赤い服の真田さん

七村メイナ

プロローグ

 ネットで見た通りのプレハブ外装だ。大阪から上京してしばらく世話になるハイツの外装を無表情でスマホ画面と見比べる私、馬宿うまやどあかりは小さく低い声と一緒に溜め息を吐き、生まれつきの茶髪が静かな空間を流れる風に揺られる。


「あれ、あんたが今日からここに住むって人?」

「そうですけど」


 ハイツ『やまと荘』の管理人である大和みきなが紺のカーディガンを羽織りながら眠たそうに声を掛ける。欠伸をすると、あかりは左手首につけた銀の腕時計が示す正午の針を見る。


「もしかして、こんな時間まで寝てたんですか?」

「朝から娘の支度を手伝って幼稚園に送るやらでね、主婦も楽じゃないのよ」

「へえ」


 あまり興味がないような声を漏らすと、管理人はそれを察したような微笑を見せて灰色のロングスカートのポケットからスペアキーを取り出す。


「行こうか」


 これから暮らす部屋番号は202号室。頭の数字が階層を示し、お尻の数字は入口に近い階段から上って手前にある部屋から『1』とつけられている。


「この鍵、たまに入りが悪いときあるから」

「錆ですか?」

「そうそう、10年ぐらいほったらかしだから」


 修理点検を呼ぶ費用に充てる余裕もないらしく、今までの住人達は双方の信頼関係をもとに施錠せずにいたとか。


「静かですよね?」

「ああ、丁度入れ替えの時期なんだよ」

「じゃあ、誰もいないってことですか?」

「今はね。でも、募集掛けたら5部屋全部決まったから、心配はいらないよ」


 別に心配していたわけではないが、どこか寂しいような気がしたのも確かだ。

 

「さ、中に入って入って」

「ちょ、ちょっと」


 開いた扉を右手で押さえながら、管理人は立ち止まっている私の背中を押した。

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