ラストチャンス ~異世界に転生したけどまた死んでしまったら女神様のおかげでモンスターとして復活させてもらえました~
戸下ks/トゲカッス
第1話 プロローグ コンティニューする?
「十六年ぶりですねフォール様、それとも
季節を無視した色とりどりの花が咲く庭園で椅子に座り優雅に紅茶を飲む女性。
僕はその対面の席に座っていて、テーブルの上には僕用に用意された紅茶が湯気をあげている。
この場にいるのは僕たち二人だけ。
「女神様の呼びやすい方でいいですよ。どちらも僕の名前ですから」
紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着ける。
さて、今の状況を整理しよう。
僕の今の名はフォール、そして前世の名前が灰賀真十。
両親が好きだったアニメから取って変な名前を付けられたが普通の日本人だった。親の影響で僕もアニメとギターが好きな、そんな人間だった。
そして僕がむこうで死んだ時に異世界転生の誘いを持って来たのが、今目の前で微笑んでいる女神様だ。
なんでもこっちの世界で強大なモンスターを倒し続け世界を救った英雄が、その功績を認められて死後にこっちの世界の最高神様に願ったのが「モンスターのいない平和な世界で生きること」だったそうだ。
そうして英雄の転生先を探すように指示を受けたのが魂の管理をしている神の彼女。
神界のルールで一つの世界に存在する魂の総量は決まっているらしく、地球の神様に相談した所、こちらの世界に行く事を本人が了承するならば英雄の魂とその人の魂のトレードを行ってもいいと返答をもらえたらしい。
そして女神様が来てくれる人を探し始めた、そんな時にタイミングよく死んだのが僕だった。そのため転生の話が来て、ファンタジーも大好きな僕は二つ返事でこの世界への転生を決めたのだった。
「ではフォール様と呼ばせていただきます」
「はい。それで、僕って死んだんですか?」
魔法とモンスターのいる異世界に転生した僕は冒険者になるべく鍛え、十三で育った村を出て冒険者になった。それから三年、世話になった師匠のパーティーに入れてもらい活動していた。そんなある日洞窟型のダンジョンに挑んで、モンスターの攻撃による床の崩落に巻き込まれてそこから記憶がない。
気付いたらこの庭園で椅子に座っていた。転生の話を聞いたこの庭園に。
あの時の場所で目の前に女神様がいるってことは、僕はもう――。
「残念ながら……その通りです」
「クーガ団長は? 副団長は? ファイズの義兄さんは? クーガ団の皆は無事なんですか?」
クーガ団は僕が所属していた冒険者のパーティー名。リーダの名前をそのままつけただけのひねりのない名付けだ。
ここに仲間の姿は無いが、僕以外に床の崩落に巻き込まれた仲間はいたのか、残った仲間は生きているのか。その辺を知りたい。
「フォール様のお仲間は依頼を達成して全員無事にダンジョンから帰りましたよ。今はギルドの
よかった、僕以外は無事なのか。これで心残りなく成仏できそうだ。
出来ればもう手遅れだから僕を助けようと無理はしないでくれと伝えたい。
僕のせいでミイラ取りがミイラになるような目には合わないで欲しい。
女神様に頼めば、神託とか、夢枕に立つとか、何かしらの方法でやってくれないかしら?
もしかしてそんな小さな望みを叶えてくれるためにこの場に呼んでくれたのかな?
「フォール様の人としての生は終わりを迎えました。ただし、まだ生き返るチャンスがあります」
「チャンス?」
生き返るチャンス?
そうすればまた仲間に会えるか?
「はい、しかし人間としてではなくモンスターとしてですが」
「モンスター?」
「フォール様はモンスターがどうやって産まれるかは知っていますか?」
「たしか物に魔力が集まると魔石に変化して、それを中心に形を作りモンスターが産まれるんですよね。」
だから魔力の集まりやすい場所にはモンスターも大量に産まれ、そういった場所をダンジョンと呼ぶ。
僕たち冒険者にはギルドから産まれたモンスターが増えすぎてあふれ出さないようにダンジョンでモンスターを討伐する依頼がよく出ていた。
それとモンスターには魔石になった物や周囲の環境も影響するらしく、同じ場所には同じモンスターが生まれやすい性質もあったっけ?
