物語の構成など

 講談の「四国奇談 実説古狸合戦」、「古狸奇談 津田浦大決戦」、「古狸奇談 日開野弔合戦」が作られる前の阿波狸合戦の話としては、江戸時代に書かれた「近頃古狸珍説 礼義智信」、「古狸金長義勇珍説 乾」、「金長一生記」「四国奇談 実説古狸合戦」があります。


 「古狸金長義勇珍説 乾」と「金長一生記」には、金長の後を小鷹という狸が二代目金長となる、あるいはその途中までがまとめられています。


 徳島県立図書館のデジタルコレクションでは「近頃古狸珍説 礼義智信」(近頃古狸珍説 第九第十の17ページ)には、「編者の曰」の後に六右衛門に二匹の子狸がいて川島宅右衛門らとともに小鷹と戦ったらしきことと、その話は別にまとめられているらしきことが書かれているのですが、それがどこにあるかはわかりませんでした。


 ですので、「編者の曰」の部分が「古狸奇談 日開野弔合戦 第三回」(五一ページ)以降の話とどの程度変わっているかも見当がつきません。

 講談に登場する六右衛門の子は「鹿の子」と「千住太郎」なので、元の話があったとしてもかなり変更されているのは確かだと思えます。


 元の阿波狸合戦の筋書きどおりに始まって終わるという講談でもよかったのではないかと思うのですが、残った狸たちのその後が気になる終わり方ですし、狸合戦に登場する狸やそれ以外の狸の話にも面白い話があることから、小鷹が後を継いだ後の話も講談としてまとめられたようにも思えます。


 最終的に和睦で終わったのは、敗北した側も引き立てつつ手打ちとすることでなるべく差し引きゼロに近づけ、「八方丸く収めて」落ち着く形にしたからではないでしょうか。

 つまり、そうではない終わらせ方の話も考えられていたのではないかと思っています。


 誰が「古狸奇談 日開野弔合戦 第三回」(五一ページ)以降のような話にまとめたのか、知りたいところではあります。


 この講談本が出版された後の一九二二年(大正一一年)年に初出の「民族と歴史 第八巻 第一號」には、狸合戦の解説として「神田伯龍の口述に係るもの」として掲載されています。

 ここに出ている神田伯龍は、年代的に五代目の人物だと思われます。


 「民族と歴史 第八巻 第一號」が版を重ねる際に修正されているかどうかはわかりませんが、自分の見た本には「其の骨子丈けは阿波の口碑と大體(だいたい)に於て變(かわ)つて居らぬ。然し枝葉に渉る挿話などに至つては、全然作り話と見るより外はなかった」、「「古狸金長義勇珍説」といふ寫本(しゃほん)があるそうだが、筆者は未だ見たことがない。」とも書かれていました。


 講談に改めるにあたって他の講談や言い伝えが取り入れられているようですし、徳島で語り継がれていた狸合戦にも徳島の様々な話が取り入れられているのも確かなようで、元の話から変わったところの研究もされています。

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