二度目の転生で異世界へ~日本人に転生していた元ドイツ軍人、希望に反してハイ・エルフの軍師になる~

クニタン

第1話 最初の人生~貴族軍人~

平凡な社会人、鈴木裕太、21歳。




 柔道整復師の専門学校を卒業したばかりの彼には敢えて記憶の彼方に置き去りにした前世の記憶があった。




 「もし生まれ変われるなら、今度は医者か看護師にでもなって人の命を救いたい。今世で軍人として敵も部下も殺しすぎた。もう沢山だ、全てを忘れてやり直したい。」




 その強い慙愧の念に答えた一柱のヴァルキュリアが居た。




 (ほう、ヴァルハラよりも輪廻転生を望むか、面白い。叶えてやろう。) 


 そして彼は前世の記憶を忘れ、平和な日本の平凡な家庭に生まれ変わった。




 ~元独逸第三帝国陸軍砲兵中将 フランツ・フォン・マイヤー伯爵  1945年4月29日ベルリンにて戦死、享年50才~




 全てを過去の彼方に追いやり、平和な人生を手に入れたはずの彼に再び悲劇が襲う。なんと交通事故でいきなり死んでしまい異世界へ再び転生されてしまったのだ。 ヴァルハラ召喚を拒否し転生した魂の存在に激怒した主神オーディンの仕業である。




 (戦士としての記憶をすべて思い出し、「中世ファンタジー的な」新たな世界で義務を全うし再びヴァルハラに召されよ)と。




 だがマイヤー中将を転生させたヴァルキュリアは再び介入する。




 (主神がそうするなら、こっちも考えがあるわよ。本人が望まないのに簡単にはバルハラに強制召喚させるものですか!)




 そうして転生させたことで満足し、あっさり興味を失った主神オーディンが目を離した隙に、転生後の種族選択に介入しほぼ無限の寿命を持つハイ・エルフとして転生させてしまう。さらに幾つかの(ギフト)も持たせ、本人の本意ではない転生の多少の慰めとするのだった。



**************************************





    ~千年帝国は、終わりを迎えつつあった。~  








  <1945年4月29日、ベルリン、午後6時。>




 「まだライヒスターク(国会議事堂)はもっているな。」



 総統官邸地下壕の入り口そばの半分廃墟になったマンションの3階の窓からがれきに埋まった中央通り越しの議事堂を砲兵鏡で確認しながら、独逸陸軍独立戦闘集団 <マイヤー・カンプグルッペ> 指揮官のマイヤー砲兵中将は副官のベルナー砲兵大尉に話しかけた。



 「よくもっていますよ。守備隊は武装SSのシャルルマーニュのフランス人義勇兵とノルトランドのフィンランド人義勇兵の生き残りが一個中隊程度の残存兵力ですから。」とベルナー大尉は半分呆れたような顔で答えた。



 「千年帝国国会議事堂を守る最後の部隊が外国人義勇兵とは!」



 (正規部隊なだけまだいいさ。)マイヤーは思った。


 今自分の指揮下にあるのは、老齢者をかき集めてでっち上げた国民突撃隊の1個大隊の残り滓が80名程と、ヒトラーユーゲントの12~17歳の少年兵が30人程度。使い捨てのパンツァーファーストや、粗悪な国民小銃VK98に型式がバラバラで弾の補給もままならない猟銃や旧式拳銃以外に碌な装備を持たない雑多な寄せ集めの部隊が全てだった。たった一挺ある重機関銃もシュバルツローゼなどと言う水冷式の、オーストリア併合時に接収した旧式兵器だ。



 度重なる敗走で現役兵と重装備のことごとくを失い、本来なら兵役不適格の弱兵と老人で編成された碌に訓練も受けていない国民突撃隊と病院下番の傷病兵・警察部隊や消防隊にヒトラー少年隊など、存在する全ての最後の人的資源と、保管庫にあったありとあらゆる旧式兵器と緒戦で手に入れた各国の鹵獲兵器を見境なく投入して編成された10万人の防衛軍。


 それが、(我らが総統)アドルフ・ヒトラー伍長閣下が高らかに謳った千年帝国の、最後の防人であった。



**************************************


  ~第三帝国首都・ベルリンは赤軍により完全に包囲されていた。~


 すでに市内にあるテンペルホーフ空港は陥落し、補給は途絶えてソビエト赤軍は総統官邸地下壕から2kmの位置にまで進出して152m重砲やカチューシャロケット砲による連続射撃で劣勢なベルリン守備隊をさらに追い込んでいた。


 「旧式でもいい、せめてこちらにも野砲が有ればな。」


 マイヤーは思わずため息をついた。歴戦の砲兵士官であるにも関わらず、砲抜きで市街戦をやらかさねばならない現状に、深い憤りを覚えていた。


 (まぁ、前大戦型のleFH16・105mm野砲どころか、国民突撃隊や臨時編成の国防軍部隊にも保管庫から引っ張り出してきた旧式のGew88歩兵銃・Kar88騎兵銃に、弾の備蓄も碌に無いイタリアからの鹵獲カルカノ小銃やロシア製のナガン小銃・酷いのになると前世紀のドライゼ小銃なんかが支給されているんだから、野砲や山砲なんて贅沢ということか。)


 マイヤーは職業軍人らしく現状をあっさりと受け入れ、その上での最善を尽くそうと考える。


      ((グワン!!))


