第67話 鉱山の町
シュネッケの町に入るまで、私達の馬車には相変わらずブリューが相席していた。
そしてまた禄でもない事を言い出す前に、レドモント子爵領の事を聞くことにした。
レドモント子爵領は国内有数の鉱山がある有名な領なので、炭鉱で栄えていた頃の夕張とか軍艦島のような感じなのだろうと思っていたのだ。
ブリューの説明では、子爵領は鉱山がある西側が発展しており、領都シュネッケも西側にあるそうだ。
この領では様々な鉱石が産出されるおかげで栄えており、隊商もそれを目当てにこの領にやってくるそうだ。
貨幣に使う金、銀、銅の鉱石を買うには王家からの許可が必要で取引出来ないが、武器防具や調理用品等に使う鉄等の鉱石は普通に取引できるそうだ。
シュネッケの門番もラッカム伯爵家の隊商は馴染みのようで、簡単な挨拶をしただけですんなり通してくれた。
隊商はそのまま鉄鉱石のインゴットや装飾品を取り扱っている商人の元に、ブリューは挨拶のためレドモント子爵の館に、それぞれ向かうことになった。
そして私達は、その間シュネッケの町を見物することにした。
隊商の定宿は決まっているようで、皆用事が済んだらその宿に戻ってくるという事だった。
ちなみに、今朝出発する時にブリューに見送りはフィセルの手前までで良いという話をしたのだが、伯爵からフィセルまでしっかり送り届けるようにと厳命されているとかで断られてしまった。
普段は軽薄そうに見えるブリューだが、尊敬しているラッカム伯爵からの依頼には全力で答えたいらしい。
シュネッケの市場に行くと、町に住む主婦達が夕飯の買い出しをしており、店の店主達はその買い物客を狙って盛んに自分の店の商品をアピールしていた。
買い物客達は、それを聞いては立ち止まって品定めをしているようだ。
私もそれに倣って、店に並ぶ商品を見ると皆艶が良く美味しそうだった。
そしてこの市場には、主婦があまり寄り付かない地区があった。
そこには装飾品を取り扱う店が並んでおり、そこで品定めをしている客は男性客が多く、明らかに客層が異なっていた。
恐らくは、外部からやって来た小口の行商人や恋人に贈り物を買いに来た男性客なのだろう。
私とエミーリアは女性向けの装飾品を売っている店の前で立ち止まると、そこに並べられている商品を手に取って、お互いにどれが良いか選んでいた。
その間、エイベルは周囲の警戒をしてくれていた。
「これなんかエミーに似合いそうよ」
「いえ、こちらはミズキに丁度いいわよ」
そんな感じで買い物を楽しみようやく商品を買った頃には、エイベルは疲れたような顔をしていた。
その顔には、女の買い物は長いと書いてあった。
そして宿への帰り道を歩いていると、華やかな市場にはあまりなじまない作業服を着た武骨な男性達が並ぶ店が目に付いた。
その店は露店ではないので外からでは何を売っているのか分からなかったが、興味をそそられる光景ではあった。
私がじっとその店を見ていると、それに気が付いたエイベルが店の前に並んでいる人に話を聞きに行ってくれた。
戻って来たエイベルによると、あの店は鉱山労働者ご用達の店で、鉱山で使う必須アイテムを売っているとのことだった。
別に一見さんお断りの店ではないとのことなので、見学のため立ち寄ってみる事にした。
店内は、大きな窓のおかげで明るく、外見から受けた怪しい店という印象はかなり解消されていた。
そして肝心の商品はどこにも無く、ほぼ常連と思われる客達はカウンターで商品名と数量を告げると、代金と交換で商品を受け取っていった。
取り扱っている商品に関する情報は無いかと周りを見回すと、店員と思われる少年が客の顔を見ながら助けが必要な人はいないかと眺めているようだった。
この店に来ている客は皆常連客らしく、その少年の事は皆無視していた。
私は、その暇を持て余している少年に声をかけると、明らかに炭鉱労働者ではない私達に胡散臭そうな顔をしていたが、私達が冒険者だと分かると、今度は嬉しそうな顔になり足元の箱に入っていた見本品で商品の説明をしてくれた。
最初に手に持ったのは、小ぶりのシャープペンのような細長い物体だった。
これは「楽々掘削」という名のマジック・アイテムで、頭部を押して岩盤の間に差し込むと時限で爆発するそうだ。
これは手榴弾みたいな物なのだろう。
次に手にしたのは野球ボールのような形をしており、「石鹸要らず」という名のマジック・アイテムで、全身を纏う薄い膜のような物を展開して、髪の毛や服に汚れが付着するのを防止するそうだ。
確かに坑道の中は埃が充満しているので、これがあると大分助かるだろう。
ちなみにこれは使い捨てのアイテムで、有効時間は大体6時間位らしい。
体にぴったりフィットした防護服というイメージだ。
最後に手にしたのはゴーグルで、「安心道案内」というマジック・アイテムらしい。
坑道の中で埃が充満して視界が悪い時に使うもので、超音波で障害物を検知して坑道の中を安全に進むことが出来るのだとか。
説明を聞き終えた私は、ここにある商品はツォップ洞窟で使えそうだと思い付いたので、購入することにした。
そして最後に冒険者に愛想が良い訳を聞いてみると、偶に冒険者がやって来て買い物をしてくれるからだと教えてくれた。
隊商の定宿に戻ってくるともう夕食の時間になっていたので、私達は荷物を部屋に置いて食堂に入って行った。
そこには隊商の人達も居て、私達に気が付くと手を振って挨拶してくれた。
私も挨拶を返すと空いている席に座り、夕食の注文をした。
すると浮かない顔をしたブリューがやって来て4人席の空いている椅子にどかりと座ると、私に話しかけてきた。
「ねえ、ジェ、ミズキさん、今日、伯爵の手紙をレドモント子爵に届けたんだが、あまり良い返事を貰えなかったんだよ。これって、失敗したっていう事だよね?」
そんな貴族同士の交渉事を、部外者に話しても仕方がないんじゃないだろうか?
それとも私と関係がある話なの?
「それは、私と関係のある内容なのですか?」
「う~ん、今まで叔父上はレドモント子爵に手紙を出した事なんて無かったんだ。何か思い当たる事はないかい?」
え、そう言われると、思い当たる事は1つだけあった。
そして卒業パーティーで会った、マリアン様の暗く沈んだ表情を思い出していた。
まさかとは思うが、このままではマリアン様が泣き寝入りになってしまうという事なの?
これは大変である。
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