14 ラムダと弟

「そもそも、古代に滅んだ機械帝国っつーのはさあ、この塔やら俺の出したカテギーダ見てわかる通り、とんでもなく栄えてたわけだ」

「機械ってのは……魔力を動力源にした人工物が自立化してる、みたいな仕組みか?」

「ざっくり言えばそう。魔力自体は誰でも多少は持ってるモンだし、俺がお前の魔力をサイコーっつってるみたいに質やら量やら属性やら、意外と個人差があるから、細かく分けて展開していったんだろーな」


 メテオラは胸元から手を離して光を消し、


「んで、その素晴らしく栄えてた機械帝国のモンじゃね? っていう部品が発掘されたわけで」


 服を身にまといながら話し続ける。


「帝都はもちろん古代文明の研究に乗り出すに決まってんだよ。なんせ、今の大陸全土にはなにかしらの機械の名残りはねーし、古代から建ってるって研究結果の出てるこの塔の封印は今の今まで解けてなかったんだからさ。……で、研究してますよーとは発表してっけど、どのくらい進んでるかは隠されてんだよ。お前も詳しくは知らねーだろ?」

「聞いたことねえな、確かに。この塔周辺が立ち入り禁止で、偶に帝都から人が来て調査かなにかしてるらしいってのは、町の住民が言ってたが……研究の一環だったのか」

「まーそうだろうな。それに、この塔以外の研究はかなり進んでたんだよ。……親バカ研究者が、発掘した部品全部持ち出して行方くらませるまではな」


 ラムダは何も返さないままメテオラを見る。そんなに色々話してどう言うつもりだ? という視線を送ったつもりだった。

 メテオラは、ただの世間話だけど? という顔でラムダを見つめ返した。

 だから勘繰りや遠慮をやめて、突っ込んで聞くことにした。


「メテオラがこの塔に入りたかったのは、機械帝国のことが知りたいからか?」


 メテオラは目を細めて頷き、今のところサイコーで最悪、と愉しそうに言う。


「ラムダだけじゃなく、一階で死んでたやつらにはも当然わかんねーだろうけど、入った瞬間から異様に懐かしいし心臓が反応してんのかガチャガチャうるせーよ。親バカ研究者様々だな」

「……その親バカ研究者は今何してんだ?」

「機械の心臓になった息子にぶっ殺されたぜ」


 しれっとした答えに、ラムダはつい口元に笑みを浮かべた。


「ああ、なんだ、じゃあお前俺と似たようなもんなのか」


 今度はメテオラが何も返さなかった。ラムダはメテオラから視線を外し、ガキの頃は帝都に近い街にいたと、まず口にする。


「俺の親は道具屋……良く言うと古物商? だったんだが、俺と弟を帝都の真ん中に店を構えるような商人にしたかったらしくてな。俺はともかく、まだ三、四歳のガキだった弟にも死ぬほど厳しかった。ていうか殺そうとしてたんじゃねえか? と思うくらいには、ほぼ虐待な商人教育を朝から晩までされてた

な」

「ラムダが商人とか無理じゃね」

「ああ、俺も絶対無理だと思う。なんせ俺が覚えた特技は地図表示やら急所探しからの一撃必殺で、気配も消せるし速さには自信があるしで、余裕でアサシン向きだった」

「アサシン向きだって自覚して、クソ親ぶっ殺して逃げた?」

「そう。一日メシなしで千以上ある商品名と店名覚えるまで寝るなって言われて、目利きが大事だからって何の違いがあるかわからねえ骨董品を見分け方も教えず見分けろとか言い出して、それに幼児の弟まで付き合わされて泣いたの見た時に、ああもうこのクソ親ぶっ殺すか……って決めて、ぶっ殺した」


 メテオラはふっと噴き出して笑い、意外といい兄ちゃんじゃん、と言いながらラムダの肩をばしりと叩いた。


 親を殺した日のことはよく覚えている。

 商品の中にあったナイフを使って、親を背後から一撃で殺した。

 ぶっ殺そうと決めた時に、怒りからか殺意からか、急所を探す特技が生まれた。

 それを使ったから簡単だった。


『にいちゃん、ごめん……』


 ロウが返り血まみれのラムダを見てそう言った。

 血がつくことも構わずに抱きついてきて、泣きじゃくる三歳のロウのことを、自分がこれからずっと守っていくのだとあの時に決意した。


「古物商なー……」


 メテオラが呟き、ラムダは回想から引き戻される。


「古物商がどうかしたか?」

「いや、古代文明まではいかなくてもさ、それに準じた感じのなにかしらがあったりしなかったのかなーって、お前の親の古物商」


 探してるという機械の部品について知りたいのだろうが、ラムダは首を振りすぐに否定する。


「お前の探してるような機械の部品はなかったはずだ。あんな変わった形のもん、一回見たなら覚えてるだろうが記憶にない。……やたら古そうな壺? とかはあった気がするけど、詳細は全然覚えてねえよ」

「壺……うーん……あ、ちなみにそのお前の親の店は、その後どうなったんだ?」

「出て行ってから街には戻ってねえけど、風の噂で潰れたとは聞いた」

「ラムダと弟くんはガキだったわけだろ、そっちはどうしてたんだ?」

「孤児院を転々としたり、広めの街の路地裏に勝手に住んだりしてたな」

「よく野垂れ死にしなかったなーお前ら!」

「俺が十五歳くらいになった時には、もうアサシンとして暗殺しまくってたからな。その頃にはまともに住処借りて暮らせてた」


 メテオラはふーん、と言ってから、


「めちゃくちゃなんでも答えるじゃん、なんで?」


 そう聞いてきた。首まで傾げていて、うざかった。


「……いや別に、弟助けに来たって話と、親ぶっ殺したって話聞かせたんだから、そのほかは何聞かれてもどうでもいいっつうか」

「マジかよ。今まで何人くらいの男とハメた?」

「数えてねえよ」

「女は?」

「三人試した」

「試したことあんのか……」

「お前こそなんだっけ、男でも女でもモンスターでも召喚獣でも抱けるみてえなこと言ってなかったか?」

「よく覚えてんなーお前!」


 それは当然、モンスターも召喚獣もと言われたからだった。あの時は引いたが今はもうどうでもいい。全裸や夜の趣向だけでなく、なかなか終わっている過去まで互いに曝け出したのだから些末に感じる。


「メテオラ、調子はどうだ」


 それなりに休憩も取れたため、問い掛ける。メテオラは頷いてから立ち上がり、天井の穴を仰ぎ見た。


「次は八階……だよな?」

「ああ。どんなやつがいるだろうな……」

「楽だといいけどねー、そう上手くはいかねーか」


 同意したくはないが、同意だった。

 段々と門番の強さが上がっていることは、お互いにもう分かり切っている。 



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