第19話 露店デートまでは良かったんだけどなあ By銃器人格

「ありがとな。あの宝石、嬉しかったぞ」

「そう笑ってくれるなら、俺が出した甲斐もあるよ」


嬉しそうに指輪を見ているから、成功と言えるかな。もしかしたらの可能性で罪悪感に押し潰されそうになってしまうのがあった。


けど、今ミリャンは喜んでる。これだけでもデートの意味はあるよね。


「アヤト、アヤト。私、あれ食べてみたい。一緒に食べよう!」

「んー、確かに美味しそうだね。俺が奢るから一緒に楽しもうか」

「え、ぁ、それは何というか……申し訳ないと言いますか」

「なんで敬語になってんのさ。別に俺は恩を売りたいとか、返したいとか、そんなんじゃないよ」

「じゃあ看病の件か!?あれならもう大丈夫だぞ……?」

「それはもう日頃で返されてます」


「買ってくる」という言動にミリャンは懐疑の視線を向けてくるが、俺は笑ってやり過ごす。納得させる言葉を吐きながら。


最初は申し訳なさが目立っていたけど、俺に言いくるめられてからはワクワクしながら待っていた。


ほんと、大丈夫かなあ。俺、王としての知識を頼りにして言葉をこねくり回しただけなんだけど。友人代表として心配になっちゃうよ。そうした本人ではあるんだけどね。


えぇと、この焼き鳥の値段はどれかな。……銀貨3枚か。結構高いと言いますか、強気な値段してるな。


そこらの高価な宿くらいの値段じゃん。その材料となるのは、やっぱりモンスターの種類が原因か。こもっている魔力の質が高い。


その点から見ると妥当なんだけど、露天で出すべきものでは無いよな。まあ、必要経費だろ。


「ほーい、買ってきたよ。ソースがたっぷり付いてある焼き鳥を食べな〜?」

「ぐぉお。この匂い、間違いなくソール・ヴァースのソースだ……!それも、黄金比の6:4を守っている超逸材の」

「うーん。よく分かんないけどさ、冷めないうちに食べたらどう?」

「そうする。い、いただきます」


体を堅くさせながら焼き鳥を口に向かわせるその動作に少量の笑みが溢れてしまえば、ミリャンからは睨んだような視線を当てられてしまった。


リスのように頬を膨らませるのにも笑みが出てくるのは、仕方ないと言い訳したい。


ぷんすかぷんすかと怒った後、素直に焼き鳥を食べるのを再開するのだから、余計に面白い。俺の視線よりも、食べ物の誘惑が高かったみたいだ。


そして、その美味しさのあまり、背を後ろにそり曲げるのだから、可愛さも膨れ上がってきてしまう。


というか、後ろにそり曲がり過ぎでは?あのままだと地面に背中からドボンしてしまうでしょうに。全く、世話の掛かるお姫様だこと。


心の中で苦笑を浮かべつつ、倒れそうになっているミリャンを支える。ミリャンにとって大事そうである焼き鳥を落とさないようにしながら。


「危ないよ。美味しいんだろうけど、食べて怪我するのは駄目かな。怪我なしで食べれないのなら、没収するよ」

「やめてくれ!もう大丈夫だから、それだけは」

「冗談。でも、これ以上になると本気になるぞ?」

「分かった、分かったからさ……離れてくれ。顔、近い。自分の顔面が良いこと、把握してろよぉ」


想像していたものよりも斜め上からの攻撃に、照れが浮かんでくる。先程までは全力で阻止していたと言うのに、たった一言で浮かんできてしまった。


この言葉を受けて思う。俺、不意打ちに弱いなあ。自分が用意していた攻撃なら得意だけど、準備を一切していない攻撃はもろに受けてしまう。


王だった時はもう少し余裕があったはずなんだが。体の未熟さに精神が着いていってるのかもしれない。


「あ、おいし」


確かにこの焼き鳥、良い感じの味付けされてる。濃すぎなく、薄過ぎず。丁度良い範囲を攻めてくる。元日本人であり、元王である俺の肥えた舌を満足させるとは。


……あ、時系列逆だった。


ーーー


「ここの露店たち、美味しいのばっかりだったな。流石エルドラグーン伯爵の領地で二番目に繁栄している街」

「だな。思ったよりも楽しめたぞ。浮気調査の件も問題なさそうだ。強いて言うなら、アヤトの嫌な予感だな。まだ解けていないんだろう?」

「ほんと、よく的確なのを放つな。…そうだよ。エルドラグーン伯爵と出会った時から感じている予感は終わっていない。まるでこれから絶望の時間が始まるように予感が襲い続けてる。俺の予感が気のせいであるのなら良いんだが……」


不安を感じながら食後の飲み物を飲んでいる時だった。エルドラグーン伯爵が入っていた建物を中心に、火柱が発生する。


監視的存在でエルドラグーン伯爵が無傷なのは確認している。しかし、火柱が発生した原因は分かっていない。


遠隔操作で魔法を発動させたのかもしれない。いや、そうだとしたら魔力の痕跡が無さすぎる。


……こんな考えても無駄だな。出たら良いが、これは考えても出ないだろう。それに、動けるのなら伯爵を助けた方が良い。


腰に装着しているSAAの弾丸の残量が満タンなのを確認しつつ、ミリャンと共に走る。エルドラグーン伯爵が無事なのを祈って。


____

☆作者一言メモ

はてさて、一体どうして火柱が起こったのでしょうか。

次回、綾人の苦手なもの

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