第15話 落ちた星の行方
「ハァ、ハァ、ハァ」
街灯のない小道で、少女は何かから逃げるように走っている。緑を基調とした可愛らしいデザインの服は汚れており、傷ついている箇所もある。彼女が通った場所にはわずかな光が残り、しばらくすると月のない夜の闇に消えてしまう。
「ハァ、ハァ...あっ!」
驚きの声が上がり、少女は地面に倒れ込んだ。彼女は急いで振り返る。
「逃走劇も終わりか。雑光でも、消えゆく時には哀しい美しさがあるものだな。」
楽しそうな女性の声が小道に響いた。
「ひとつ、ふたつ、みっつ。ああ。君は最後の役者だ。仲間たちは君が助けを求めることを信じて身を挺して逃げさせてくれた。最後に君はこんな小道で捕まってしまった。埃まみれになり、闇に包まれる。」
少女の顔に一瞬、悔しさが浮かび上がったが、すぐに歯を食いしばった。彼女は必死に立ち上がり、手に持つ短杖を構えた。握られた手は微かに震えていた。
「ハァアアアア!」
叫び声と共に、少女の手から黄緑色の光球が放射される。しかし次の瞬間、彼女の目は驚きで大きく見開かれた。
黒い霧が漂い、少女の背後には扉が現れた。扉には悪魔の彫刻が嗤っているように見える。ゆっくりと扉が開き、その中から細く美しい手が伸びてきた。手は優雅に少女の華奢な体を抱きしめ、そして少女の開いた口を覆った。
少女を抱きしめているのは女性の姿をした存在だった。テールコートを着た彼女は、鉄灰色の髪と尖った耳、鱗のような顔を持ち、笑顔を浮かべていた。しかし、もっとも印象的なのは彼女の胸元だろう。そこには拳ほどの大きさの穴がある。穴からは果てしない闇しか見えない。
「さあ、僕と共に来い。」
奇妙な人物が少女をゆっくりと闇の中に引きずり込む様子を見ながら、私は画面に拳を振り上げた。
「どうしたの?大きな音が…」
Qが地下室に入ってきた。彼女は私の机の悲惨な状態を見て、顔をしかめた。
「ごめん。すぐに錬金で修理するから。」
「見せて。…血が出てるじゃない。ちょっと待ってて。包帯を巻いてあげるから。」
「いいよ、ちょっとした傷だから…」
「だめ。傷跡が残ったらどうするの。」
Qは私の手を握り、医療キットを取り出して包帯を巻き始めた。Qが私に包帯を巻いている間、私は隣のテーブルに目を向けた。
前の戦いで活躍したパイルバンカーは、私の手によって部品ごとに分解されていた。このパイルバンカーの力があってこそ、ミノタウロスのような巨大な敵と渡り合うことができた。
「手当てが終わったよ。次からは自分をこんな風に扱わないでね。」
「ああ。すまない。」
包帶でぐるぐるに巻かれた自分の手を見て、動きに影響がないことを確認した後、装備の点検作業に戻った。
一つひとつの機構を慎重にチェックし、クリーニング後には油を細かく差し込む。損傷や形が崩れている部分には、錬金術を駆使して強化を施す。特に鉄製の柱部分は、繰り返しの衝撃で微妙に歪んでしまっていた。もしかすると、これを機にもっと硬度の高い材料への変更も検討しなければならないのかもしれない。
修理を続けながら、私は思わず考え込んでしまった。
あの嫌な怪人に逃げられてしまった。
G. ラポス。
あいつは、転送系の固有能力と怪人を操る能力を持ち、要所を突かれても生き延びる生命力を持っている。そして、何よりもその優位性を支えるそのずる賢さがある。剣崎紅が以前にそんな程度な相手を倒したことを思い出すと、本当にすごいと思う。
あいつは今後も現れるかもしれない。いや、むしろもし相手が私を狙っているのなら、派手な動きをして私を誘い寄せようとする可能性が高い。その時に巻き込まれるのは、無実の市民だ。このような状況はどうしても避けなければならない。それが私の矜持なのだ。
「次に出会う前に、対処法を考えないといけないな。」
「前回逃げた怪人のことを言ってるの?」
Qが首を傾げて私に尋ねた。私は頷いた。
「ああ。ネットに流出したあの映像、見たよね?」
「魔法少女が捕まる映像のこと?見たよ。ちょっと厄介だな。」
Qは眉をひそめた。
「私の妖精の友達も言っていたよ。これは百年ぶりに魔法少女が怪人にやられた事件だって。今、市民たちもみんな不安でおびえているんだ。」
「だろうね。これは私の責任だ。あの怪人を早く処理していれば、これらの問題は起こらなかった。やはり、『あれ』を急いで完成させるべきだな。」
「でも、現在の実験状況では...」
「やるしかない。まずは怪人を狩りの回数をできるだけ増やす、あとは出来るだけプロトタイプを開発する。」
「まだ徹夜するつもり?そんなに自分を追い詰めなくてもいいのに。先週の夜に怪人を退治した後は、昼間もずっとここにいるんでしょ?店番もサボってるし。常連客たちも気づいて、心配しているわよ。」
「...善処する。」
「とにかく!今のあなたには柔軟な思考を保つ必要があるのよ。」
Qが買い物袋を差し出した。
「気分転換にちょっとした外出はどうだろう。晩ご飯の材料をお願いするわ。」
「はあ。わかった。私が留守の間は君に任せるよ。」
Qから手渡された買い物袋を受け取ると、私は小さくため息をついた。
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