会社に行くフリして美少女達を助けたらハーレム状態になった反面教師おじさん

十文字ナナメ

第1章 女子高生フードファイター⁉

シノ「始まりましたね第1話」

「ごめんね、お嬢さん。チャレンジの方は、ちょっとね……」


 店主にそう断られ、シノは肩を落とした。通常のメニューではお金がかかる。また、自炊より割高でもある。

 バレー部の練習帰りで空腹だったが、仕方なく店を出た。


         ×


 家路にある公園。ベンチに腰を下ろす。

「はあ」

 ため息をついた、その時だった。



「諦めるな! おじさんと違って、君はまだ間に合う!」



 顔を上げると、見知らぬおじさんが立っていた。

(……サラリーマン?)

 スーツ姿から、シノはそう思った。が、なぜかサングラスをかけている。

(何なの、このおじさん)


「怖がることはないぞ、シノ君」

「! 私の名前、どうして」

「知っているとも。青木シノ、高校2年生。とある飲食店のデカ盛りチャレンジに挑もうとするも、少女という理由で断られたことも」

(当たってる)


「あなたは、一体」

「通りすがりのおじさんだ。おじさんと呼んでくれ」

「どうして、私のこと知ってるんですか、おじさん。まるで見てきたみたいに」

「どうしてかって? それは……」

 シノは固唾かたずを呑んだ。


「普通に見ていたからだ、あの店で。たまたま食事していた」

 シノは呑んだ固唾を返せと思った。


「そうだ、これを落としていったぞ」

 おじさんが差し出したのは、シノの学生証だった。

「あっ、いつの間に」

 名前や学年は、ここから読み取ったようだ。見た目は怪しかったが、わざわざ届けてくれたところを見ると、悪い人ではないらしい。


「本当に、どうもありがとうございました。じゃあ、私はこれで……」

 立ち去ろうとするシノを、しかしおじさんは逃がさなかった。


「待ちたまえ! 本題はこれからだろう」

「えっ、まだ何か」

「チャレンジだよ、完食でタダの。やろうとしたんだろう?」

「ああ、もういいんです。諦めます」

「そんな風に物事を諦めていたら、こんなおじさんになってしまうぞ」

「女なんですが」



「君のような若者を救うために、おじさんは反面教師のおじさん――反面おじさんをやっているんだ」



「あの、結構ですから」

「では、具体的な話を聞こうか。座りたまえ」


 いてやろうかと考えたが、結局シノは経緯を打ち明けた。このおじさんのために必死に逃げるのも、何だかしゃくだったのだ。


          ×


・両親共働きのため、夕食は自分で用意しなければならない

・人より多めに食べるので、調理に手間と時間がかかる

・たまには自炊を休みたい

・外食や中食なかしょくは高くつく

・完食すれば無料になる大食いメニューを見つけたので、注文する

・女子高生には無理だと断られる


          ×


「楽勝だな」

 シノの予想に反して、おじさんは余裕の態度だった。

「でも、どうやって」



「簡単だよ。おじさんのスーツを着ればいい」



 シノは理解が追いつかなかった。追いつきたくもなかった。

「大人で男なら、完食の見込みアリとみなされる。条件はクリアーされるはずだ」

「つまり、私に男装しろと?」

 シノは単なる確認のつもりでいたのだが、おじさんは意外と繊細だった。


「君が女の子らしくないと言っているのではないよ? むしろ、美少じ……。だ、ダメだ。どう説明しても、セクハラで通報される!」

(もしかして、褒めようとしてくれた……?)


 シノは自分の髪をつまんでみた。部活に関係なく、髪型はショートカットがお気に入りだった。バレー部でエースを務めるシノの身長は、173センチもある。

 シノは小さく微笑んだ。狼狽ろうばいしているおじさんは、気づいていないようだったが。


「……確かに、やれちゃいますね」

「おっ、だろう?」

「けど、男装なんてしたことないし、うまくいくかどうか」

「まあそうか」


「そうだ。おじさんも一緒に来てくださいよ。一人じゃ不安なので」

「ああ、いいとも。じゃあ早速……。あれ?」

 おじさんは気づいた。


「待てよ。おじさんがシノ君にスーツを貸す」

「はい」

「スーツを貸したおじさんも、一緒に店へ入る」

「そうです」

「そしたら、おじさんは何を着ればいいんだ? パンツ姿で飛び込めと?」



「簡単ですよ。私の制服を着ればいいんです」



 おじさんは話についていけなかった。ついていきたくもなかった。

「そ、そんなこと、出来る訳ないだろう!」

 シノはジトッとした目つきでおじさんを非難する。

「おじさん。人にはやれって言って、自分は出来ないんですか?」

「うっ。そ、そうだ、髪の毛だ! おじさんの髪は君のより短いぞ」



「それがですね、演劇部の子から、劇で使うカツラをたまたま預かっていたのを思い出しました」



「そんなたまたまがあってたまるか!」

「本当ですよ、ほら」

 スクールバッグから、つややかな黒髪のウイッグが出てきた。


「い、いやいや。髪が伸びたって、おじさんから女の子のパターンは、キツいものがある」

「どうしてですか?」

「顔だよ。制服姿でサングラスは違和感があるから、とらなければならない」

「スーツにサングラスも違和感ありますけどね」

「フルフェイスおじさん状態での女装は、ちょっとした兵器だぞ」


「そもそも、なんでサングラスしてるんですか?」

「これは、身バレ防止のためだ」

「へえ。芸能人みたい」

「そんないいものではない。ある事情で、家族や知人に気づかれてはいけないのだ」

「それでサングラス? 家族や知人の方には、バレちゃう気がしますが」

「えっ、そうかな」


「つまり、目の病気とかではないんですね」

「そうだ。あっ」

 シノはおじさんからサングラスをとった。


「か、返せ! それはおじさんのサングラスだ!」

 あらわになったおじさんの目を、シノはじっと見つめる。


「おじさん……」

「な、何だ」

「損してますよ、サングラス。10歳くらい若くなりましたよ」

「えっ、本当?」

「はい。20代前半って言われても、疑いませんね」

「実際に、今24歳なんだが」

「24歳⁉ う、うそ」

「おい! 失礼だな」

「す、すみません。とにかく、これならいけるってことですよ」

「マジか……」


「口調も、サングラスを外すと、ちょっと砕けるんですね」

「そうかもしれん。サングラスが、反面おじさんスイッチになってるのかも」

「普段から、一人称『おじさん』ってことはないですもんね」

「そうだな。外したら『俺』の方が言いやすいな。学生には」

「お店では、『私』とかでお願いしますよ?」


 結局、サングラスはシノに封印されてしまった。

 おじさんは腹をくくるしかなかった。自分が焚きつけたことでもある。


「着替えは、この公園のトイレを使うか。俺が女子トイレって訳にいかないから、男子トイレで我慢してくれ」

「うーん。やむをえませんね」

「よし、作戦開始だ」

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