愛猫奇譚

@tsutanai_kouta

第1話

私の家には「アル」て名前の三毛猫がいました。祖母が亡くなる際に託されたのですが、我が家に来た時は既にそれなりの年齢だったと思います。


俗に猫は年を経ると怪異になるとか、実は言語を解し、人知を超えた能力を隠してるとか言われてますが、アルもその類いだったようです。


これは愛猫アルにまつわる幾つかの奇妙な話です。



 **********


私が小学生くらいの頃、実家にネズミの痕跡こんせきが見られるようになった。食パンがかじられてたり、ふんらしきものが見つかったりして、どうしたもんか?と家族で思案することになった。ネズミ取りを仕掛けたり、市販の毒を設置するのが一般的なんだろが、アルが誤って罠にかかったり、毒物を食べてしまう可能性がある。というか、アルなら必ずそうなる、という確信があった。そこで業者に頼むしかないという結論に達し、それまでは食べ物をきちんと仕舞い、各部屋の扉にネズミが嫌うというスプレー(父が薬局で購入してきた)を噴射して、しのごうてことになった。


その日の夜中、私がトイレに起きると視界の隅を何かが駆け抜けた。瞬間的にネズミ!?と怯えたが、なんか“それ”は二本足で走っていったように見えた。

気になった私はネズミらしきものが入っていったリビングをそっと覗き込んだ。

すると“それ”はリビングの床の上に居た。

やっぱりネズミじゃなかった。

それは体長5㎝くらいの、ちっちゃい鬼だったのだ。


鬼は赤みがかった色をしていて頭には二本のツノがあった。そして1つしかない目は金色だ、鼻はなく、うっすら開いた口からは小さな牙がたくさん並んでるのが見えた。


私が唖然あぜんとして鬼に見入ってると、突然消えた。いや、消滅しょうめつした訳じゃなく、横から飛び出したアルが鬼を咥えて部屋のすみまで連れ去ったのだ。そして「メキッ」とか「パキッ」という不穏な音が聞こえた。

アルは鬼におおかぶさり、夢中で食べていた。…ぶっちゃけ、引いた。

私は渋い顔をしたまま、そーっとリビングから離れた。


翌朝、アルを見てみると額に小さなツノが二本生えてた。それがかゆいのかアルは後ろ足でしきりに顔をいたり、柱に頭をこすりつけたりしてた。ほどなくツノはとれてしまったので指でつまんでゴミ箱に捨てた。


この日以降、我が家でネズミの痕跡こんせきは見られなくなった。


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