第13話 第一王子の計略
王城キングス・バレイの第一王子の居室では、卒業パーティーで断罪に加わったメンバーが集まっていた。
学園でブレスコット辺境伯令嬢への断罪を行った結果卒業パーティーが続けられなくなり、その後王城から出頭命令が来て、今まで父親である現王と宰相それに近衛第一隊長に事情を聞かれていたのだ。
国王からは激しく譴責され暫く部屋にて謹慎を命じられたが、これは計算した上で実行された事なので焦りは無かった。
第一王子イライアス・グレン・バーボネラも馬鹿ではないのだ。
王族のしかも王太子が、男爵令嬢を次期王妃にするのがどれほど困難な事か理解しているのだ。
そこで自分の懐刀であるロナガンに、男爵令嬢と結婚するための方策を相談したのだ。
ロナガンの策はスクラップ&ビルドといって、古き常識を徹底的にぶち壊し更地にした上で、新しい常識を打ち立てるという意味だそうだ。
今回の卒業パーティーでの断罪はこの「スクラップ」の部分にあたり、俺がブレスコット辺境伯令嬢との婚約という高位貴族を妃にする古い常識をぶち壊す事で達成されるのだ。
その余波で更地になるようだが、そうして初めて「ビルド」の部分が出来上がるらしい。
そしてこいつ等が、あの卒業パーティーの雰囲気に飲まれて自身の婚約を破棄したことがこの更地になるという行為なのだろう。
おかげで第一王子派の派閥がガタガタになり、死に体だった第二王子派が息を吹き返していた。
作戦通りとはいえ、こいつ等もリリーホワイト嬢を狙っている事が分かり、心中穏やかではなかった。
彼女は俺の妃になるのだぞ。
お前達には渡すつもりはない。
肝心のリリーホワイト嬢はと言えば、卒業パーティーに出席していた貴族達が第一王子派は自壊したと騒ぎ出したので、俺の未来を心配して気を失ってしまったのだ。
俺としては一刻も早く心優しいリリーホワイト嬢のお見舞に行きたいのだが、今はロナガンの作戦を進めるためそれを我慢しているのだ。
だが、こいつ等にはどうしても一言釘を刺しておきたかった。
「グラントリーよ。アレンビー侯爵令嬢との婚約破棄を撤回したらどうだ?」
「え、何を言うのです。私はフィービー嬢が良いのです」
「ちっ、では、クレイグお前はどうだ? レドモント嬢とよりを戻す気はないか?」
「ええ~、そんな、僕だけとか嫌ですよ。それなら王子がブレスコット嬢とよりを戻してはどうですか?」
「馬鹿者、良いかよく聞け。ブレスコット辺境伯令嬢、アレンビー侯爵令嬢、ラッカム伯爵令嬢それにレドモント子爵令嬢のうち、明らかにはずれなのはあの残虐女だろう。だから当然リリーホワイト嬢と結ばれるのは俺なのだ。お前達は諦めろ」
「「「いや、俺達もリリーホワイト嬢が良いです」」」
全くこいつ等は話にならん。
だがリリーホワイト嬢が良いという、こいつ等の人を見る目は褒めてやろう。
それにしてもロナガンは、この事も見通していたという事か。
最初にあの男に会った時は凄い美人だなと思って思わず声をかけてしまったが、その後男だと分かり、大恥をかくところを笑って誤魔化してくれたのだ。
あの後、2人で大笑いしながら酒を酌み交わして仲良くなったのだ。
その後、学園に転入してきたリリーホワイト嬢の事が気になると、色々と助言を貰ったのだ。
おかげでリリーホワイト嬢との仲も、かなり深めることが出来た。
男爵令嬢を妻に迎えるための方法を相談した時も、あの残虐女がリリーホワイト嬢を虐めている事を知らせてくれたので、何の後ろめたさも無く卒業パーティーで断罪が出来たのだ。
そして次の一手は、あの女が辺境伯領に戻れないようにする事だ。
何でもあの女が辺境伯領に逃げてしまうと、計画が破綻する危険があるそうだ。
幸いなことにジャイルズの父親である騎士団長が捕縛に向かったので、その結果報告をジャイルズに頼んである。
騎士団が戻って来れば直ぐに報告があるので、あの女は牢屋にでもぶち込んでおけばいいだろう。
そうすれば娘を溺愛する辺境伯が、暴走することへの抑えになるのだ。
やはりロナガンは頼りになる男だ。
計画は順調ではないか。
イライアスは満足そうな笑みを浮かべたところで、慌ただしくジャイルズが部屋に入って来た。
「た、大変です。兵士達の話によるとクレメンタイン・ジェマ・ブレスコットの捕縛に失敗したようです」
「なんだと」
おい何をやっているんだ。
完璧だった計画に綻びが生じていた。
まずい、まずいぞ。一体どうすればいいんだ。
いや、ちょっと待て、慌てるな、そう言えばロナガンは失敗した時の事も言っていたな。
ええと、確か「人相書きを回して王都の3つの門の警備を厳重にする」だったか。
それには騎士団長の協力が要るな。
「ジャイルズ、直ぐに騎士団長を捕まえろ。良いか、騎士団長の失態を帳消にできる案があると言って連れてくるんだ。分かったな」
「はい、分かりました」
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