれない。そうすることでレイナはアトラスに衝突するのを堪えた。
一方、アトラスも不自然に体をねじり、無理矢理振り下ろしかけた剣を止めていた。
仮にレイナがぶつかっていたら、この努力の甲斐もなく犠牲者が一人増えているところだったはずだ。
「紛らわしい!!」
体制を戻しながら、アトラスは盛大に怒鳴った。
「この状況で、殺気立ててくる奴があるか!!来るならもっと早くしろよっ」
無茶苦茶である。
無事でよかったとか、どうしてここにいるのかとか、相手がよく知る友人ならば言うことは他にもあっただろうに、結局アトラスの心中を切実に表しているものに落ち着いた。
「重要参考人の口、封じちゃったねえ」
横からレイナが間延びした声で呟く。
殺されかけた男も、状況を認識していないのか、相手をよほど信用しているのかという態度。
「一応は加勢に来たのだから礼ぐらい言われてもいいくらいなのに、つれないなぁ」
このぼやきが第一声だった。
ハイネ・ウェルト・ブライト。
レイナの幼なじみであり、自称かつてのアトラスの恋敵。現在は月星にて、王女アリアンナの婚約者ということになっている。
「アトラス様、ご無事で何よりです。でも、さすがですね、これでも抜きんでた手練だったはずなのに……」
ハイネの後ろから、至極まともな言葉を述べるのは十六夜隊現隊長、ウィル・ネイト。
この男の姿を認めて、さすがにアトラスの顔も厳しくなった。
人物紹介はこちら↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093076585311687/episodes/16818093079405183440
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