第四章 三人の『兄』

■月星歴一五四二年十月大祭翌日①〈側付きの少年〉

 月星で一番大事にされている行事、月の大祭。


 月におわす女神に豊穣を祈り感謝する性質上、月が南中する頃に神事が行われる。その後宴に移行する為、お開きになる頃には空が白み始めていた。


 大祭の主役だったタビスたるアトラスも例に漏れず、起きた頃には正午を回っていた。


 控えめなノックの音。


「お目覚めになられましたか?」


 すっかり側付きの座に収まった、神官見習いの少年プロトが、大きな籠を抱えて現れた。


 少年を招き入れると、自身は隣の部屋に向かう扉を開いた。もう一つくぐればそこは風呂場になっている。


「汗を流してくる」

「沸かしていませんよ?」

「水でいい」


 旅の間は、川や池で水浴びなんてこともままあった。浴槽があるだけありがたい。


 戻ってくると、少年は壺の様な形の鍋からスープをよそっているところだった。


「普通に俺も食堂に行くよ?」

「暫くはやめたほうがいいです」

 少年は上に目を向けた。

 二階は宿坊となっており、この時期は大祭に来た客の滞在先になる。


「昨晩はだったそうで、城内その話題で持ちきりですよ」

 どこか皮肉めいた口調のプロト。


「あぁぁ、まぁ、そうか……」


 アトラスはため息をついた。

 自身で仕向けたこととはいえ、改めて聞くとげんなりする。


 食事の内容は、宴に疲れた身体を慮って軽めの内容になっていた。スープにパン、ドライフルーツを入れたヨーグルトとハーブティー。


 後で食すつもりなのだろう、籠の中にはもう一組の食器が入っていた。壺の中にはまだスープは残っている。パンも一人分の量では無い。


「プロト、お前も一緒にいただきなさい」

「ですが」

「隣にずっと立たれてるよりいい」


 宴に出席した者がのんびり昼迄寝ている間に、通常の時間に起きて、朝のお務めをこなし、食事の用意をしと、既にいくつものことを少年がこなしていることを、神殿育ちのアトラスは知っている。


「食事ってもんは、誰かと食べた方が美味い」


 少年は逡巡する素振りを見せたものの、結局向い側に座った。


 スープは乾燥させた貝の出汁をふんだんに使い、牛乳で煮込んだものだ。酒の入った胃に配慮して、優しいものに仕上がっていた。パンをちぎって浸して食す。


「五大公の方々がお会いしたいそうで、城でお待ちだそうです」

「はぁ?」

 アトラスは思い切り顔をしかめた。


 嫌な予感しかない。


 そういえば五大公の面々は、年齢的に夜更しは辛いと宴は欠席か、出席しても早々に退散していた。

 朝になって事の顛末を聞き、慌てて城に集まったのは容易に想像できる。


「まったく、じじいどもが。今日位ゆっくりさせろと言うに……」


 毒づくあるじの言葉を、プロトは礼儀正しく聞き流した。

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アトラスの部屋イメージ

https://kakuyomu.jp/users/Epi_largeHill/news/16818093085050368809

四章イメージ画

https://kakuyomu.jp/users/Epi_largeHill/news/16818093088534325836

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