第30話 討伐クエスト1
南西の森での食獣植物の討伐に成功した私達は、冒険者ギルドに報告を行い無事採取ノルマを達成することが出来た。
Dランクに上がりこの町を出て行くための残る課題は、討伐クエストとなる。
冒険者ギルドの依頼ボードを見ると、今討伐クエストとして依頼が出ている物で一番簡単そうなのはゴブリン3匹の討伐だった。
受付の女性の話によれば南の森に行けば2、3匹単位で遭遇するゴブリンは討伐クエストの中では一番簡単なのだそうだ。
ただし、その先にあるミッシュ山脈にはゴブリンの塒がある事や、反対側に通じる裂け目であるギフラ大風穴があって、その先は魔物が強くなるので絶対に行かないようにと注意を受けた。
私は別に討伐が目的ではないのでそんな心配は無用なのだが、貴重な情報なので留意することにした。
ゴブリンを探す森は、最初にぬめり草を採取しに行った丘陵の先にある。
丘陵に行った時は日帰りだったが、今回は相手がいるので慎重を期すため近くで野営をしてから森に入る事にしていた。
野営はいつものようにエミーリアとエイベルが準備を行い、私はその間馬車で待機である。
夕食を終えると比較的平らな地面の草を刈り寝床を用意すると、そこにマントを敷いて横になった。
火の番はエミーリアとエイベルが交互にしてくれるので、私は安心して眠る事にした。
固い地面の感触になかなか眠りにつくことが出来なかったが、それでも何とか眠りに落ちることが出来た。
そんな時事件が起きた。
私は突然起きた「バン」という音で叩き起こされた。
慌てて飛び起きた私の顔には、細かい破片のようなものが降り注いできた。
顔にかかった破片を手で振り払うと、何事が起きたのかと周囲を見回してみた。
だが、火の周り以外は暗闇に紛れて何も見えず、火の番をしているはずの2人の姿も無かった。
状況が掴めない事に一瞬パニックになりそうだったが深呼吸をして何とか落ち着かせると、頭の傍に置いていたゴーグルとマスクを手に取りゴーグルの暗視機能を発動させた。
黒一色だった場所がゴーグルを通して見ると緑色の世界に変わり、映し出された森の中に動く物は無かった。
2人が何処に行ったのか心配だったが、いたずらに動き回っても却って混乱を招くだけなので先に先程の音の原因を探る事にした。
それは簡単に見つかった。
私が寝ていた傍の木の幹に、何かがぶつかって破裂したような跡があったのだ。
その痕跡から何かの匂いがしたが、特に毒や麻痺、幻覚を齎すようなものではないようだった。
やがて微かな足音と枝を折れるポキリという音が聞えてきたので何者か確かめると、居なくなっていた2人が戻ってきた所だった。
「お嬢様、ご無事ですか?」
「ええ、それよりも何があったの?」
「賊らしき者がいたので捕まえようとしたのですが、逃げられてしまいました」
ああ、それで火の傍に誰もいなかったのか。
それなら一言声を掛けて欲しかったが、そんな事をする暇が無かったのだろうと納得した。
「まあ実害も無かった訳だし、良しとしましょう」
私がそう言うと、何やら先程からエイベルが鼻をヒクヒクしていた。
その行動が何時もと違うことから、少し不安になっていた。
「エイベルどうかしたの?」
「あ、いや、何でもないです」
私が尋ねると、エイベルは顔を左右に振って何でもない事をアピールしていた。
念のためエミーリアの顔も見たが、分かりませんというジェスチャーをしていた。
本当は何か気になる事があるのなら言って欲しいものだが、何でもかんでも聞くのも嫌がられるだろうと放置することにした。
そして何事も無く夜が明けると、手早く朝食を済ませてゴブリン退治を始めることにした。
この森には2、3匹がグループとなって偵察や食料探しを行っているので、そのうちの1隊を見つけて討伐するのだ。
