高条くんの事情(仮)

春戯時:-)

第1話 すれ違いの始まり

 これは作者がハッピーエンド好きゆえの、ご都合主義なハッピーエンドの話である!!





















『これ以上、はなさないで。』

『ごめん待って』から始まった言葉。意味を理解してしまった瞬間、その言葉は私の心を深くえぐった。嫌でも周りが息を呑む声が耳に入ってくる。その状況に耐えられなくなった私は即座にその場所から脱兎だっとの如く逃げ出した。

こう!!』

自分の名前を呼ばれるが、そんな事は至極しごくどうでもいい……というか気にすることもできない。

 黒眼をした時代外れかもしれないが黒髪を一つの三つ編みに纏めた至って平凡すぎる日本人、それが私。戦堂せんどうこう、十五歳である。

 今日という祝うべき中学校の卒業式にて、小学校高学年から片思いをしていた高条たかじょう失輝しつきという人気者に一生に一度の告白をしたところ、無事に玉砕ぎょくさいしたわけであります。穴があったら入りたいとは正にこの事だと思う、奈落ならくの穴があったら入りたい……。ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ、ごめんなさい嘘です!奈落の穴に入る度胸なんて私にはありません!!

 ……失輝に恋をしたのは小学校五年生の運動会からだったと思う。周りの子は親と一緒にいるのに対して、私は親が既に他界しているため一人ぼっちだった。蔑み、憐れみ、同情、そんなものが欲しくて学校に来ているわけではなかったのに。面倒を見てくれている皆は忙しくて来れなかった。とにかく自分が惨めで仕方がなくて、本当はこんな行事に参加なんてしたくなかった。行けないからと朝に結んでくれた三つ編みに勇気がもらえたと思ったのに、今ではその事実でさえ自分が惨めに思える要素になっていた。保護者参加の二人三脚、相手がいない私は先生と走ることになっていた。自分に順番が回ってきた時、私の手を引っ張ったのは失輝だった。

『先生が足挫あしくじいちゃったから、僕と一緒に行こう!僕も父さんと母さんいないんだ、お揃いだね!!』

両親がいないことを平然と言ってのける彼は、眩しかった。名前にある通り失望の中にある一縷いちるの輝きだと、そう思った。

 時が経つにつれて、気持ちは大きくなりどんどん抑えきれなくなっていった。強欲であれ、と言われ育った結末がこれだ。なんて惨めで馬鹿なんだろうか。

『はぁはぁ……。』

 私は走って息切れを起こした、これぞ運動を日頃からしていなかった弊害へいがいだろう。中学校から私の家は私的にはかなり遠い、電車を乗り継いで約二時間しないと家に着かない程だ。

 何故なにゆえそんな遠い中学校に通うのか……。夢があったから?違う、夢なんてまだ決まっていない。将来有望だったから?違う、確かに私が通っていた中学校は偏差値もそこそこの金持ち学校だが私は秀でたものなんてない極普通の人間だ。魅力的な部活があったから?違う、私は歴とした正真正銘の帰宅部だ。とりあえず全部、九九パーセント殆ど違う!!私の中での理由はただ一つ!!「好きな人が行く学校だったから!」である!!「は?」と思った方も大勢いるであろう。安心してほしい、自信満々で何こんなこと言ってるんだろうと私自身でもそう思っている故。だが実際にそうなのだ。少なくとも私はこのような理由で志望学校を決めた人もいると思う。だって私がそうだし!!しょうがなくないか?!好きなんだもん!!私は電車に揺られながら心の中でそう言い訳をした。

 家に着く頃には私の顔はきっとぐちゃぐちゃの凄い顔になっているであろうが、そんなこと気にしている暇なんてない。

『おかえりなs……ってお嬢?!』

 聞き慣れたファミリーの声にまた涙腺が決壊する。

『……すぎな人に、ふられたぁぁ!!』

 そして私は三日三晩、熱を出して寝込んだのであった。

 その後、失輝とは高校が同じであったが関わりはなく、昂は成人して数年の時が過ぎた。その間、昂なりに垢抜あかぬけようと美容に気を遣ってみたり、髪を高く結い上げポニーテールにしてみたりと様々な努力をした。その甲斐かいか多くの男子生徒や女子生徒から人気を集めた、が……昂の心はぽっかり空いたまま、何か満たされないままだった。

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