第23話 魔法使いの憂鬱
「すっぱーあぁいいいいっっ!!」
と涙目のアローラ。
「うむぅ…これはちとすっぱいのォ」しかめっ面のトム爺。
ライラック率いる盗賊達が退場した後のダンジョン広場にアローラの叫びとトム爺の嘆きが響き渡る。
俺達の世界でも魔法を使うと魔力を消費する。
二、三日もすれば魔力も回復するんだけど、いつどんな敵に遭遇するかわからないダンジョンでそんな悠長な事は言ってられないだろ?
だから、いち早く魔力を回復するために魔法使いはある物を食べるんだ。
なんだと思う?
カボスさ。
しかも大量に。
なんでも、カボスに含まれる成分が魔力回復に即効性があるみたいなんだけど…
「ねえ?あと何個食べれば良いの?」困惑顔のアローラ。
「うーむ。今日のアローラはモリオとの戦いで随分と魔力を消費したからのお。
あと5個は食べんといかんぞ」
「5個!?
ちょっと待ってよ!?
そんなに食べれないよ!?」
「これも、魔法を使える者のさだめじゃよ…
う?こりゃまたすっぱい!」
と、しかめっ面で緑色の艶々なカボスを頬張りながらトム爺がアローラをなだめる。
「く〜!!
こんな目に遭うのもアイツらのせいだわ!!
モリオとライラックは今度会ったらただじゃおかないんだからッッッ!!
くーっ!これもすっぱいよ〜!!」
と、次々とカボスを涙目ながらに頬張るアローラ。
さっきの戦いで生まれた友情はどこへいったのだろう?
と、まあこんな風に魔力回復の為とはいえ大量のカボスを食べなきゃいけないんで魔法使いはとにかく魔力の省エネに努めるわけだ。
「ウチは結構カボス好きだけどね♪お肌にも良さそうだし♪」とギャルはニコニコと平気にカボスを食べている。
「一つ二つならねえ、良いけどさ?
カボスばっかり5個も6個も食べらんないって!?お腹ん中カボスでいっぱいよ?
苦行の僧侶か?っての!」
うんざりしながらアローラは3個目のカボスを手に取る。
「フッ いつも生のまま丸かじりしてるが、食べ方を変えてみてはどうだ?例えば絞ってジュースにするのも美しいのではないか?」
「おーっ!何言ってるのかわかんないけど、それ良いかもね!」
ナルシスのアイデアに乗り気なアローラ。
「フム。どれ?」とカボスを握るナルシス。
グッ…
ブシャーッッッ!!!!
「ギャーッッッ!!」
「目が目がァーッッッ!!!!」
ナルシスが握り潰したカボスの果汁が二人同時に目に入って転げ回る二人。
まったく何やってんだか。
「何をやっとる?生のまま果実も食わんと意味ないぞ?」
「早く言えーっクソジジイーッッッ!!」
「なんじゃと!!この小娘が!!」
ギャー!
ギャー!
あーあー。
カボス一つで争いが勃発したよ。
目に入ったカボスでのたうち回ってるナルシスを横目に俺はカブの整備と配達物の点検をしてる。
ニンジャとギャルはまだ使えそうな矢などを拾ってる。
矢も使えば無くなる。使えそうな物は回収して再利用だ。
エコだ。SDGsなのだ。
「ふー。カブのおにぎりBOXの中の配達物は無事だな。
セシリーちゃんの手紙も無事だ♡
これが一番大事♡」ニコニコ
「ケッ!」
ツバを吐いてアローラがこちらを睨んでるけど気にしない♡
「ん?」
カブのサイドカバーに穴が空いて割れてる?結構ダメージが大きいぞ。
さっきの盗賊達との戦闘で被弾したのか?
まいったな。
「トム爺。カブのサイドカバーが割れてるんだけど魔法で直せないか?」
「…お前。
先程から魔力の補充の為に必死にカボスを食べてるこの苦行僧の様なワシに魔法で直せないかと?
お前もカボスを腹一杯食うか?」
キレ気味のトム爺の迫力に、さすがに俺はたじろいだ。恐ろしや。
「ふー…
それに、その壊れ方だと魔法でも治らんぞ?穴が空いてる部分が大きくて破片も飛び散っておる。
このサイドカバーはパーツとしての役割を果たしたのじゃ。
良いか?リオン。
人の命と同じようにその役割を果たした物は魔法では直せんのじゃ。
よく覚えとくんじゃぞ?」
そう、残念ながら俺たちの世界では死んだ人間は生き返らない。
どっかの教会でお金を払って祈れば生き返る。それは君達の世界のゲームか御伽話だけだ。
もし、それができたらこの世は永遠の命を手にした者ばかりで人口増加で住む所が無くなるんじゃねーか?
「壊れた物や人の怪我を魔法で直せないか?とみんなは魔法使いに頼ってくるが、それ以上の事を人は期待する。
魔法が使える者はその期待に応えようとするが、限界というものがある…」
と、少し寂しそうにトム爺は答えた。
俺たちヒューマンは長く生きても100年。
エルフは1000年、ドワーフ300年は生きる。
その1000年も生きるエルフや300年のドワーフでも永遠の命とはほど遠い。
トム爺も200年は生きてそうだが、その間にいろんな生き死にを見てきたのだろう。
少し背中が寂しそうだ。
「生きとしものにはその役割がある。
それは人間も物も同じじゃ。だから人の出会いも、物も大切にしなければならんの?」
そう言いながらトム爺は自分の魔法のリュックから何かを出した。
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