第37話 リザードマンの少女
まるでウーパールーパーの様に丸っこく愛嬌のある顔に、宝石の様に純白無垢の瞳に長いまつ毛、満面の笑みで横に大きく広がる口がカパッと開き、大きなクッキーを頬張る。
首元にリボンが付いた半袖のシャツに半ズボンを履いたリザードマンの少女の笑顔に、全員目がハートだ♡
「ねえねえ♪アンタなんて名前なの?」とギャルが少女を抱き上げ聞いてみる。すっかりギャルはこの子が気に入ったみたいだ。
「なまえ?…なまえねえ♪ おなまえはぁ…
シバ!」
「ふーん♪シバって言うんだ♪かわいいねえ♡」
少し間を置き、思い出した様に自分の名前を話す少女の名前を聞くとニコニコ顔でキャッキャっとシバを抱き上げたままぐるぐると遊ぶギャルとシバ。
その光景が微笑ましい。
リザードマン
一見モンスターの類に思われるが、エルフ、ドワーフ等と同じ亜種族で言語を使う。竜族の眷属であり、半人半竜の姿で二足歩行で生活している。
幼少期は頭が大きく愛嬌のある顔立ちも青年期になると眼光鋭く、口元も前に出てトカゲの様な顔つきに変わる。
鱗のある体は緑色、茶色、赤色、黒色等個性があり、それに伴う色合いの頭髪がある。その髪型も個体それぞれ違う。
ただ、竜族と違うのは尻尾はあるが翼が無い。
戦闘種族である彼らの脅威はその身体能力だ。恐るべきスピードと柔軟性に富んだ全身筋肉の引き締まった体から織りなす攻撃は脅威でしかない。特にその尻尾からの攻撃は大きな獲物も一撃で仕留める威力がある。
見た目は竜より「トカゲ人間」に見えるが、その姿を馬鹿にする奴らは命の保証はない。
雑食性だが肉を特に好む彼らの餌になるのはごめんだ。
さて、この迷子のリザードマンの少女をどうしたものか…
「シバちはさあ?お父さんとかお母さんとかいないの?どうして一人でいるの?」とギャルがシバをおんぶしながら聞く。シバはニコニコと尻尾をパタパタと振ってすっかりギャルに懐いている。
「とーと、かーかは、いないよ?シバは きょうは たんけんしてるの!」
と笑顔で答える。
親はいないって?今日は一緒にいないって事か?死に別れだって事か?よくわからないな。
「ねえ?シバちゃん?どこから探検にきたのかな?」今度はアローラが質問だ。
「んー…」と口元に人差し指を当て、考え込むと「よくわかんない!」と笑顔で答える。
「あはは…」アローラは困った顔を誤魔化す様に笑って見せた。
「フム。まさに迷子ではないか?どうするリオン?このまま森の中をこの少女の家族を探す事もできるが、俺達も森の中で迷う可能性もあるぞ?」
「違いねえな」
俺とナルシスの心配をよそにシバはギャルとアローラと追いかけっこをしたり遊んでいる。あの屈託のない笑顔のシバを家族の元に帰してやりたいな。
「このまま15階層の『クイーン』に連れていく手もあるぞ?『クイーン』のギルドセンターで迷子として預かってもらうのじゃよ。
シバの身内を探すクエストも発生されるかもしれんの?」
おおーっ!ナイスアイデアだトム爺!
