第26話 昔話とパジャマパーティ
「くあ~っっ!食べた食べた!!」
部屋に戻り、満面の笑みで中居さんが敷き終わった布団の上にバフっとうつ伏せに倒れ込むアローラ。
「アロっち、食べすぎ~!
結局、いっぱい食べてんじゃん?」と満面の笑みで同じく布団にダイブするギャル。
「へへへ。美味しいものには敵わないのだ♡」
「だね!」
と、浴衣姿で布団の上にうつ伏せになったままお互いの顔を見てニヤける二人。
ナルシスの華麗なる盛り付けのバイキング皿をお腹いっぱい食べた二人は、自分達の部屋に戻って幸せいっぱいモードだ。
「ふー… お酒も美味しいし、ここがダンジョンの中の宿なんて想像もできないよねー♪」とゴロリと手足を広げて仰向けになるアローラ。
「ちょっとアロっち?
浴衣がはだけるよ?」
「良いの良いの?女同士だし。
まあ、良い男にならこれも正攻法だし?」
とギャルに微笑むアローラ。
「かーっ!ほんと男子好きだよね?アロっち。
そりゃリオンも呆れるよ」と、額に手を当てるギャル。
「なによ~?リオンは関係ないっつうの!」とゴロゴロと上機嫌に転がりだすとギャルに飛びつくアローラ。
酔っ払ったアローラはまるで子供の様にはしゃいでる。
「ギャーッッッ!!やめれ!アロっち♪♪」抱きつかれたギャルは笑いながらアローラを払い除けようと、二人は布団の上を端から端へゴロゴロ転がる。
気が済むまでふざけ合った二人は笑いながら、はだけた浴衣と息を整えて布団の上に横座りした。
「ねえ?前から聞きたかったんだけど?
アロっちはリオンとナルたんとどうやって出会ったの?」好奇心旺盛な目でアローラを覗き込むギャル。
「え~っ?それ聞くぅ??」
困った顔で、照れ笑いをするアローラに「聞く♪聞く~♪」とギャルは大はしゃぎ。
アローラは「仕方ないなあ♪」とちょっと得意げな表情で話し始めた。
*******
カコンッカコンッ!と硬く、そして軽い音が響く。
俺とナルシスは『さくら』の広間でピンポンを楽しんでいた。
ピンポンはトウヨウが発明したゲームで大きなテーブルの上で、アーケロンと言われる巨大ウミガメの卵の殻を加工して作られている白球を、丸い木の板にゴムの樹液を流して固めてあるラケットで打ち合う。
「やっぱ、さくらに来たらこれだよなあ♪」と程よく酔っ払った俺達は上機嫌でラケットを振り回し、リズミカルにラリーを繰り返していた。
「うむ!これぞトウヨウ風の宿の醍醐味だな!」とナルシスも微笑みながラケットを振る。
カコン!カコンッ!
「トム爺やアローラ達もピンポンやれば良いのによ?」
トム爺はお酒も回って良い気分で部屋に戻った。
「フッ 女子は今宵はパジャマパーティだそうだ。
かわいいではないか?」とナルシス。
「かわいい、って言ったってギャルはともかくエルフのアローラはヒューマンの俺らと比べると、とんでもない年だぜ?」
と、からかい気味に笑ってみる。
「仕方あるまい?俺達ヒューマンと長命種族のエルフは時の流れが違うからな」
前にも言ったが、ヒューマンの寿命は長生きしても100歳程だ。
俺とナルシスはヒューマンで23歳。
エルフは1000年は生きる。
アローラも俺達と同じ歳に見えるが230歳。
今では同年代で同じ背格好に見えるが初めて出会った時は、俺達は今の姿とは大違いだ。
「へへ… 初めてアローラに会った時を思い出したぜ」
ヤバい!笑いが込み上げて止まらん!!
「ははは!
あの頃は俺もリオンも少年だったな!」
笑いながらナルシスはピンポンの球を打ち返した。
*******
アローラは得意げに昔話を語り始めた。
「アグーの森でね?私は一人で魔法の修行をしてたのよ。
あ!ぼっちじゃないからね!?
ちゃんと友達もいるからね?」
大慌てで釈明するアローラ。
「ほら?私って恋多き乙女じゃない?
人目の付く場所で魔法呪文の修行をすると好きな男の名前がいっぱい出てくると、みんなの心象が悪くなるっていうか…」
と、気まずそうに笑って誤魔化すアローラ。
「にひひ♪ 二股、三股がバレるもんね?」とイタズラっぽく笑うギャル。
「こら!もー!話さないよ?」
「ジョーダンだってば♪
それより続き続き~♪」
「ハイハイ。
で、一人で魔法の練習してたら急に男の子二人が茂みから出てきてさ?
どうしたの?僕?って聞いたら迷子だっていうじゃない?
