第37話 サラマンドラの水とオヤツタイム

密林はまだまだ続く♪ど〜こま〜で〜も〜♪

今日の宿がある15階層『クイーン』まで、まだまだ密林は続き、俺達は林道ツーリングを楽しんでいる。

15階層までもう少しの所で、俺達はスーパーカブに『燃ゆる水』を給水する事にした。


 トム爺がスーパーカブをカブ畑から掘り起こし、逆行魔法で動かす事に成功してからトム爺は狂った様にスーパーカブを研究した。

乗り方からスペックと、まるで何かに取り憑かれた様に毎日研究した。

その結果、スーパーカブを動かす為にはランプに油を足す様に燃料がいる事がわかったんだ。

その燃料にトム爺はヘリオスダンジョン等に生息する野草『サラマンドラ』の蔦から取れる『燃ゆる水』を使う事にした。

 この『サラマンドラの水』はサラマンドラの蔦を折るとドバドバと出てくる水で、強烈に甘くツーンとした臭いがし、とても飲めた物じゃ無い。

しかも、『サラマンドラの水』は恐ろしく引火性が高いんだ。

だから、火を起こしたり何かを爆破する時に使われる。

どうやらその水の特性がカブに合っているらしい。

もし、『サラマンドラの水』が無くなりカブが止まってしまったら、逆行魔法でカブを動ける時間に戻すって手もあるんだけど、その度に魔法使いがカボスを大量に食べるのも割りが合わないしね。

(まあ、俺は構わないが…おっと!アローラが睨んでるからこの話はここまでにしとこう)


 大きな広葉樹に絡まる直径3センチはあろう『サラマンドラ』の蔦を引きちぎると、ドバッと『燃ゆる水』が出てくる。それをカブのシートの下にあるタンクの蓋を開けて蔦を入れる。一本の蔦から取れる『燃ゆる水』は500ml程しか出ないから、蔦から水が出なくなると他の蔦を引きちぎってカブに水を補給する。これを満タンになるまで何度か繰り返す。


「あたし、この臭い苦手なのよねえ。なんだか髪の毛にも匂いが付きそうでさあ」と嫌そうな表情で給水するアローラ。

そんなに嫌な匂いかな?俺は割と好きなんだけどなあ。


チチチ… ピーチュクチュク…

ピチチチチ…


『燃ゆる水』の給水中に、森の中に響き渡る鳥の囀りがさっきのゴリとの戦いを忘れさせてくれる様に癒してくれる。

ダンジョンの中だというのに青い空が森の木々の隙間から見える。どこかのジャンルの空間をダンジョンに投影しているのだが、空気も美味い。ああ〜最高だな。

俺達は『燃ゆる水』の給水を終えると少し休憩を取る事にした。


*************


 バサァッ!!とお馴染みのシートを広げて手際よくオヤツの入ったバケットや紅茶の用意を始めるアローラ。

鼻歌混じりにご機嫌だ。

本当にティータイム好きだなあ。


「今回はあの名店『ローズ』の紅茶とクッキーでーす♪」と満面の笑みでシートに輪になって座っている俺達の中心にクッキーを並べたお皿を置き、ティーカップをみんなに配る。


「おおーっ!なんてエクセレントなクッキーだ!そしてこの紅茶が美味!!」

甘い物に目が無いナルシスは夢中だ。

「ナルたんは相変わらずオヤツ好きだねえ♪ 」と大きめに焼かれたクッキーを頬張ると「うんまあ〜ッッッ!!」と目がハートなギャル。

「ほほお〜♪アローラが用意するお菓子は相変わらずうまいのお」とトム爺も笑顔が溢れる。

みんながクッキーと紅茶に夢中になっている中、時たまシュッ!と何かが俺達の座っている輪に降り立つとクッキーと紅茶が少し減るのはニンジャも食べているという事だろう…

普通に食え!普通に!!

でも、確かに美味いな。

さすがアローラが選ぶオヤツは抜け目がない。

よし、もう一枚クッキー食おう♪

「このクッキー本当に美味いな♪」

この美味さに上機嫌な俺は隣にチョコンと座ってクッキーを食べてるチビすけにも満面の笑みで声を掛けた。

「チビすけ、クッキー美味いか?」

「うんま♪うんま♪うんまあ♪」とかわいい笑顔で俺を見上げながら両手でクッキーを食べる。

「そうか、そうか♪美味いか♪」


ん?……なんだこの違和感は?


「チビすけ?」って誰だ!?


俺は思わず隣を二度見すると、クッキーを頬張りながらケラケラと笑う幼い女の子がいる!!


「うわあっっ!!この子、誰ぇぇーッッッッ!?」

全員、一斉に俺の隣の女の子にツッコんだ!!

「誰!その子!ブホッッッ!ゴホッゴホッ!…」

アローラも紅茶を吹き出し驚く!


 いつの間にか俺の隣にヒューマンでいえば3歳くらいの茶髪が肩にかかる小さな女の子がチョコンと座ってクッキー食べて、うまうまと笑顔で味わって、それがまた可愛くて、俺もクッキーがうまくて、ってあああ?何言ってんだ俺は!?

なんだか意味がわかんねえ!?

誰だよ?この女の子!?


「なになになに〜♪迷子かな?この子?

オイッス〜!ウチはギャル!あんたは迷子なのかねぇ??」とギャルが笑顔で女の子の側にしゃがみ込む。

「ぎゃる?ギャル、ギャルー♪」とケラケラ笑いながらギャルに抱きつく女の子。

「おわわわわあ♪かっわいい〜♡」と女の子を抱き上げるギャル。すっかり目がハートだ。

「どこから来たんじゃ?迷子かの?」とトム爺も心配そうに近寄ると、「ジィジ!ジイージ!」と人懐っこく近寄るもんだから、「おほおっ!かわいいのお♪」とトム爺もしわくちゃな顔で喜ぶ。


 口元に手を当て、ナルシスは少し心配そうに俺の横で「なんだか、大変な事ではないのか?リオン?」と、話す。

「ああ、これは想定外中の想定外だな?」

「どうするリオン?」

「どうしよう…?」

ヒソヒソと俺とナルシスは真剣に心配するが、そんな俺達を見た女の子はニッコリ笑って俺達に駆け寄って来た。

 「ニイニッ!にぃーに!」と人懐っこく笑顔で足元に抱きついてくる女の子に俺もナルシスもニヤニヤが止まらない。

「おいおい?俺達はお前のお兄ちゃんじゃないぞ?」とデレっと答えると。

「にいーにじゃないね?だれ?」とキョトンとする。

「ほーんと!かわいいわねえ!この子っ♪」と、女の子を抱っこするアローラ。


確かにかわいい。それは認める。

ただ、問題がある。迷子の子供なのもそうなんだが、この女の子がヒューマンの子供でもなく…


リザードマンの女の子なんだ。

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