第35話 セシリーの手紙の中身

「うーむ。全く記憶にないのお…」

アローラに飛び蹴りを喰らい気絶していたトム爺が目覚めた。

「おっきなお猿が大変だったんだよ?おじいちゃん。まったく、いきなりお風呂場で転けてさ?肝心な時に役に立たないんだからあ?」

「そ、そうか?それはすまなかったのお?」

アローラに飛び蹴りされた事がまるで無かったかのようにギャルがトム爺に話しかけていた。

流石に雇い主に飛び蹴りは不味いだろう?

ナイスフォローだギャル。


「それにしても危なかったなリオン?無防備な所を襲われるとひとたまりも無い。

美しく無いが、今度からは鎧を着て温泉に入ろうではないか?」

「いや、それは不味いだろ?」

真剣に話すナルシスに呆れるしかない。


ゴリ達に襲われた際に俺達のスーパーカブも被害に遭ってたので、その被害状況を確認する。

そうそう、言っておくが、全員着替えてるからな?いつまでもタオル一枚の姿を期待するなよ?コンプライアンス大事。


「ねえ?リオンちょっとお願い」

「なんだよ?今からカブの中の荷物の点検を…」

アローラの髪はアフロが治り、いつものブロンドヘアーをアップにまとめてある。いつもの服にも着替えているが、ちょっと濡れてる髪の毛が色っぽい…

ってバカか!俺は!!


「いつもの付けてよ?

これから先はモンスターも強くなるでしょ?」と水晶の首飾りを俺に手渡し、ちょこんと前に背中を見せて座り込んだ。

この水晶の首飾りは付けると魔力が増幅する効果があるマジックアイテムだ。

あまり使いすぎると水晶が曇りだして効果が無くなり数日は使えなくなる。

ここぞとばかりの時に使うアイテムだ。

つまり、この先を進むのは気合を入れていかなきゃ危ないって事さ。


「まったく…ホント不器用だよな?首飾りぐらい自分で付けろよな?」としゃがみ込み、アローラの背中越しに首元に首飾りを掛けると後ろ側のホックを引っ掛ける。

湯上がりのせいか、ほわんといい匂いがうなじからする。

くそ!この手に世の中の男共は騙されてるんだ。顔が赤くなりそうなのを首を振って拒否する。

「ん?何やってんのよ?」と座りながら後ろの俺を見上げるアローラ。

「な、なんでもねーよ!

いい加減自分で首飾りぐらい付けれる様になれよな?」目をそらし、俺は誤魔化すように話す。

「いーじゃない別に?あたし苦手なのよネックレスとか首飾りを付けるのって」

「ギャルに付けて貰えば良いじゃねーか?」

「ダメよ?リオンに付けてもらわないと。前にリオンに付けてもらった時にワイバーンを倒せたでしょ?

リオンに付けて貰うのはゲン担ぎでもあるんだから♪」と、諭す様にニッコリ微笑む。

魔法使いは、おまじないや御守り、ゲン担ぎを大切にする。

それらにはこの世界を構築する『気』や『力』などの理(ことわり)が関わっていて無下にはできないそうだ。


「わかったよ」俺はしょうがないといった顔をすると、「じゃあ今度、手強いモンスターが現れたら強烈な魔法を頼んだぜ?」

ニヤリと笑いカブの方に向かった。

「まかせてよ?ボッコボコのバッキバキにしてやるわ!」と拳を立てて笑うアローラ。

その笑顔もアローラの武器だな。

…ん?ボッコボコのバッキバキ?魔法じゃないのか?


さて?俺のカブはどうなってるのか?

おにぎりボックスの中のセシリーちゃんのお手紙は無事だろうか?気になって仕方ない。足早にカブに向かうと…

なんだ?ギャルとニンジャが俺のカブの周りにいるぞ?


