窓際刑事の最後の事件簿

第1話

　私は関東のＱ市の警察の刑事課に10年ほどいた、２年後にはこのまま定年を迎えるはずだったが勤務中に股関節を折ってしまった。筋力の落ちた脚力や、やせ衰えた体が刑事課には無理だろうということで留置場看守の配属になった。

　看守の仕事はデスクワークをしながら椅子の位置から扇型になっている留置場にいる被疑者の動向を見守るのが仕事であるが、意外と刑事課とはつながっていることに気が付いた。

　被疑者は長い尋問に疲れ留置場に戻ってくると意外なことを話す、時には目の前にいる看守が唯一の話し相手と思うらしくプライべートな事はよく話す、時には看守が警察官であることを忘れてしまうほどよく話す者もいる。話の中には事件とつながる情報もある。

　ある日賭博容疑で逮捕された大山２９歳という男が取り調べに疲れて留置場で横になっていた時、寝言のような口調で「あの女の野郎」と何度か繰り返したのを聞いた。この事案は確か女は絡んでないはずだが、私はこの言葉に興味を抱いた、なぜならこの男の賭博の場所は女店長がいるR模型店らしい、私はこの店の名前や場所はよく知っていた。

　3年前私の甥っ子の春雄（私の妹の長男）が自殺した、私は春雄の自殺にはどうしても納得がいかなかった。春雄は自殺の数時間前には私の家によって夕飯のカレーライスを食べたのである。食後に明るい声で「ごちそうさま」と言って帰って行った。あの時の笑顔にはその数時間後の自殺を思わせる気配はどこにもなかった。確かあの晩はR模型店の帰りだと言っていた、

　翌朝、私の後輩の刑事が自殺の事実を知らせにきたのである。現場は郊外の公園の電柱っだった、死亡時刻は午後９時頃で、事件性を鑑みて周辺の状況を調べたが何人かの足跡と何台かのタイヤ痕が見つかっただけで事件性に繋がるものはなかった、また本人のポケットから手帳らしきものが見つかり、そこには遺書らしきものが書いてあったというのだ、状況で自殺ということで処理されてしまった。信頼していた後輩の担当なのでそれ以上は突っ込まなかったが、私の中ではもやもやしたものがくすぶり続けていた。