第2話

厳重なセキュリティーの続く

長い廊下を歩いていくと小さなドアにたどり着いた


このドアを開ける時には

いつもそれとなくドキドキする


そこには人体がずらりと並べられていた

つるりとした感触の卵型の容器は

人と培養液を静かに包み込んでいた


溜息が出た


これだけの数の人体ということは

どれだけ時間をかけることになるのだろうかと思えば眩暈がする

どうか簡単な依頼であってくれと願いながら

いつも通りに

最初の卵につけられた依頼内容を読んでみた


「10キロ減量して、筋力つけて、語学習得・・?」


そこには禿げ頭で中年メタボの著しい人間が眠っていた

ハゲはいいのかハゲは?

このボケ自分で痩せるくらいやりやがれと悪態をつきそうになったが

顧客がやろうとして出来なかったからこそ、ここに居るのであり

そこがビジネスチャンスと言うことだ

そしてこの仕事はまあ金にはなるのだ


「やあ今日も時間通りだね」

暗闇から声がした

やっぱり最初の顧客からなんだねと声は続けた


その声に聞き覚えはないが、多分、イトコだ

私をこのビジネスに招き入れた元凶でもある


「今日はどれから始めようか?」甲高いようで穏やかな声がそう言った

軽いステップが聞こえた

「そっちは拒食症か何かを元に戻すような作業かよ?

随分楽しそうなのやってんな」


女の子の声ってまだ慣れないけどねとまた楽し気な声が聞こえた


「肉体改造って良いよね!

時間決めて決められたことをやってたら簡単に改造出来るし

いやあコレホント楽しくってコレでお金貰ってるなんて申し訳ないくらいだよ!」


ついでにこんなのやってみた!と

ロリータ服を着たイトコがライトの前にぴょんと躍り出て来た

コレ、元は筋肉ゴリゴリのいかつい坊主だ


「依頼者の体で遊ぶんじゃねえよ」


遊んでるつもりはないんだけどこれ似合うじゃない

似合ってる時に着るのが全て!と腰に手を当てて宣言するイトコがそこに居た


そう、ここでは依頼者からの要望を基に

肉体改造を主に行っている

そして多少の知的能力のアップグレードくらいなら行うことにもなっている

卵の後ろにずらりと並んだジム設備はそのためだし

最新ソフトなど情報設備も完備しているのはそのせいだ


魔女なら

人間の願いはステッキか何かの一振りで解決させるだろうと思っていたが

それは割と見当違いな考えだったようだった

従業員に、依頼人の体を借入させてから

あくまで従業員の努力で依頼人の要望を叶えるというのが現実だった


ただビジネスのためにはそんな裏の事情は隠しておくに越したことはない

顧客の誰もが魔女の不思議な力で

肉体改造などが行われると信じているのだから

サンタはいると言わなければならない大人のようなものなのだ


「これも金のため」


私はそんなつまらない大人だ


覚悟を決めて1時間程かけて重苦しい体を移転させた

これで、この体を脱げるのは少なくとも数か月後にはなるだろう

見慣れた自分の体は既に培養液に浸かっていた


今日何度目からのため息が出た


すると私の元の体のポケットの中から特別音のメロディーが鳴った


妹だ


お仕事中は電源切ろうねと窘めるイトコをよそに

慌てて電話に出る


「・・もしもし、お願い、助けて」


ひそめた声が震えていた

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