親から生まれるわけではないから動物とは別のモンスターというカテゴリーのこの世界特有の生物という扱いだった。
「今ならば私の干渉でフォール様の体をゴーストの魔石にして、その魔石に貴方の魂を記憶を保持したまま定着させることが出来ます」
ゴースト、
目を合わせた相手を眠らせる催眠魔法と小石を浮かして飛ばす攻撃をしてくるだけで、遠くから魔法で攻撃すれば安全に倒せる、対策さえ知っていれば新人でも倒せる雑魚なモンスターだ。
「ゴーストですか……。ダンジョンで死んだ冒険者がスケルトンやグール、ゴーストになって
スケルトンやグール、ゴーストはどのダンジョンでも現れるモンスターで、そのダンジョンで死んだ冒険者の装備をして現れる事からそんな噂がささやかれていた。
単純に死んだ冒険者の装備を奪っているだけなんて予想もあったがこんな形で真実を知ることになるとはな。
「普通はただ死体が魔石に変化してモンスターが産まれるだけです。人間とモンスターでは入る魂が別ですので別人ですが、フォール様の場合はこちらの都合で世界を渡っていただいた恩義がありますので特別措置ですね。このまま貴方の魂を入れなおしましょう」
死んだ冒険者がモンスターの素材になるのは本当。でも魂は別だからそこにあった装備をそのまま奪って使っているのもそれはそれで正しいのか。雑談のネタに使えるかな?
「というわけでフォール様には二つの道があります。一つはこのまま輪廻の輪に入り生まれ変わる道。その場合魂は洗浄され全てを忘れてフォール様とは全く別の人となります。もう一つは先ほど言いましたゴーストになる道です。その後また死んだ場合はもう特別措置は終わり、輪廻の輪に入り人間として転生してもらいます。さて、どちらにいたしまか?」
「じゃあゴーストになる方でお願いします。仲間に僕の死を伝えて、助けるために無理はしないでと言いたいですから」
仲間に伝えた後はどうしようかな?
モンスターが一緒に行動するわけにもいかないし、一人旅にでも出ようかな。
僕はまだ産まれたイノナカ国の一部しか知らない。
獣人族が暮らし、団長達の祖国である隣国のミナミノ連合国や神聖ホクセイ帝国にキタキタ魔法国。この大陸内でもまだ三国あるし、海を越えた外にはもっと未知の世界が広がっているんだ。
来世の僕がどんな人生を送ってもそれはもう僕とは無関係なのだから、それだったらモンスターになってでももう少し今を楽しみたいじゃないか。せっかく異世界に転生したんだから行ったことない所に行って、見たことないものを見てみたい。
ゴーストなら姿を隠しての密入国もやりたい放題。モンスターなので人間の法律も適応外だし。
そういう事情も考えて転生先をグールやスケルトンでなくゴーストにしてくれたのかな?
「わかりました。それでしたらお仲間に気持ちを伝えられるようにモンスターでも貴方の声で話せるようにしておきましょう。それとただのゴーストではすぐに死んでしまう可能性があるので一つ、特別な力も授けましょう」
「特別な力?」
「フォール様には少しでも長く生きて、この世界を楽しんでいただきたいので」
目の前に座っている女神様の両手から青い輝きが放たれた。むっちゃ眩しいです。
その手を合わせ祈るようなポーズをする。
「生と死を司る女神ヘルヘブンが人の子フォールに祝福を与えましょう」
光が手の中に集まっていく。
「【
女神様が手を開くと青色の光る球体がそこにあった。それはまっすぐに僕に向かってきて、胸の中に入っていった。
「力の使い方も一緒にインプットしておきましたので考えるだけで使い方がわかるようになっています。蘇ったら試してみてください」
視界がぼやけていく。もう用事は済んだからお別れって事か?
「ゴーストになる選択をしたことと、祝福を与えたことによりフォール様の魂がモンスターになるための変化を開始しました。もうじき意識を失うでしょう」
「そうですか……」
もう何も見えない――
「ありがとう、女神様」
最後にお礼を伝え、そこで僕の意識は消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます