第33話 緊急通報機能

 ギルドマスターが手招きしている中、私達3人は部屋に入った。


 そして、前回の失敗を踏まえて3人掛けのソファに3人一緒に座ると、相対で座るギルドマスターが笑いをかみ殺していた。


「それではDランクに上がる冒険者に、その覚悟を説明するね」


 どうやら正式に冒険者と呼ばれるのはDランクからで、Eランクは所謂会社で言う所の試用期間のようなもののようだ。


 そしてEランクの冒険者プレートに無く、Dランク以上のプレートに有る大きな違いは、緊急通報という機能なのだそうだ。


 この機能は、冒険者が危機に陥った時、救援を呼ぶための物で、近くにいる冒険者がその信号を受信すると振動の強弱で方向と距離を装着者に伝えてくるんだとか。


 残念ながらディスプレイが無いので、カーナビのように発報点まで画像で案内してくれる事は無い。


 そして要救助者が死亡するとその時点で振動が止まるので、救援者が無駄に危険に晒される事が無い仕様になっているとのこと。


 そしてこの機能は助けてくれた冒険者に対して、基本料という予め決められた額を自動的に支払う仕組みになっていて、助けてもらったのに報酬を払わずに逃げるという不心得者を排除していた。


 報酬額は救助した内容によってABCの3種類あり、Aは討伐と救助で、通報した原因となった脅威を排除してかつ要救助者を助けて帰って来るまで、Bは討伐のみ、Cは救助のみ。という内容らしい。


 報酬は基本料の他、魔物の強さと数で上積みされるのだとか。


 そして最近は、商業ギルドからもこの緊急通報を商人が郊外で襲われた時のために使わせて欲しいと要請が来たので、ある程度委託金を払える商人のみ許可しているそうだ。


 これにより冒険者は報酬を貰いそびれる危険が無くなったので、喜んで襲われている商人を助けに行くんだとか。


 他には、ギルドに預けてある資金の出し入れをする機能もある。


 冒険者プレートはランクと拠点名を記載してクエスト成否を記録するだけだと思っていたが、意外に高機能で驚いてしまった。


 流石はゲームの世界である。便利機能が盛り沢山だ。


 この緊急通報は無視しても問題は無いようなのだが、仲間が救いを求めているのにそれを無視できる心臓の持ち主はそれほど多くは無いそうで、本人が望まなければDランクへの昇格を拒否できるのだとか。


 拒否するのは年少者とかでまだ魔物や盗賊と戦う能力が低く、頼まれると断れない性格の人が多いとのこと。


 私は一刻も早く実家に帰るのが目的なので、きっと、いや恐らく平気で救援を無視することが出来るだろう。


 なので、問題なくDランクへの昇格を希望した。


 するとギルドマスターは私が理解したことに頷くと、ここまで案内してくれた女性職員に手続きをするよう指示を出してくれた。


 冒険者プレートの情報変更は別の場所でするようで、私達は再び女性職員の後を付いて行くことになった。


 Dランクへの昇格はギルド専用のマジック・アイテムで、私の左手首の冒険者プレートの内容を書き換えるようだ。


 私達3人は書き換えを行う装置がある場所に案内されると、そこにあった装置は、よく病院等にある腕を入れて血圧を測る装置に似ていた。


 それがマジック・アイテムになっていて、そこに冒険者プレートを入れると内容を読み取り不正が無い事が判定された後で、ランクの変更が行われるそうだ。


 私は早速左手首に巻いてある冒険者プレートをその装置の中に入れると、内容を装置が読み取っているのか淡く光っていた。


 それから内容の書き換えが行われているようで、「ジジジ」という機械音のようなものが聞えてきた。


 これは先程ギルドマスターから説明があった、緊急通報の仕組みが追加されているのだろう。


 やがて「ピッ」と完了を知らせる音がした。


 するとここまで案内してくれた女性職員が「完了しました」と教えてくれたので、装置から左手を抜くとそこには今まで「E」と記載されていた冒険者プレートが「D」に変更されており、その右隣に一本の目立つ黒色の横線が入っていた。


 これは何だろうと眺めていると、先程の女性職員が教えてくれた。


「この黒線が緊急通報の送受信を行う部分になります。緊急通報を発報すると赤色に変わり、受信すると黄色に変わります。音が出ると拙い場合もあるので色で表示しているのです」


 確かに、隠れて緊急通報しても音がしたら居場所がバレて救援前にまずい事態になるわね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る