子供だけど可愛くてさあ~
二人とも♡」とほんわかと思い出しながら微笑むアローラ。
「え?その迷子の男の子達って…?」
「そう!リオンとナルシス!!」
人差し指をビシッとギャルに向けるアローラ。
「あの子達の子供の頃って、ほおーんと美少年だったんだから!」と枕を抱きしめて振り回すアローラ。
アローラはまだ14歳のリオンとナルシスが迷子になっていたので、家に帰れる道まで送ってやったと得意げに話しだす。
そう、長命種族のエルフのアローラに比べるとこの頃のリオン達はまだまだ中学生程の少年。小さな子供なのだ。
「それ以来、森の中で魔法練習してたら二人が顔を出す様になって仲良くなったのよ♪」
「へ~!あの二人が迷子?意外ねえ」
と驚くギャル。
「それから、暇があれば3人で会ってるうちに、気がついたらあの二人も大人になってさ。
私が魔法練習してる隣で二人で剣の手合わせとかやってるの見てたら、二人の腕前もかなり良い線いってるでしょ?
3人でパーティ組まない?って事になったのよ」
「それが3人の始まりだったんだ。
へ~!」と感心するギャル。
「まあ!私は二人の恩人!でありパーティの創設者でもあるのだ!」と満面の笑みで胸を叩くアローラ。
それからギャルとアローラはお互いの好みの男や恋バナに流行のファッションやコーデの事。ますますパジャマパーティも盛り上がっていくのだった。
**********
ピンポンラリーを繰り返しながら俺達はアローラと出会った頃の話で盛り上がっていた。
「今、思い出しても笑うぜ!
俺達が剣術の修行で手合わせしてたら、いきなり涙目の大人のエルフが茂みから飛び出してきてよ?
道に迷ったから助けてーっっって号泣だもんな!」
「フハハハハ!
あれは傑作だったな?
あの時、俺もリオンもまだ14歳か?
美しい大人のエルフが眼の前でギャン泣きだったからな!」と笑いだすナルシス。
「あれから、俺たちがアグーの森で剣術の秘密特訓をする度に現れてよ?
面白いエルフだったからそのまま仲間に入れてパーティ組んで冒険したり…
当たり前といったら当たり前なんだけど、あいつは出会った頃と全然変わんないんだよな」
「フッ 俺達は数年経てば子供から大人になるが、エルフのアローラは何も変わらんさ」とピンポンラリーを続ける二人。
「キレイなお姉さんと思ってたら、とんだアバズレだし…よッッッ!!」
俺はナルシスの隙を見てスマッシュを打ち込んだ。
カーンッッッ!!
見事に決まる!!
「ヘヘヘ♪」
「むっ! いきなりスマッシュとは卑怯では無いか!?
美しくない… ぞッッッ!!」
ナルシスも高速サーブを打ち込む。
スカーンッッッ!!
見事に決められた!!
「ヘヘヘ」
「ふふふ」
不敵に笑う俺達。
カンッカンッカンッカンッ!!
次の瞬間に猛烈な高速ラリーが始まった!!
「もらった!!」
俺はチャンスと見たらスマッシュを打ち込む!!
パーンッッッ!!
打ち込んだ瞬間白球が粉々に砕け散る!!
「フッ 力加減が美しくない… ぞッッッ!!」
パーンッッッ!!
高速サービスを打ち込むナルシスのラケットに白球が触れた瞬間粉々に砕け散った!!
「ヘヘヘ」
「ふふふ」
ニヤリ
不敵に笑いだす俺達は新しい白球を次々と手に取り、サーブを繰り出す!
その度にパーンッッッ!!パーンッッッ!!と砕け散る数多の白球!!
どんどんエスカレートしていく俺達!!
********
パジャマパーティも盛り上がり(浴衣姿なので浴衣パーティ?)
布団の上で寝転がるアローラとギャル。
「ねえ?リオン達今頃なにやってんだろね?」あくびをしながらギャルが聞く。
「まーた、ピンポンでもやってんでしょ?」と呆れながら返すアローラ。
「ねえ?アロっち?
ちょっと見に行かない?」
「うーん。そうね?
見に行っちゃおか?」
ニコリと笑うと、ガバッと起き上がり浴衣を正して2人は広間に向かった。
「さてさて?どうしてるかな~♪」と2人は廊下の角を曲がり広間に向かうと、なんだか大きな声が聞こえてくる?
「あんた達!!なんてことしてくれたんだい!!
こんなにピンポン球壊して!!
他のお客さんができないじゃないのよ!!」
そこには大激怒の女将さんの剣幕に土下座して平謝りの2人がいた。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!…」
ピンポン台の周りには
「あ~ん!! ピンポンしたいよーッッッ!!」と号泣するちびっ子達。
それを見たアローラの導火線にも火がついた!!
「な、な、な、何やってんのよ!!
アンタ達ーッッッ!!!!!!」
「ひっ! アローラ!!!!
ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!…」
大激怒のアローラの姿を見てリオンとナルシスはさらに土下座を続けるのだった。
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