「その手があったか!」と俺はパチンと手を叩く。「それならシバを安全な所で見てもらえるし、探索クエストが発注されたら冒険者総出でシバの帰る先を見つけれるかもしれないぞ!」
「そうね!それが一番ね!」
アローラをはじめ俺の呼びかけにみんなも賛成だ。
「シバ。絶対家に帰してやるからな」
俺の言葉を聞くと、シバはみんなを不思議そうにニコニコと見回している。
「じゃあ、荷物をまとめて出発だ。」みんなに出発を促すと、オヤツパーティで広げたシートやカバン等を片付け始める。
横にいるシバを見るとニコッと笑顔で俺を見てくる。
「新しい仲間だな?よろしくな?シバ」
しゃがみ込み、笑顔でシバに手を差し伸べると、その小さな手でシバは俺の手をキュッと握り返し「えへへへ」と笑った。
うわあ。めちゃくちゃ可愛いな。絶対家に帰してやるからなあ。うふふ♪
片付けも終わり、15階層へ向かうのにシバはニンジャが背負う事にした。
んだが…
「ちょっと!なに決めてんのよ!?シバちはウチがおんぶするって決めてんし!」とギャルのお得意のわがままが始まったんだ。
「何言ってんだお前?お前はクロスカブでアローラの後ろに座るんだろ?
シバを背負ってアローラの後ろに乗るのか?そんなあぶねー事させれねーよ?」
呆れながら答えると、ギャルはしばらく考え込みポンと握った手で掌を叩いた。
「じゃあこうすれば良いじゃんか♪」
と、ニンジャの背中にシバを背負ったまま飛び乗った!
「ばか!嘘だろ!?ニンジャが潰れちまうよ!」
「大丈夫だよねー?ニンニン♪」と背中のシバと一緒に笑いながらニンジャに話しかけるギャル。
その問いに冷や汗をかきながら、親指を立てて答えるニンジャ。
うそ?マジか?相変わらずわがままギャルに振り回されてばかりだなお前は。
「ククク♪」とナルシスはその光景を笑ってる。
「おい。ナルシス。笑ってないでお前からもなんか言ってやれよ?」呆れながらナルシスを振り返る。
と、俺は目の前の光景に目を疑った。
俺とナルシスの間に、誰かいるんだ。
眼光鋭く長い黒髪。
全身金色がかった深い緑色の体。
右手には長く鋭い黒い槍。
胸と腰には同じく黒色のレザーメール。
長く獰猛そうな尻尾に、耳まで裂けた大きな口。
完全なる戦闘民族…
リザードマン!!
それを認識した瞬間、リザードマンはクルリと体を捻ると、その獰猛な尻尾をナルシスの腹にめがけて叩きつけた!!
ドーンッッッ!!
「ぐほっ!!」
完全に不意をつかれたナルシスは後ろの大木まで吹き飛ばされ完全に気を失う。
「なにコイツ!?」突然の出来事に訳のわからないまま、杖を振りかざすアローラ。
「チッ!魔法使いか!?」
ナルシスへの攻撃の後、流れる様な動作でリザードマンは腰に付けてある袋からピンク色のボール球を掴むとアローラの口元に投げつけた!!
パーンッッッ!!
リザードマンが投げつけたピンクのボールがアローラの口元で弾けるとガムの様な膜がアローラの口を塞ぐ。ガムの実だ!
「む!むぐぅぅぅーッッッッ!!!!」
べっとりと張り付いたガム状の膜をアローラは両手で必死に剥がそうとするが、伸びるだけでなかなか取れない!
魔法使いの魔法詠唱を塞ぐ、魔法殺しの対魔法使い用のアイテムだ。
なんだなんだ!?なんなんだッッッ!!
何が起きてる!?
俺もアローラ同様に目の前で起こった事に理解できない!!
「クソッ!」
腰の剣に手をやり反撃を試みたが、既に俺の喉元にはリザードマンの槍の切っ先が狙いをつけていた。
こうなっては仕方がない。
「わかったよ…」俺は剣から手を離し両手を上げる。降参だ。
頼みの綱のニンジャは、ギャルとシバを背負っていたので身動きが取れず、ゆっくりと二人を背中から降ろして、リザードマンを睨んだまま近接格闘の構えをとるのがやっとだ。
さっきまでのシバを中心としたホッコリとした朗らかな空気が一瞬で血生臭いピリリとした空気に変わった。
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