第4話

私が大学受験に追われるようになったのと同時期、アルは一日の大半を寝てすごすようになった。高齢なので仕方ないが、丸くなって眠るアルをそっとでると、昔と比べて随分とせており、切なくなった。


そして私が大学に入った頃にはアルはゲージから出てこなくなり、食欲も激減した。

動物病院で診てもらったが、高齢であることが一番の理由なので有効策はなかった。


水や餌をアルの口元まで運び食べさせるのが日課になったが、やがて何も口にしなくなり、ただ苦しげに呼吸するだけになった。


私はアルのゲージのそばで寝るようにした。何か出来る訳ではないが、それでもそばに居てあげたかった。



夜半に私は何かの気配に目を覚ました。

暗い部屋の中を何かが動いている。

目をこらすと、それは数匹の黒猫だった。

黒猫は二本足で立ち、顔を黒子のように黒い布で覆っていた。そしてそれぞれの前足でアルの体を持ち上げ、運び出そうとしていた。


私は『猫は死ぬ姿を人に見せない』という言葉を思い出す。だが、それでも─


「あの…」


と私は黒猫に声をかけた。

黒猫が硬直したように動きを止めた。

私は言葉を続ける。


「猫には猫の流儀があるのでしょうが、出来ればアルのとむらいは私たちに任せてもらえませんか」


と、出来る限り穏やかな口調とトーンで言った。黒猫たちは互いに顔を見合わせた後、アルを静かに床に降ろすと四本足に戻り、何処へともなく走り去った。

黒猫が消えてすぐにアルに近寄ったが、やはりもう息をしていなかった…。



翌日、私と家族はペットの葬儀社に連絡し、アルをとむらった。そしてアルの遺骨を持って帰宅する途中、私の携帯が鳴り、出てみると高齢の女性が静かな口調で「昨夜のことは他言無用ですよ」とだけ言って電話を切った──。



 **********


以上が愛猫アルにまつわる幾つかの奇妙な話です。もしかしたら家族もアルについての奇妙な目撃談を持っているかもしれませんが、確認はしていません。

あ、最後にもう1つ。この前、アルバムの整理をしてたら若い頃の祖母がアルを抱いてる写真を見つけました。

因みに祖母は享年98歳で大往生でした。


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愛猫奇譚 @tsutanai_kouta

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