八尺渉少年の日常譚

問屋持丸

第1話 中学校に入学して

 こんなことを自分で言うのも悲しいが、この少年、八尺渉(はっしゃく・わたる)は平凡な人間である。特に何ができるという訳でもなく、容姿端麗な訳でもない。ただ運がいいのか、大抵の事は特に悪い風にはならずに済んでいる。つまり人生山もなく谷もないということである。面白味がないが、上がることなく下がりっぱなし、というわけではないだけまだマシなのかもしれない。

 さて、今日は自分の通う龍風中学校の入学式である。しかし、自分が元々通っていた小学校が2クラスしかなく人が少なかったうえ、その中でもこの中学校に通うのはその半分程であり、ほぼほぼが初対面である。人見知りの自分にとって、このような状況は非常にまずい。

 2つあるグラウンドの、門に近い方のグラウンドの壁に貼りだされたクラス表を見て、自分が5クラスある中での3組の27番であることを確認した。

 各自確認し終えると、縦並び2列で並んで待っておき、先生の短い話を聞き指示に従う。その時、自分の後ろが女幼馴染の氷丘綾(ひおか・りょう)であることを知った。

「また同じクラスやね笑」

「ああ、そうだな。偶然ってのはすごいな」

 実は、綾とは小1から同じクラスで、これで7年連続同じクラスとなる。しかも、小3から出席番号が男女混合になったので、5年連続俺の後ろが綾になった。

 綾とは、小1から小5ぐらいまで一緒に遊んでおり、小6になっても、LIMEで少し連絡を取り合ったりしていた。去年ぐらいまでは、少し恋心というものももっていたりしたが、今となっては心を許せる数少ない女友達であり、貴重な相談相手でもある。

「渉の後ろ、前が見えなくて嫌やわぁー」

「それは綾がチビなだけじゃ…うッ」

軽くシバかれた。

自分は162㎝と中1にしては背が高い方だが、綾は147㎝とまぁ低い方であり、15㎝も差がある。よくカップルの理想身長差が15㎝とは言われるが、自分からすると、同じぐらいの方が色々しやすそうな気がする…

 先生の軽い話が終わり、体育館で入学式という名の、来賓の話を聞く会をうたた寝しながら過ごし、1-3の教室に入っていく。

 1-3は総勢39名となっており、教室は、列が7×6となっており、最後の3つは空いている。しかしまぁまぁ詰め詰めである。自分の席は…真ん中右寄りの列の、後ろから2番目か。27番だから、そりゃそうだ。

 そして当たり前だが、綾は俺の後ろである。これ黒板見えるのかな…

「えー、入学おめでとう。僕はこの39人を受け持つ担任の、星優(ほし・すぐる)といいます。教科は体育。よろしく」

 いかにも体育教師、という訳ではなく、かなりスマートな印象を見受けたが、よく見るとその体はかなり鍛えられており、しっかり体育教師ということがわかる。年齢は大体20代後半といったところだろうか。

 そうこうしていると、この中学校の校則やタイムスケジュール等の書かれた冊子が配られた。予鈴は8:20か。…朝はそこまでゆっくりできないな。早起きは苦手だから遅くまで寝ることを考えると、準備を早くしなければならない。

 そしてこの冊子には部活動の種類や詳細についても書かれていて、まぁそこまで変わったものはなかった。自分は小学生の時からしていた野球に入るつもりでいる。

「まぁ部活はバレーで決まりかなー」

そう言ったのは後ろの綾である。綾は小学生の時からバレーをしていて、かなり上手く、将来の夢は日本代表と言っていた。自分としては野球は好きだが、そこまで努力できるかと言われるとそうではないので、ひたむきに努力できる事に少しだけ尊敬をしている。

「俺は野球にしようかなー」

「そっかー、場所とか分かれちゃうね」

何気ない会話をしているうちに、ある程度の時間が経ち、解散となった。

 一応下校は今のところ綾と帰っている。

「なんか色んな子がおったね」

「あぁ、そうやな。馴染めそうになくて不安やな」

「私はちょっと楽しみかなー」

そう思える綾ならきっとすぐ周りに馴染めるだろう。そのポテンシャルの高さは少し羨ましい。

「しかし中学校でも綾はモテそうやな?」

「えぇー?分からんよ?」

「いやいや、大体分かるって。クラスの男子の人大体綾に目線いってたし」

「えーまじ?まぁ別にどっちでもいーけどー」

そう、自分の幼馴染・綾は、八尺渉の幼馴染には良い意味で合っていないほどの美女であり、元カレも既に3人ほどいる。つまりモテまくっているのだ。性格も当たり障りなくポジティブであり、運動神経もかなり良いので、悪い所がない。そりゃモテるわけである。

自分のいい所といえば、そんな綾と小1の時から絡みがあることぐらいだろうか。

「俺は綾といられてよかったよ」

「え、嬉しいけど、なんかどっか行くみたい笑」

「あー、確かに笑意識してなかったわ」

自分は小さい頃に父親を亡くしており、保険がおりてお金に困っているわけではないが引越しできるようなお金もないので、引越しは絶対にしないだろう。

「引越しなんてせんよ、大人なったら東京とか行ってみてもいいけど」

「えー東京か…遠いな」

「まぁほんまに東京住むかは知らんけどな」

 綾と話しているうちに、家に着いた。

「じゃあまた明日」

「うん、バイバイ」

 家に帰ると、献身的な母と、ウザい姉貴がいる。

「おかえりー」

「ただいま」

「3組やったんやろ?私も1年の時確か3組やったような気がするような…」

「いや全然確証ないやん」

「そんなことよりまた綾ちゃんと同じクラスやったんやろ?よかったねぇ〜笑」

「ウザい。別に好きとかじゃないし、ただの友達なんだが」

「ふぅん、まぁどう思ってるかは人の自由よねー」

「ウザい」

姉貴は本当にウザい存在である。

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