ニンジャは鼻血の件の後、人知れず温泉に入って新しいニンジャ装束に換えたようだ。流石に血だらけの衣装はまずいからな。それにしてもどんな顔をしてるんだろ?知らないうちに温泉入ってるんだもんな。男の語らいとして、たまには背中の流し合いでもしてみたいもんだぜ。


ギャルはキャンギャル衣装の小悪魔コスチュームが気に入ったようで、温泉から上がってからも着ている。

そのギャルとニンジャが大慌てで手を振っている。

なんだ?何があるんだ?

「リオン!荷物が大変な事になってるよ!」

「なに!?」


慌ててスーパーカブの元に駆け寄ると、なんてこった…

猿の奴ら荷物を物色していたのかおにぎりBOXの中の俺の荷物や手紙、小包がカブの周りに散乱してる。

「なんて事だ?俺のハンターカブのBOXも開けられて中身が出されてる…」

ナルシスも動揺が隠せない。


「くそ!あいつら好き放題やりやがって!今度会ったらタダじゃおかねえ!!」

どうやら食い物を探していたのか、お客さんに配達する手紙や荷物は多少の傷や汚れが付いたが、無事なのは不幸中の幸いだ。

「ちょっと破れかけてるけど、セシリーちゃんのお手紙も無事みたいだし、ラッキーだったね?リオン♪」と笑いながら落ちているセシリーちゃんのお手紙を無造作に拾うギャル。


「お、おい!もっと丁寧に扱えって!」

「だーい丈夫だって!心配症な男子はモテないよん?♪」


ビリビリーッッッ…


カランッカランッ…


ギャルが無造作に俺の花嫁の手紙を持ち上げて俺に渡そうとした瞬間封筒の底が破れて中身が飛び出し、何か硬そうな板が硬い音を立ててクルクルと回ったかと思えばパタンと倒れた。


「あ?あり?破れちった…」

「ウソだろ!?何やってだお前!!」

「え?ええッッッ!?

ご、ごめんよーリオンッッッ!!」

本気で怒った俺に、流石のギャルも必死で謝る。

本当に勘弁してくれ!!


「あっちゃぁ〜…不味いんじゃない?リオン…」

「これは…美しくないな…」

両手でヒラヒラと破れた封筒を持ちオロオロしているギャルを見て、気まずそうに話しかけるアローラとナルシス。

しかし、その中身を確認するとなんだか変だ。

封筒の中身には読者諸君でいうA4サイズの赤黒い板状の物しか入っていない。

てっきり中に入ってる便箋が曲がらない様に硬い板が入ってるのかと思っていたが、それしか入っていない?


ん?これ板じゃないな?

禍々しく赤黒いティアドロップな形状のそれは表面が亀の甲羅の様に硬く艶々してるがその周りはトゲトゲしい。しかし、微妙に弾力があるんだ。

何かの鱗か?

「これは…竜の鱗じゃな」

「竜の鱗!?」

「うむ。滅多に見れるもんではないぞ?

わしも今までに数える程しか見た事が無い。最後に見たのは200年程前じゃ。

それにしてもこれは見事じゃな…」

その竜の鱗を手に取り感心するトム爺。


「しかし、なんじゃろう?

この、どす黒く禍々しく赤く、他とは違うオーラを感じる…」

しばらく考え込むとトム爺はとんでもない事を言い出した。


「これはひょっとして…竜王の鱗ではないか!?」」



*****************




その頃、『スーダンのかまど亭』ではパタパタと働くセシリーの姿が。


「こちら、ご注文のうさぎ肉のマンドラゴラソースあえです。お熱いのでお気をつけてください♪」

にっこりとテーブルに料理を運ぶとお盆を両手に抱きしめ、ニコニコと厨房に向かう。


ふふふ♪今頃リオンさん達はどこまで行ってるのかな?10階層?それとも15階層辺りかしら?

あの手紙を、お父様が見たらどう思うかなあ?

ふふふ♪

楽しみだわあ♪


「おーい!セシリーちゃん!注文頼むよー」

「ハーイ♪ただいまお伺いに参ります〜」

と、にっこり微笑むとお盆を片手にパタパタとテーブルに向かう。


今日も『スーダンのかまど亭』はいつものように賑やかにそして華やかに冒険者達の疲れを癒し、新たな冒険へ送り出すのだった。

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