腐り、爛れ、膿んで、堕ちる
秋嶋二六
プロローグ
世界は終わってしまったらしい。
らしいというのは本当に終わったかどうか、知る術がないからだ。
どうしてこんなB級映画的カタストロフに陥ってしまったのか。
話せば実に「短い」。
某国の研究機関からゾンビウィルスなるものが漏れ出したのだ。
実にテンプレ的展開と言える。
傑作だったのが、ウィルスを流出させた某国の首脳が数人の側近とともに地下シェルターへと逃げようとしたが、その中に感染者がいて、全滅してしまったことだ。
あまりにも自業自得な末路に世界中の人々は快哉と失笑を禁じ得なかったが、その後がよくなかった。
国家による統制がなくなったことで、感染発生国の住民は我先にと祖国から逃げ出したのだ。数億の難民の向かう先にある国と民に恐怖を振りまいた。
周辺国は是が非でも、彼らの流入を防ぐべきだった。自国民を守るために難民の人権を蔑ろにすべきだったのだ。このときすでに人権がどうのなどと生易しいことをさえずっていられる状況ではなかったのだから。
いくつかの国はそうした。それらの国の為政者は他国民の人権より自国民の生存権を重視した。彼らはまさに統治者の鑑だろう。
しかし、どの国でも人権保護を謳う偽善者が存在し、感染者を招き入れてしまった。地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったものである。
かくして、世界でゾンビパンデミックが起こったわけだ。
日本で最初に発症者が認められたのは葛西臨海公園の一角、入国許可を得られていない某国人の難民からだ。その日は休日と言うこともあり、また都心にも近かったから瞬く間に全土に広がってしまったというわけだ。
さて、ここで多少テンプレとは違うことが起こっている。ネタばらしの前に、ここまでで疑問に思ったことはないだろうか。ゾンビまみれの現況を第三者目線で語るこいつは何者なのかと。
捕捉しておくと、我が仮寓は荒川を挟んだ東陽町で、「爆心地」からそこそこ離れていたが、「爆風」の被害から逃れることができなかった。
つまり今のおれはゾンビだ。何の因果か、人間の記憶と意思を持ったまま、ゾンビになってしまったのだ。
神様も粋なことをなさる。いずれチェンソーを持ってお邪魔することにしよう。
それはさておき、これからどうするべきかを考えないと。おそらく残された時間は少ない。
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