□月星歴一五四三年四月②〈サンクの動揺〉
【□サンク】
ーーーーーーーーーーーーーー 船に乗るや奥に引っ込んだアトラスとレイナは、身軽で質素な旅装に着替えて出てきた。
「次の寄港地に着くまでには戻るわ」
「後は頼む」
「ちょ、どこへ行くんですか?」
サンクが慌てて引き止める。
「せめて護衛……、僕を連れていってくださいっ!」
サンクの叫びも空しく、竜は浮上を始める。
「アトラス様!」
「無駄ですよ」
気の毒そうに、サンクに声をかけたのはレイナの衣装係のストラ。
「そうね。ペルラさまが同行されてなくて本当に良かった」
髪担当のハールもぼやく。
ペルラはライとの第一子を妊娠中の為
「ですが……」
「ああいう人達です。慣れてください」
ライも困ったように笑ってサンクの肩をたたいた。
「レイナ陛下も、その、お一人でどっか行っちゃう様な方なのですか?」
アトラスが王族にしてはかなり奔放なことは、半年一緒にいてサンクも把握している。
「さすがにお一人では行きませんが、行きはハイネさまがいましたので連れ回していましたね」
ハイネはアトラスと入れ換わるかたちで月星赴任となった。
「でも、ハイネさまでは面白く無かったみたいですね」
ハールの言葉にライはくつくつ笑う。
「どういうことですか?」
「ハイネさまは、ああ見えてお坊ちゃまですから」
ライの返答に、ますます困惑するサンク。
「つまり、レイナ様のお相手はアトラス様にしか出来ないということですよ」
そこまで聞いて、サンクも納得した。
レイナもなかなかに無茶を言う人で、その無茶振りに無茶振りで対応できるのはアトラス位だと理解した。
「その、良いのですか?」
危険では無いのかという問いだが、三人共一様に苦笑で応えた。
五年も旅をしていた二人だ。今更ということらしい。
「竜ってもう一人乗れるのでしょう?もう一頭呼んでくれればそれぞれ護衛ができますのに」
サンクがぼやくと、ストラとハールから冷たい目が浴びせられた。
「二人きりだから良いんでしょ」
「そこは察しなさいな」
解らなくはないが、危険回避と天秤にかけるほどのことなのか、サンクには判断がつかない。
ネウルスに意見を聞きたいところだが、船酔いが酷く船室から出てこない。
ヴァルムに至ってはアトラスはそういう生き物と割り切っているらしく、気にも留めていない。本人も好きに過ごしている。
「とはいえ、こうも羽目を外すのは今回だけ、となるでしょう。新婚旅行と思って目を瞑ってあげて下さい」
竜護星の者達は溜息をつきながらも誰も引き止めない。
二人が自由に出歩ける時間はこれが最後だと解っている。
竜護星に付けば、国主とその配偶者としての政務が待っている。
【人物紹介】
https://kakuyomu.jp/works/16818093076585311687/episodes/16818093078876074057
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