会社に行くフリして女の子を助けたら、なぜかハーレム状態になった反面教師おじさん
十文字ナナメ
第1章 女子高生フードファイター⁉
シノ「始まりましたね第1話」
【お知らせ】
第1章ヒロイン、青木シノのイメージイラストです⬇️
https://kakuyomu.jp/users/jumonji_naname/news/16818093086411816673
それでは本編をどうぞm(_ _)m
♢♢♢♢♢
「ごめんね、お嬢さん。チャレンジの方は、ちょっとね……」
店主にそう断られ、シノは肩を落とした。通常のメニューではお金がかかる。また、自炊より割高でもある。
バレー部の練習帰りで空腹だったが、仕方なく店を出た。
*
家路にある公園。ベンチに腰を下ろす。
「はあ」
ため息をついた、その時だった。
「諦めるな! おじさんと違って、君はまだ間に合う!」
顔を上げると、見知らぬおじさんが立っていた。
(……サラリーマン?)
スーツ姿から、シノはそう思った。が、なぜかサングラスをかけている。
(何なのこのおじさん……)
「怖がることはないぞ、シノ君」
「! 私の名前、どうして」
「知っているとも。青木シノ、高校2年生。とある飲食店のデカ盛りチャレンジに挑もうとするも、少女という理由で断られたことも」
(当たってる……)
「あなたは、いったい……」
「通りすがりのおじさんだ。おじさんと呼んでくれ」
「どうして私のこと知ってるんですか、おじさん。まるで、見てきたみたいに」
「どうしてかって? それは……」
シノは固唾を呑んだ。
「普通に見ていたからだ、あの店で。たまたま食事していた」
シノは呑んだ固唾を返せと思った。
「そうだ、これを落としていったぞ」
おじさんが差し出したのは、シノの生徒手帳だった。
「あっ、いつの間に」
どこかで落としてしまったようだ。名前や学年は、ここから読み取ったのだろう。見た目は怪しかったが、わざわざ届けてくれたところを見ると、悪い人ではないらしい。
「どうもありがとうございました。じゃあ、私はこれで……」
立ち去ろうとするシノを、しかしおじさんは逃がさなかった。
「待ちたまえ! 本題はこれからだろう」
「えっ、まだ何か」
「チャレンジだよ、完食でタダの。やろうとしたんだろう?」
どうやら再起を促しているようだったが、店主に断られたシノにはどうすることもできなかった。
「ああ、もういいんです。諦めます」
「そんな風に物事を諦めていたら、こんなおじさんになってしまうぞ」
「女なんですが」
「君のような若者を救うために、おじさんは反面教師のおじさん――『反面おじさん』をやっているんだ!」
「あの、結構ですから」
「では、具体的な話を聞こうか。座りたまえ」
撒いてやろうかと考えたが、結局、シノは経緯を打ち明けてしまった。このおじさんのために必死になって逃げるのも、何だか癪だと思ったのだ……。
*
・両親共働きのため、夕食は自分で用意しなければならない
・人より多めに食べるので、調理に手間と時間がかかる
・たまには自炊を休みたい
・外食や
・完食すれば無料になる大食いメニューを見つけたので、注文する
・女子高生には無理だと断られる
*
「楽勝だな」
シノの予想に反して、おじさんは余裕の態度だった。
「でも、どうやって」
おじさんは自分の胸に手を当てて言った。
「簡単だよ。おじさんのスーツを着ればいい」
シノは理解が追いつかなかった。追いつきたくもなかった。
「大人で男なら、完食の見込みアリとみなされる。条件はクリアーされるはずだ」
女の子よりも食べる成人男性を装うことで、冷やかしでないと分からせる――。そのロジック自体は、まあ理解できなくもなかったが……。
「つまり、私に男装しろと?」
単なる確認だったのだが、おじさんは意外と繊細だった。
「君が女の子らしくないと言っているのではないよ? むしろ、美少じ……。だ、ダメだ。どう説明しても、セクハラで通報される!」
(もしかして、褒めようとしてくれた……?)