森に入ってからエイベルがしきりに地面を調べては魔物の足跡をチェックしており、それにより今私達が進んでいる場所が獣道であることが分かった。
どうやらゴブリンもこの場所を利用しているようで、子供のような足跡が幾つも付いていた。
私達はゴブリンの小隊を待ち伏せすることにして、罠を仕掛ける事にした。
罠は簡単な物で、草を結んで足を引っかける物と足がはまるような小さな窪みだ。
それをゴブリンの足跡がある場所に造り、その上に落ち葉を置いて隠しているのだ。
その上で私達は木陰に隠れて様子を窺っていた。
今日は雲も無い晴れやかな日で、顔には心地よい南からのそよ風が吹いていた。
ここでは南側にミッシュ山脈があるので、そこから吹きおろしの風が吹くようだ。
こんな日は散歩でもすれば気持ちよさそうだ。
そう言えば受付の女性の話では、ミッシュ山脈に近づくとギフラ大風穴に向かって北側から強風が吹き込むと言っていた。
丁度今吹いている風が反対側からの風になるのは不思議だ。
そんな時、背後から何やらガサゴソと音が聞えてきた。
何だろうと振り返ると、そこには20体以上のゴブリンがこちらを目指して迫ってきているところだった。
なんで、後ろからやって来るの?
しかもこちらの場所が分かっているように、まっすぐ向かってくるのだ。
それを見てエイベルが「やっぱり」とこぼしていた。
その独り言を聞き逃さなかった私は、エイベルの襟を掴むとゴリゴリと上体を揺すっていた。
「ちょっとエイベル。貴方、何か隠しているわね。いい加減、言いなさいよ」
「ちょ、お嬢、そんな事している暇じゃあ・・・ああ、もう」
そう言うとエイベルは私をひょいと抱え上げると、そのまま迫りくるゴブリンから逃げ出していた。
私はエイベルに抱えあげられながらも何故、ゴブリンが私達の居場所が分かったのか考えていたので、向かっている先がミッシュ山脈であることにはまだ気づいていなかった。
+++++
その場所は、王都ルフナの平民地区にあった。
2階建ての建物の中は、1階がリビングと食堂で2階が個室というごくありふれた構造になっていた。
2階の個室には誰もおらず、1階の食堂では男達が昼間から酒を飲んでいた。
ここは冒険者チーム「竜の逆鱗」の拠点なのだ。
そこに1人の男が外出から戻ってくると、そのまま食堂に居る仲間たちの所にやって来た。
男を見た貧相な体つきの男が木製ジョッキを掲げると、やって来た男は軽く一礼した。
「ようイライジャ、首尾はどうだ?」
「ああ、仕込みの後、あのメイドに追跡されてちょっとやばかったが完璧よ」
「そうか、なら今頃あいつ等ヤバイ事になっているな?」
「ああ、そうだろうぜ。誘惑苔のエキスを振りかけてやったからな。しっかし、デズモンドは良く知ってたな。誘惑苔のエキスだけだと正気を失わないって」
話を振られたデズモンドは、握った拳から親指を突き出してこちらに見せていた。
「ああ、正気を失わせるのはあの食獣魔樹の能力だ。誘惑苔の香りで誘い、魔樹の能力で正気を失わせるから簡単の捕食出来るって訳だ。ドムもよくアレを持ち帰ってきたよな」
それを聞いたドムと呼ばれた男がその時の事を思い出したのか、鼻をヒクつかせていた。
「ああ、おかげで俺はあの姉ちゃんに殴る蹴るの暴行を受けたがな」
「よせよせ、女の細腕で殴られたって大したこたあねえだろう」
「いや、あの女は股間や鳩尾を蹴ってくるんだよ。ほんと、あれが貴族令嬢だとはとても思えなかったぜ」
「まあ、いいじゃないか。今頃はゴブリンの巣穴に持ち帰られて、奴らの饗宴の真っ最中さ」
「ははは、違いねえ」
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