胎内回帰ASMR自殺

葵流星

胎内回帰ASMR自殺

皆さんは、胎内回帰という言葉を知っているだろうか?

胎内、つまり、自分の母親の子宮内…お腹の中に帰りたいという欲求のことだ。


では、ASMRについて知っているだろうか?

ASMR、音声作品といえばわかるでしょうか?

正式名称は、Autonomous Sensory Meridian Response(自律的感覚絶頂反応)です。


では、自殺は?

説明するも何も自分から死ぬことです。


では、胎内回帰ASMR自殺はなんでしょうか?




今から、少し前…自殺マシーンが実用化された。

自殺マシーンは、政府公認のものであり、これにより自殺することができるようになった。

条件としては、非常に厳しいものではあるが、一般でも充分に使用できる基準ではある。

ようは、金銭的な条件が多い。

かくして、貧困層は旧来の自殺方法を使っている。


私?

ああ、私は天涯孤独になってしまった…。

歳は、言いたくないな…三十代か、四十代か、二十代か、十代…。

あなたと同い年だ、あなたが私の目の前に居るのだから。


なんで、自殺がしたいのかというと、『未来への不安』と『社会への報復』、あなたが選びたいほうのどちらかだ。

少なくとも、私は弱者男性である。

発達障害、金銭的な問題…甲斐性、あがり症など…おそらくどれかに当てはまるし、当てはまらなくても、グレイゾーンでも、あなたと同じ…。


なぜ、あなたと同じだって?

そりゃあ、あなたは自分の要素と照らし合わせて私を否定するからだ。

なんなら、女性でもそれ以外でもあなたと同じになる。

だから、あなたは私ではないことを否定できないし、私もあなたと違うことを否定できない、だから、あなたと『同じ』だ。


自殺マシーンの使い方は簡単だ。

書類とアレルギーチェックをした後、身体を洗い、全裸になって、薬品を投与され、マシーンの中に入る。

マシーンの中のローションのような液体の中に身を置き、次第に窒素により空気が吸えなくり、窒息する。

一体の処理方法は火葬、鳥葬、土葬などがあるが火葬の方が一般的である。


さらに言うと、ドナー割引というものがある。

これは、自身の臓器を死後に摘出し、提供する…。

普通の制度だが、上限として5000円は安くなる。

まあ、私は利用しないが…。


そして、死ぬまでのタイムラグがあるので、そこまでの間に音楽を聴くのが一般的である。

クラシックや、それこそ、心電図…ここで、でてくるのがASMRだ。


自分の生きていた人生ではない功績を残して、看取られるファンタジーASMRや、後輩、刑事などの様々なシチュエーションの看取られASMRがある。

余裕があるうちに、自分でどういうものにするか台本を書いたり、はたまた発売されているものを利用したり、それこそ、かつて生きていた声優の声を楽手データとして利用し、それを現役の声優さんに読んでもらい、AIにより調整を行ったASMRも作られている。


そして、私が選んだのが…『サキュバスママ胎内回帰ASMR』である。


狂気だろうか?


いやっ、これでいいんだ。


実の母親の胎内に帰りたくはない、そういう人、我々が行き着いたのが、それだった。


そこには、私が人生の最後に聞きたい言葉が詰まっている。

余談ではあるが、自殺マシーン内で宿尿や射精、その他体液の分泌があった場合、そして、火葬の場合は自殺マシーン内の潤滑油を薬剤によりゲル化、または硬化を行い、そのまま火葬場や、冷凍保管室に運ばれるため遺族に恥を晒すことはない。

それが、救いではあるが、私には死後の出来事だ。


「…お母さん…ママ…愛してる…。」


機械の中で、私はそうつぶやいた。

温かいローションの液体の中、私は海…気持ち悪いが羊水の中に居るような奇妙な安心感があった。


「お帰りなさい…。」


優しい声が耳元で囁かれる。


(ああ…気持ちがいい…)


そこで、性が果てるのか、生も果てるのか…。


そんな奇妙さに呆れ果てるような思考もなく、装置が停止した。


「お疲れ様でした」


従業員が私に声をかけた。


「どうでしたか?よく眠れましたか?」


私は、股関部のバツが悪そうに…。


「よく眠れそうです…。」


そう答えた。


本番までの予行演習…。


私は、自殺マシーンとほぼ同じ感触の『丸吞み体験マシーン』でそれを行った。


ああ、これで…いいんだと…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胎内回帰ASMR自殺 葵流星 @AoiRyusei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