 陣地すぐ傍の交差点で大きな炸裂音がして、思わず床に伏せたマイヤーに副官のベルナー大尉が状況を確認して報告する。


 「友軍の戦車トーチカがやられました!」


 マイヤーが窓枠の亀裂から外を見ると、交差点に砲塔だけ出してダックインされたⅤ号戦車パンテルが、ハッチや開口部から強力なガスバーナーの様に火炎を噴き上げていた。


 「無可動戦車中隊ベルリンの連中か。」



**************************************


          < 無可動戦車中隊・ベルリン > 


 損傷して後方の首都ベルリンにある修理工場やデポに輸送されていたⅤ号戦車やⅣ号戦車、鹵獲ロシア自走砲SU85など、今時あった自走不能な戦車や鹵獲戦車を交差点や重要公官庁前などに穴を掘り砲塔だけ出して埋設し防御用トーチカとして使用された動かない、僅か十数両の戦車達。




 機甲部隊による電撃戦でポーランドやフランス・西側低地諸国を席巻した戦車大国独逸帝国の凋落を、これ以上無いほどに象徴した存在だった。


**************************************


 今、崩壊しつつある戦線を辛うじて支えているのは、ベルリン・ツォー、つまりベルリン動物園にある鉄筋強化コンクリートの塊である防空塔からの128mm連装高射砲Flak40四基と37mmFlak18/36連装機関砲群による援護射撃あってこそだ。


 其処には、消耗し切った陸軍部隊やRAD隊、武装SS等の残存部隊が合流して絶望的な最後の抗戦を行っている。


 防空塔は空襲時の市民避難所に指定されている為、今も一万人以上の市民が避難している筈だ。(史実では定員を大きく超える3万人以上が避難していた)


    陥落時には、地獄絵図となるだろう。


 ベルリン守備隊の動ける戦車や突撃砲・自走砲はすでに払拭しているか撃破されて黒焦げの車体を至る所にさらしている。




 そもそも、もう燃料がない。




 燃料や可動戦車・装甲車があっても、士気が最低にまで低下した兵達が、最後の脱出戦の為に温存し前線に出てはこない。露助に降伏なんぞしたらどうなるかは知っている。


 女性は酷く輪姦されて嬲り殺され、軍人は生まれてきた事を後悔するほどの死に方をする事になる。奴らはジュネーブ条約なんぞ知ったことではない野蛮人だ。


      ~歴史がそれが事実と、嫌と言うほど証明していた。~



 (露助に降伏するくらいなら、玉砕する。だが、その前になんとか・・・・。)



 皆、包囲網を突破して家族のもとに生きて帰りたいのだ。玉砕や、悲惨な犬死はしたくないに決まっている。






             <チェックメイト。>






      最期の時は、目の前に迫っていた。








**************************************



  副官のベルナー大尉が国民突撃銃VG-1-5を片手に、這って近づいてきて言った。


 「彼らは自走不能のトーチカとは言え現役戦車で戦えました。それだけでも戦車兵冥利に尽きるでしょう。」


 そうだ、此処には戦争博物館から引っ張り出した前大戦の鹵獲品・イギリスのマークⅣ菱型戦車に乗せられた哀れな兵も居るのだから。


 マイヤーは気の毒な目で燃え上がる戦車を一瞥し、口の中で祈りをささげる。


 (どうせ直ぐにまた会えるさ、戦友諸君。しばしの別れだ。)



**************************************



   < 1945年4月29日 午後6時50分・総統官邸地下壕前 >



 すでにソビエト赤軍は砲兵鏡を使わずとも、目視できるほどの距離にまで進撃してきている。


 さっきベルリンにある軍需工場からロールアウトしたばかりらしい塗装も碌にされていない真新しいⅢ号突撃砲G型2台が、多数のT34/85からの集中砲火で火達磨になるのを見た。もう逃げ場はない。


 マイヤーは、二本向こうの通りの交差点にまで接近してきた茶色い軍服の蟻のような数の敵兵と、深緑色の大型戦車、JS2スターリン重戦車やSU152重自走砲がこちらに砲を向けているのが見えて自身の最期が近いことを知った。



 (神よ、願わくば我に・・・・・・。)




**************************************



 階下の一階と二階の窓やベランダから、接近して来た敵兵に対して指揮下の兵達が発砲を開始したらしく、単発銃の銃声が続いて聞こえ始める。更に、いかにも水冷式重機関銃らしい遅めで重奏な連続発砲音がそれに続く。



 さっきからのべつ幕なしに赤軍の砲撃が続き、半分怒鳴るような声でしか会話にならずマイヤーは喉が痛かった。


 副官のベルナー大尉も埃にまみれていたが、アーリア人の理想とする容姿に恵まれた彼はギリシア彫刻のようにマイヤーには見えた。



 (凛々しいな。もし、あの子が6才で神に召されず大人になっていたら、彼の様に立派な将校に成ってくれたのかな。)



 マイヤーは、夭折したただ一人の子、長男のジークフリートを思い出して想った。





     その瞬間だった。





 猛烈な閃光と爆風に叩かれ、音を失った世界の中で、彼は自らの存在が消えていくのを認知した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る