石を拾う仕事
「どうだろう」
どうだろうと言われても、僕にはそれを判断することは難しい。だから僕は何も答えることは出来なかった。
「君が協力してくれるだけでいいんだ」
そういわれても、僕には難しい。それになんだって僕がそんなことをしなくちゃならないんだ。
「君の口は開かないようになってるのかい?それとも
僕の言葉で?まるで自分は何の影響下にもさらされていない確固たる思考を持っているような口ぶりだ。それはあまりにも無知が過ぎるんじゃないか。
「はぁ、まったく君にはあきれるよ。せっかく君という人材を僕は求めているというのに」
「お言葉ですが、なんだって僕が石を拾う仕事をしないといけないんですか?そんなもの僕じゃなくてもできる。資格もいらなければ、能力もいらない。ただ五体満足で、そこそこの体力と腰に何の問題もない人物ならだれでもできる要件だ」
「いや、これは君だからお願いしているんだよ。君にしかできないことだ」
「僕にしかできない事?」
「そう、君にしかできないことだ、君にはその資質と、能力がある」
「これは僕にしかできない仕事」
「そう君にしかできない仕事だ。君にはオールマイティな仕事は望めない。それからジュリアン・ソレルのようになることもできない…『赤と黒』を読んだ事は?」
「いえ、存在を認知しているだけ」
「なら、一度読んでみるといい。ともあれだ、君には素質はある、石を拾う素質が」
「それにしても」
「それにしても?」
「それにしても、僕は何のために石を拾うんですか?」
「それを君が知る必要はない。君は石を拾う素質があり、多くの人にそれを望まれている。そして君はその期待に応える、それでいいじゃないか」
「いえ、まったくよくありません。まったく、まったくもってよくない」
「何がよくない?期待に応えるということは皆やってる事じゃないか?」
「マークトウェインの本を読んだことは?それに晩年の」
「ある。君が何を言いたいのかも分かる。全部承知の上で言っている。おまけに『1984年』だって読んでいる」
「オーウェル」
「そうオーウェルだ。それも承知の上さ。その上で君に言っているんだ」
「それでも」
「それでも?」
「僕がやる必要性を僕は見いだせない」
「なら君は必要のないことはやらないのかい?」
「いえ、そこまで言ってない、ただこれは大きな決断であって、僕の将来を決めるということです。それについては慎重に決める必要がある」
「そう、慎重に」
「そう、慎重に」
「ところで、君はトーマス・モアの『ユートピア』を読んだことは?」
「さっきからなんなんですか?本の話は必要ですか?」
「いいから、僕が聞いているんだから」
「存在を認知している」
「つまり読んだことない」
「読んだことはない」
「なら、仕方ない。しかし君には必要な仕事がある」
「それが、石を拾うこと」
「そうだ」
「でも、僕はやりたくない」
「君はそう言う」
「でもこの世はそうやって回っている」誰かが言った
「強制は存在しない。存在するのは無自覚と無責任、制度と責任」誰かが言った
「やりたいというのは純なる気持ちではない」僕が言った
「そうだ純な気持ちではない」そいつが言った
「ならば僕のまったくはどこから」僕が言った
「それは君の純な気持ち」誰かが言った
「やりたくないというのも、きっと君の純な気持ち」そいつが言った
「でも、この世には適材適所がある。運命がある。無情の選択がある」そいつが言った
「ならば、やらなければいけない。誰かの為に、あなたの為に、彼の為に、そして私の為に」誰もがいった。
そして僕は首を振った
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