こだわり
べるがりおん
こだわり
依頼のあった魔物の討伐を終わらせて町へ帰ってきたある日の昼下がりの事、傍らを歩いている友人が訊ねてきた。
「あのさ、前々から訊きたかったんだけれど…」
「ん?」
「アレってどうにかならんの?」
「アレ?」
“アレ”とはなんだろう? 何の事やらさっぱりである。そんな風に訊ねられるような事をした憶えもしている自覚も無い。なので、曇り無き眼で相手を見返してみると、こちらの心中を悟ったらしき表情を浮かべた友人は深々とため息を吐いた。
「魔法を放つ時の詠唱」
“アレ”とは魔法を放つための詠唱であった。何て難解な表現なんだ。遠回しにも程がある。てっきり性癖とかそっち方面の事なのかと思ったじゃないか! 口に出して訊ね返さなくて良かった良かった。然るに詠唱に対する疑問を受ける? いやいや私が使っているそれは、普通極まりないものだと思って今まで生きてきているんだけれども?
「詠唱? 普通でしょ?」
互いに『何言ってんの?』的な表情で見つめ合う2人。特に何かある訳でもなく、無言の応酬が続く不毛な時が過ぎて行く。ぽかぽかとした陽気が我々に降り注いでいる。昼寝したい。
「……衝撃波の時は?」
「『どーん!』」
即答してみた。相手はジト目でこちらの様子を伺っている。
「雷撃の時は?」
「『びりびり!』」
即答してみた。なおも相手はジト目でこちらの様子を伺っている。
「……」
「……?」
再び不毛な無言時間の到来である。このままいくと幻の時空間魔法に覚醒する可能性があるのでは?などと馬鹿馬鹿しい事を考えたりした。
こだわり べるがりおん @polgara
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