悪役令嬢の華麗?なる脱出劇【恋愛要素マシマシ】
サンショウオ
第1章 王都脱出
第1話 断罪の日
ゴチンという鈍い音が響き、私の頭の中に火花が散った。
それはまるでアニメのような白い星が私の周りを飛び回る、あの姿そっくりだった。
そして私の頭の中に最近嵌っている乙女ゲーム「ファン・ステージ」の、エンディングである断罪の場面が浮かび上がった。
それと同じ光景が今私の目の前にも現れており、ファン・ステージの攻略対象者の一人である第一王子と隣に寄りそうヒロイン、そしてその周りには他の攻略対象者達も居るのだ。
第一王子はヒロインを庇うように左手を背中に回しながら、右手は私に向けて指を突き出していた。
第一王子の名はイライアス・グレン・バーボネラという、私の一押しの攻略キャラだ。
それが今は眉間に皺を寄せて、厳しい顔つきで私を睨んでいた。
その周りには他の攻略対象である宰相の息子グラントリー・エリス・ギムソン、近衛騎士第一隊長の息子クレイグ・ニック・ベインがいた。
そしてこれがゲームの世界なら、私の腕を後ろに回して動けないように押さえ付けているのは騎士団長の息子ジャイルズ・ガイ・ロンズデールのはずだ。
第一王子は怒りに満ちた声で、ゲームの中の悪役令嬢がヒロインに対して行った数々の嫌がらせやいじめの事実を一つずつあげつらっていた。
あれ? という事は私が悪役令嬢役なの。
私の名は高月瑞希、日本に住むごく普通の社会人であり、今日も会社で長い残業を終えて帰宅し、そして唯一のリラックスタイムであるお風呂に入っていたはずだ。
これは夢なのだろうかと首を傾げた。
いけない。
夢にまで見るほど、どっぷりと嵌ってしまったようだ。
これは暫くゲームから離れないと拙いかもしれない。
気を付けようと考えながら何とか覚醒しようと頭を振ってみたが、どうしても夢から覚める事はなかった。
「相違ないな?」
目の前の第一王子がゲームと同じくそう言って、悪役令嬢が行った数々の出来事を言い終わると私に同意を求めてきた。
ゲームだと悪役令嬢は悔しそうな目でヒロインを睨みつけながら、全てヒロインの行動のせいだと言いながらそれを肯定するのだが、私は口の中がカラカラに渇いて声を出すことが出来なかった。
「どうした? 残虐女とか告げ口令嬢と言われたお前も、ぐうの音も出ないか。いつものように父親にでも泣きつくか? だが、たかが辺境伯が怒ったくらいで、俺は怯みはしないぞ」
私が声を出せないでいると、第一王子はゲームには無いセリフを口にした。
あれ? ゲームと違う?
そう言えばゲームではここで悪役令嬢が断罪されてエンディングを迎えるので、その後悪役令嬢がどうなったかは、最後の回想シーンの後で帰りの馬車を何者かに襲われて死亡するというテロップが流れるだけなのだ。
という事は、このままだと私は帰り道に襲われて死亡という事になってしまうのだろうか?
自分の質問に何も返さない私に苛立ちを募らせた第一王子は、パーティ会場にいる学生やその保護者達を見回した後で、私を睨みつけると最終命令を下してきた。
「学園の卒業パーティという晴れやかな場に、お前のような意地悪女は相応しくない。目障りだ。消え失せろ」
第一王子はそう言うと、私を拘束していた力が弱まった。
ようやく立ち上がる事が出来たので周りを見回してみると、それまで王子達が壁になって見えなかったホール全体が見えた。
円錐形をした学園の大ホールの天上は、円の中心から放射状に伸びた梁は白色で統一され、円の中心から格子状に仕切られた天上板には様々な絵が描かれていた。
屋根と外壁の間には魔法による明かりが灯されていて、ホール全体は優しい光で照らされていた。
壁にある柱は彫刻が施され、天上を支える部分には動物等の顔がありその大きく開けた口からは鋭い牙やうねる舌が表現されていた。
ホールの床は表面を滑らかに磨き込まれた板張りとなっており、壁や人々の姿を写していた。
そして意外な事が起こった。
第一王子の周りにいたゲームの攻略対象者が、次々と自分の婚約者に婚約破棄を宣言しているのだ。
その顔には、場の雰囲気に飲まれたような恍惚とした表情をしていた。
それを聞いた周囲からはどよめきが聞えてきたが、誰も王子達の馬鹿げた行為を止める者はいなかった。
周囲には今年卒業する学生の他、その晴れ姿を見に来た貴族達がいるというのに。
私は元婚約者となった第一王子から出て行けと言われたので、突き飛ばされ痛む足を引きずりながら出口へとつながる扉に向かって歩いていた。
すると急に私の周りに人の気配を感じると、同じように婚約破棄された令嬢達が私の周囲に集まり、私に手を貸してくれていた。
「クレメンタイン様、お怪我はありませんか?」
「ありえませんわ。いくら第一王子とは言ってもやりすぎだと思います」
「本当に、あんな晴れの舞台であのような無体ありえませんわ」
私に付き添ってくれた令嬢達が、私の事をクレメンタインと呼ぶ。
そうか、やはり私はファン・ステージの悪役令嬢クレメンタイン・ジェマ・ブレスコットで間違いないようだ。
一人寂しく帰宅するのだろうと思っていたところに、同じように婚約破棄された令嬢達が付き添ってくれている。
これはゲームでは無かったシナリオだった。
この人達も、これから家に帰れば大変な目に遭うのだろうと思うと気の毒に思ってしまった。
「皆さんも同じ目にあったというのに、私の事を気遣ってくれてありがとうございます」
私が礼を言うと、集まった令嬢達は皆気遣うような優し気な笑みを浮かべてくれた。
扉を出て出口に向かう廊下に出ると、私の頭の中に悪役令嬢クレメンタイン・ジェマ・ブレスコット視点の記憶が流れ込んできた。
それにより王国の情勢や、今私の周りにいる令嬢達の名前や家に関する情報を知ることが出来た。
ゲームでは悪役令嬢の背景は殆ど語られていなかったので、これから私が行おうとする行動への参考になりそうだ。
そう、ゲームのシナリオである死亡フラグから生き残るのだ。
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