第54話 明晰夢

夢を見た。


夢の中で、悪意ある笑い声と少女の怒号が聞こえた。


黒と白。空は黒い雪が降り、地面は純白に塗りつぶされていた。


自分が地面に伏せていることに気づいた。冷たい地面がじわじわと体温を奪い、強烈なめまいと痛みが動けなくさせた。


隣には青い少女がいた。少女は背中を地につけ、その下には鮮やかな彼岸花ひがんばなが咲いていた。


私は手を伸ばし、少女に近づこうとした。少女の胸には種が埋められ、その種から赤い根茎こんけいが伸び、地面に落ちて一つまた一つと赤い花を咲かせた。


私は両手をその種の上に置き、種の成長を止めようとしたが、無駄だった。私の指の間から次々と花が突き出て、美しく咲き誇った。


少女は徐々に氷結していった。かつて銀河のようだったその目は今や暗く光を失い、顔は徐々に周囲の雪と同じ色に変わり、唇にはただ一筋の鮮やかな赤が残った。


私は一心不乱に全身の力を尽くして種の発芽はつがを阻止しようとした。


しかし、私の努力は無駄だった。少女の周りは徐々に花で満たされていった。人形のような少女は今、精巧に飾られた花壇に横たわっている。私は花を引き抜き、花びらを掌に乗せて少女の体に戻そうとした。


私が少女の肌に触れると、それは雪のように冷たかった。わずかに力を加えると、溶けてしまった。


そして。


カタッ、カタッ、と。踏み込む足音が、喧騒けんそうを切り裂くかのような静寂せいじゃくを生み出す。


熱波ねっぱが私に向かって吹き付ける。


彼岸花が一面に燃え始めるのを見る。赤い花びらが火に包まれ、くるくると丸まり、焦げて最終的には灰に変わった。


花壇が燃えている。青い少女の上の氷が徐々に溶け、彼女の体に植えられた種も燃え上がる。痛みで歪む顔に、再び淡い血色が浮かぶ。


指先から溢れ出る燃える花々を見ながら、少女の胸から再び熱が湧き上がるのを感じる。私は頭を上げ、その熱の源を確認したい。花壇を焼き払ったのは誰なのかを見たい。


それは火であり、鳳凰ほうおうだった。


定形を持たず、躍動する火が鳳凰を形作る。鳳凰の視線が私に数秒留まり、そらされた。鳳凰が見つめる先には、二体の黒い化け物が歪んだ怒りの表情を浮かべ、鳳凰に向かって牙を剥き爪を振るっていた。


地面から突き上げる白い槍が柵を形成し、化け物の進路を阻んだ。化け物は悪態をつきながら拳を振り回したが、鳳凰は動じず、静かに翼を一振りした。


悲鳴の中で、化け物は烈火に包まれた。鳳凰の鋭い眼差しは再び私に戻り、世界が燃え上がっている。


再び目を閉じると、自分が急激に水中へと沈んでいくのを感じた。



§


「っ。」


目を開けた時、見えたのはやはり見慣れない天井だった。


手のひらに熱さを感じた。


Qが私の手をしっかりと握り、ベッドの上で眠っていた。多分、私の世話をしてくれたのだろう。今は規則的に息をして、ぐっすりと眠っている。


ドアをノックする音がした。


「…どうぞ。」


「サヨさん!目を覚ましたのね。良かった。」


雪野はホッとした表情を浮かべた。彼女は慎重に私のベッドに近づき、お見舞い品を隣のテーブルに置いた。


少女の顔には喜びと憂いが同時に浮かんでいた。ポニーテールは力なく垂れ、目の端にはかつての鋭さが見られなかった。


「...スターリーアイズの状況は?」


「...命を拾ったが、まだ完全に危険を脱したとは言えない。今は...まだ集中治療室で観察中です。」


「っ。」


まるで私を慰めるかのように、雪野は慌てて付け加えた。


「で、でも!おそらく問題はないでしょう。魔法省の医療技術なら、すぐに安定するはず。紅先輩が迅速に対処してくれて助かった。弾丸が奇跡的に重要な臓器を避けたので、しばらく静養すれば目を覚ますかもしれません。」


雪野の言葉を聞いて、一時的に安心した。


「それは、良かった。」


「ええ。」


「...私、どのくらい寝ていたの?」


「一週間よ。幸い、状況は思ったほどひどくなかった。しばらく静養して、魔法少女特有の回復力があれば、すぐに良くなるはず。」


「そうか。」


少しの間、沈黙が流れた。雪野は私に向かって頭を下げた。


「この度のこと、本当に申し訳ございません。」


「どういうこと?」


「スターリーアイズは私の後輩。あの子を止められなかった私のせいで…」


雪野は何か言いたげな表情を見せた。さらに詳しく聞こうと思った時、澄みとおった声が私の言葉を遮った。


「どうやら目が覚めたみたいですね、サヨナキドリ。もう大丈夫そうで、おめでとうございます。」


声の主は小柄な少女だった。


少女は金髪に緑の瞳を持ち、白い衣装を身に纏い、胸には赤い宝石を飾っている。彼女の後ろから、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで銃器を装備し、防弾チョッキを着た警察官たちが一斉に病室に入り、私を取り囲んだ。


「ブレイズエッジ…」


私の体が瞬間的に緊張した。雪野にちらりと目をやると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げていた。


ブレイズエッジは銀の鈴のような声で続けた。


「言っていたはずですよね?いつかこんな日が来ると。あなたがこの街にいる限り、私に捕まるのは時間の問題です。」


「っ!」


「逃げようとしても無駄。今、ここには二人の魔法少女と魔法省の特殊部隊がいます。」


ブレイズエッジの視線は冷たい刃のように私を貫いた。


「まさか病院で暴れるつもりはないと思いますが…もしそうなったら、こちらも相応の対応をいたします。」


「くっ…」


「やめて。」


ベッドから起き上がって抵抗ていこうしようとした瞬間、雪野が私の手を強く握り、首を振った。


「大人しくしてください。お願い。」


「…っ。」


雪野の切ない表情を見て、私は渋々ベッドに戻った。


「結構。」


カチャ、という音とともに、私はブレイズエッジに手錠をかけられた。


ブレイズエッジから視線を外し、ベッドの上で寝ているQに目を向けた。


Qはまだ何が起こっているのか分からないように眠っている。


「やっぱり、病院には良い思い出がないな。」


ベッドに仰向けになり、私はため息をついた。

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