自意識過剰だとは思いたくなかった。そう思ってしまっては、彼の善意を否定してしまう気がしたのだ。
「……」
自分の髪をつまんでみる。部活に関係なく、髪型はショートカットがお気に入りだった。バレー部でエースを務めるシノの身長は、173cmもある。
少女は小さく微笑んだ。
「……確かに。やれちゃいますね」
「おっ、だろう?」
「けど、男装なんてしたことないし、上手くいくかどうか」
「まあそうか」
「そうだ。おじさんも一緒に来てくださいよ。一人じゃ不安なので」
「ああ、いいとも。じゃあ早速……。あれ?」
おじさんは気づいた。
「待てよ。おじさんがシノ君にスーツを貸す」
「はい」
「スーツを貸したおじさんも、一緒に店へ入る」
「そうです」
「そしたら、おじさんは何を着ればいいんだ? パンツ一丁で飛び込めと?」
着るものがなくなってしまうと嘆くおじさんに、シノは落ち着き払って答えた。
「簡単ですよ。私の制服を着ればいいんです」
おじさんは話についていけなかった。ついていきたくもなかった。
「そ、そんなこと、できるわけないだろう!」
「おじさん。人にはやれって言って、自分はできないんですか?」
「うっ。そ、そうだ、髪の毛だ! 女装するには長さが足りない」
「それがですね。演劇部の子から、劇で使うカツラをたまたま預かっていたのを思い出しました」
「そんなたまたまがあってたまるか!」
「本当ですよ、ほら」
スクールバッグから、艶やかな黒髪ウィッグが出てきた。
「い、いやいや。髪が伸びたって、おじさんから女の子のパターンは、キツいものがある」
「どうしてですか?」
自分自身を指差すおじさん。
「顔だよ。セーラー服にサングラスは違和感があるから、取らなければならない」
「スーツにサングラスも違和感ありますけどね」
「フルフェイスおじさん状態での女装は、ちょっとした兵器だぞ」
「そもそも、なんでサングラスしてるんですか?」
「これは、身バレ防止のためだ」
「へえ。芸能人みたい」
「そんないいものではない。ある事情で、家族や知人に気づかれてはいけないのだ」
「それでサングラス? 家族や知人の方には、バレちゃう気がしますが」
「えっ、そうかな」
「つまり、目の病気とかではないんですね?」
「そうだ。あっ」
シノはおじさんからサングラスを取った。
「か、返せ! それはおじさんのサングラスだ!」
「おじさん……」
「な、何だ……?」
「損してますよ、サングラス。10歳くらい若くなりましたよ」
「えっ、本当?」
「はい。20代前半って言われても、疑いませんね」
「実際に、今24歳なんだが」
「24歳⁉ う、うそ」
「おい! 失礼だな」
「す、すみません。とにかく、これならいけるってことですよ」
「マジか……」
素の言葉が出てしまうおじさん。シノにとっては、ちょっとした発見だった。
「口調も、サングラスを外すとちょっと砕けるんですね」
「そうかもしれん。サングラスが、反面おじさんスイッチになってるのかも」
「普段から、一人称『おじさん』ってことはないですもんね」
「そうだな。外したら、『俺』の方が言いやすいな。学生には」
「お店では、『私』とかでお願いしますよ? 女装するんですから」
結局、サングラスはシノに封印されてしまった。
おじさんは腹をくくるしかなかった。自分が焚きつけたことでもある。
「やるしかないか……」
ため息一つ。顔を上げると、曇りなき眼で公衆トイレを見つめた。
「着替えは、この公園のトイレを使うか。俺が女子トイレってわけにいかないから、すまんが男子トイレで我慢してくれ」
「うーん。やむを得ませんね」
「よし、作戦開始だ」
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