歯車

@kagami-sora

第1話


 交わしてきた会話は、共に過ごした時間は、無価値だったのだろうか。



 大事に築いた関係は、小さな弾みで一瞬にして壊れていく。まるで、その出会いすら始めから存在しなかったかのように、、、


何か大きな食い違いとか喧嘩とかがあるわけではない。原因は、タイミング。ただそれだけ。


人はそれぞれ自分の歯車を持っていて、形も速さも皆違う。


どこかの誰かが言っていた。

出会いは奇跡だ、と。

大げさなことを言うと思ったものだが、思えば案外、的を得ているのかもしれない。


歯車の噛み合わせも回転スピードも、ぴったし重なって、その時やっと人間関係が成立するのだ。


ずっと同じように回転し続けることは、もちろんできない。だから、人生という長い文脈において、ある人との関係は、大抵ほんの一瞬で途切れる。


きっかけは、引っ越しとか、転勤とか。あるいは、偶然会う機会が減ったとかかもしれない。


確かに大切にしたい人なのに、だったはずなのに、時の流れというのは恐ろしいもので、次第にどんなに強い、特別な感情も薄れる。さらに怖いことには、どうしてそんなことを思っていたのかと、疑問にすら思えてくる。



 大学生の美緒は、LINEのトーク履歴を眺めながら、ずっとそんなことを考えていた。


春。

出会いと別れの季節。

わくわくとほんの少しの不安と寂しさが入り混じる季節。


この季節になるといつも思い出す。

春風が春の匂いを運んできて、遠くにしまったはずの淡い記憶が蘇る。


19年の長いようで短い人生で、自分がもっとも輝いていた瞬間を。1番楽しかったあの時を。


あの時は気づかなかった。

当たり前に過ごした日々の大切さに。


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