回避できない偶然でしたわー!

「アン・アレクサンダー伯爵令嬢様、ご到着いたしました」

「ようこそですわー!ずいぶん早いですわね」


 ずいぶん早く到着しましたわね。先触れを出してすぐ支度して出発したっぽいですわね。軽装ですし、またキャスがガミガミ良いそうですわ……。


「キャス、貴公もいたのか」

「アン?なにか問題でも?それにその格好は?」

「なに、当家のイデリー伯邸への先触れが無駄になっただけだ。これほどの事件ならベスが先触れ無しでいることくらいはわかっていたからな。服なら私も急ぎだ、訓練もあったからな、申し訳ないが打ち合わせは早いほうが良い」


 読まれてますわね。それくらいの判断をすると信じられてますわ。

 ベスの手順をすっ飛ばしてでもなんとかするとこは間違いなく美徳ですわ。アンもそんな感じですけど軍人系だから最低限は取り繕うのは流石ですわね。

 うーん、あいからわず男言葉が格好いいですわね、男性になりませんこと?!その手の方には多分受けますわ、夜会で一番人気出るんじゃやないかしら?ほらちょうど胸もないし。

 アンにはアレクサンダー女伯爵の跡を継いで将来の王国軍総司令官代理になってもらう予定ですわ。総司令官はもちろん、ワタクシがやりますわー!


「せめて服くらいはもう少し……!それに緊急時とはいえ先触れくらいは……!」

「これでか?貴公、今がどのような状況下わかっているのか?王太子になる直前に王位継承1位とその婚約者の事故死だぞ?事・故・死。ベスの判断は間違っていない。軍でも司令部が壊滅して伝令が出せないような危機にあれば自主的に1,2人は自主判断で伝令に向かうものだ」

「アン!軍ではないのですよ!?」

「これから始まるのは政治の戦争だ、私は自信がないがな。それくらいはキャスでもわかるだろう。もしかしたら政治以外かもしれないがな……。事故死に見せかけるなど腐るほどあるだろう?」

「そのとおりですわー!これからしばらくは情報の速さとそれに対する対処が大事ですわ。政争も戦争、卑怯も糞もありませんわよ?勝ったほうこそが正義、負けた人間は美談だろうとなんだろうと負けは負け。柔軟性を持ちなさい、キャス。あとベス、今後もこのレベルでおきた緊急時は先触れは不要ですわ」

「……わかりました」

「ありがとうございます……!」


 キャスをやり込めましたわー。勝ちましたわー!何を持って勝ちかはわかりませんけど、まぁ勝ちは勝ちでいいですわよね?

 アンも心なしかドヤ顔ですわ。キャスの何かを我慢する表情ゾクゾクじますわね……。いけないいけない!気を取り直して行きましょう。


 それにしても……事故死ねぇ……。本当に事故死なら良くはありませんが納得はしますわ。事故で死ぬようなタイプでもないですけど……。

 でも、もしも事故死に見せかけたものだったら……。

 この手で……。


「それでそれ以外でなにか情報がありましたの?」

「マルバッハ男爵が拘束された、ゲーリング子爵の処刑が決定した」

「「「もうです(の)か!?」」」


 ゲーリング子爵は農民の盗賊化と第1王子襲撃未遂に罰せられることはわかってましたけどずいぶん早いですわね。統治ミスとかそこを先につくとは思ってましたけど……。

 もしかして焦ってる?まぁ責任押し付けるのにちょうどいいのがいた感じでありますけども。

 それにしても行動が早いと言うかなりふり構わないと言うか、第一報と同時に入ってきた辺り本当は最初っから押し付ける気でしたわね?

 それにしても裁判もなしとは思いませんでしたわ。陰謀の香り渦巻く宮中政治らしいですわね、もう少し深堀りしないと立ち回りに困りますわねぇ……。

 裁判になれば無罪になる可能性があるのではなくおそらく突かれたらまずいことでもあるんでしょうね。


「盗賊を周辺にいた王国軍が蹴散らしたがな、敗残した賊徒がマルバッハ男爵領に押し入りマルバッハ領兵が迎撃。領兵は近衛騎士と共同で護衛する予定だったのだがそちらに駆り出されたために中止。賊徒が防衛を抜けて滞在地に来る可能性があるため第1王子殿下は本来の滞在時期を1日早めて出発、早く着いてもロンドニ区長に迷惑だろうからと……。どうせならと1日分迂回するついでに夫婦岩を見に行って事故にあったとのことだ」

「あら、当初から見に行く予定ではありませんでしたのね?」

「ゲーリング領の盗賊を注進した平民がその話をしていたのでどうせなら、となったらしい」

「予定を変えるからそういうことになるのです!アーデルハイド……」

「予定を変えなかったら……盗賊に突っ込むことになってたわよキャス……」

「案外盗賊相手に奮戦するかもしれませんわよ、護身術一つで」

「流石に多数は無理でしょう」


 ベスもうまい返しをしますわね……人生は本当にわかりませんわね。

 でもキャス?予定通りの人生はつまらないですわよ?ワタクシは、ワタクシたちも予定通りの人生をぶっ壊してきましたから。


「それで?拘束理由は近衛の責任回避ですの?共同護衛中止の時点で責任はありませんわよね?」

「…………黙秘しますとだけ」

「認めたようなものですね」

「キャス!アンがやったわけではないのですよ……」


 くっそ汚ねぇ上に無能ですわ!この手の人間はいりませんわ、処断してしかるべきですわね。

 ゲーリング子爵は原因だから仕方がありませんわね、でもマルバッハ男爵は無関係だと思いますわ……。

 あーこれはかわいそうですわー。ああ、本当に……可哀想ですわね。

 隙を見せましたわね?


 静観しながら様子を見る予定でしたけど、絶好の介入条件がありましたわね!清く正しい公爵令嬢が冤罪に心を痛めて行動する。

 まぁ二束三文の演劇にしても利益があるなら演じがいがありますわね。女優は得意ですわ、人形劇の声当ても領地じゃ変装してやってますし。

 まぁ常連にはバレてるますけど。


「マルバッハ男爵を救いますわー!冤罪ですわー!」

「よろしいのですか?近衛騎士団長の子息はマーグの婚約者ですが……」

「軍人系なら私が縁を取り持っても良い、それに……ここまで責任から逃げるような人間は王国にはいらん。キャス、広い目で見ろ!」

「近衛騎士団は無駄金を使うって……財務大臣のグリンド侯爵が父に不満を漏らしていました……使えると思います……」

「騎士団の権限が増えて近衛騎士団が失墜するならマーグにもオ・ト・クな話ですわ。さ、マーグを待ちますわよ?」


 ベスって婚約者のお父様とお話するのかしら?愚痴の内容まで知ってるみたいですし……。

 まぁ、かまいませんわ。うん、ささいなことですわー!アーデルハイドの死に泥を塗って逃げる愚物を成敗ですわー!


 さ、ドレスアップして劇の幕を上げましょう!

 主演はワタクシと親友の皆様、助演は哀れな近衛騎士団長。うん、悪役を倒す劇は受けが良いんですの!

 英雄役は演じがいがあって最も人気が上がるんですのよ!

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